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ハラ活と活ハラ──正しさと会話のあいだで

2026.6.5

まず最初に、これは絶対に伝えておきたい大前提です。ハラスメントという言葉によって、助けられた人はたくさんいます。それを決して軽視したり、曖昧にしたりしてはいけません。ハラスメントは、どんな理由があっても許されるものではありません。声をあげられずに苦しんでいる人を、私たちは絶対に見逃してはいけません。過去の痛みを、なかったことにしてもいけません。

そのうえで今回、お話を進めさせていただきます。
セクハラ、パワハラ、マタハラ、カスハラ──
それぞれに名前がついたことで、苦しみが「個人の問題」ではなく、「社会の問題」として認識されるようになりました。これは、社会の成熟において極めて重要で、価値ある変化です。そのうえで、いまの社会には、もうひとつの「見えにくい息苦しさ」があるようにも感じています。最近の暮らしを見渡すと、「◯活」で行動を促され、◯ハラで言葉を抑制される場面が、あまりに多くなってきたように感じます。まるで、私たちは「活動」と「配慮」の両面から、正しさだけで人生を設計されているかのようです。今回は、その部分にそっと考えてみたいと思います。

最近の暮らしを振り返ると、「◯活」と「◯ハラ」という言葉に、日々囲まれていることに気づきます。
「婚活してください」「妊活は早めに」「終活も考えておきましょう」──そんなふうに、人生の各段階ごとに「すべきこと」が丁寧に提示されるようになりました。(図1、図2、図3、図4)
一方で、「それはスメハラですね」「マルハラかもしれません」「それ、テクハラでは?」という言ってはいけないことリストも、日々更新されていきます。こうした言葉に日常を囲まれていると、人生がまるで「正解の行動リスト」と「地雷の一覧表」を渡されたゲームのように感じられてきます。提示されたリストをこなしながら、言葉選びに気をつけ、他人の感情を傷つけないよう慎重に動く──まるで、自分自身が「トラブルを起こさない製品」であることを求められているような感覚です。でも、そうやって丁寧に「整えられたはずの人生」の中で、なぜか「何かしっくりこない」「不良品なのではないか」という感覚が、逆に強まっている人が多いように感じるのです。


「◯活」という言葉には、「いまのあなたは、これをしているべきです」という含みがあります。
婚活、妊活、終活、保活、推し活──それぞれが、この時期のあるべき行動を教えてくれる、いわば「人生の進行表」のような役割を果たしているようにも思えます。一見、選択肢が広がったように見えますが、裏を返せば「やっていない人」が目立つ構造でもあります。終活していない高齢者、妊活していないカップル、婚活に疲れて立ち止まっている人、そうした活動しない人々は、「想定外のふるまい」として扱われてしまいます。「それって◯活じゃないの?」といった無邪気な言葉にも、なぜやっていないの?という問いが無意識に含まれていることがあります。「それをするのが正しい」と信じる善意こそが、別の生き方や、まだ決めきれない人にとっての沈黙や孤立を生んでしまう。正しさがあることで、それ以外が否定される空気が、じわじわと広がっていくのです。
冒頭でも述べたように、ハラスメントという言葉が社会にもたらした変化は、計り知れません。名前がついたことで、長く見えなかった苦しみがようやく可視化され、個人の痛みが「社会の問題」として共有されるようになったのです。これは本当に大きな意義であり、ハラスメントを見過ごしてはならないという認識は、今後も強く持ち続けなければなりません。私たちは、声を上げられなかった人の痛みを忘れてはなりませんし、ハラスメントを正当化する余地を与えてはなりません。

ここで問題にしたいのは、「ハラスメントという言葉」そのものではありません。問題なのは、名づけたことで対話が終わってしまうという場面が増えているのではないかということです。
「それは◯◯ハラです」と誰かが言った瞬間、場の空気が止まり、言葉のやりとりが凍りついてしまうことがあります。悪意がなかったとしても、その一言によって以後のやり取りが封じられ、その背後にあった思いや、すれ違いの理由がもう語られなくなってしまう──
そういう状況が増えているように思うのです。

誤解のないように繰り返しますが、ハラスメントは絶対に許されるべきではありません。
けれど、同時にこうも思います。「それ、どういうつもりで言ったのか?」と、立ち止まって尋ねることができる空気も、また必要なのではないかと。
正しさを示すラベルは人を守りますが、同時に、その正しさに言葉が届かない人や、語る前に躊躇する人を、会話の輪の外側に押し出してしまうこともあるのです。
しかしそのラベルが、次の対話や修復を不可能にする境界線になってしまっては、本来の目的とずれてしまいます。
本当に必要なのは、問題を指摘する言葉だけでなく、次のコミュニケーションを生み出す言葉や仕組みなのだと思います。


私たちは「言語化することで人を守ろう」と努力してきました。けれど、その過程で、話しづらさや息苦しさもまた、広がってしまったように思います。
「◯活しないと置いていかれそうで不安」
「◯ハラと言われたら、もう何も言えない気がする」
そんな声をも、耳にします。
本当はもっと曖昧で、もっと不完全なままでいられる空気があってもよいのではないでしょうか。正解を示すリストや、禁止事項を並べた注意書きよりも、「迷っても大丈夫」「わからなくても責められない」という柔らかさがほしい。
人は、いつも正しく活動できるわけではないし、誰かの言葉に、すぐに正しいラベルを貼れるほど、世界は単純ではないはずです。

活動しない自由について、もっと語ってもいいはずです。
「今、何してるの?」
「何もしていません」
こんなことも大切だと思います。
また、何かモヤっとした言葉に出会ったとき、
すぐに「それはハラスメントです」と切ってしまうのではなく、「それって、どういう気持ちで言ったの?」と聞いてみる時間が、もう少しだけ許されてもいいのではないでしょうか。
「語る前に立ち止まる自由」、「語らずにいる権利」、「語れないことがあるという理解」。
それらが社会に根づくことは、きっと次の成熟につながると思うのです。

社会包摂とは、「マニュアルを渡すこと」ではありません。それは、「どこにも当てはまらない人」もいることを理解しておくことだとおもいます。
「◯活していない人」
「◯ハラと名づけない人」
「何者でもない人」
正しさと会話のあいだに、もう少し余白を残しておくこと。その空白が、人と人とのあいだに生まれる理解の入口になると、私はおもいます。
いまの社会では、正しいふるまいが先に提示されることで、対話の余地が狭まり、曖昧な気持ちや、言葉にしきれない感情が置き去りにされがちかもしれません。正しさを追いかけることで、会話の可能性が閉ざされていかないよう、柔軟な会話の余地があってもいいんじゃないかと思います。


リーガル・デザイン・ディクショナリー

パワハラ防止法:
正式には2020年に施行された「労働施策総合推進法」の改正規定を指し、職場におけるパワーハラスメント防止措置を事業主に義務付けた法律である。パワハラとは、優越的な関係を背景として行われる言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害するものをいう。事業主は相談窓口の設置、迅速な事実確認、被害者の保護、再発防止措置などを講じなければならず、2022年からは中小企業にも適用されている。
(参考:厚生労働省「あかるい職場応援団」、https://www.no-harassment.mhlw.go.jp)

男女雇用機会均等法とセクハラ防止措置義務:
男女雇用機会均等法は、募集・採用、配置、昇進、教育訓練、定年・退職などの雇用管理において、性別を理由とする差別を禁止し、男女の均等な機会と待遇の確保を目的とする法律である。また、同法は職場におけるセクシュアルハラスメントの防止措置を事業主に義務付けている。事業主は相談窓口の設置、被害の申出への適切な対応、再発防止措置、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止などを行い、労働者が安心して働ける職場環境を整備しなければならない。
(参考:厚生労働省「雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために」、
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/danjokintou/index.html ) 

育児・介護休業法:
育児・介護休業法は、労働者が育児や家族の介護と仕事を両立できるよう支援することを目的とした法律である。労働者には育児休業や介護休業、子の看護等休暇、介護休暇、短時間勤務制度などを利用する権利が認められている。また、事業主には制度の周知や利用しやすい職場環境の整備、不利益取扱いの禁止などが義務付けられている。近年は法改正により、育児と仕事の両立支援や介護離職防止のための措置が強化されている。
(参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

公益通報者保護法:
公益通報者保護法は、企業や行政機関における法令違反行為を通報した労働者等を保護し、不正の早期発見と是正を図ることを目的とする法律である。公益通報を行ったことを理由として、解雇や降格、減給などの不利益な取扱いをすることは禁止されている。また、一定規模以上の事業者には、通報窓口の設置や通報者の秘密保持など、適切な内部通報体制の整備が義務付けられている。2022年の法改正により、事業者の義務や通報者保護が強化された。
(参考:e-Gov法令検索「公益通報者保護法」、https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000122

事なかれ主義:
問題や対立が生じた際に、その原因究明や解決よりも、問題を表面化させず穏便に済ませることを優先する考え方や態度をいう。組織においては、責任追及や業務負担の増加を避けるために、不正やハラスメント、事故の兆候などを見過ごしたり、問題の先送りをしたりする形で現れることがある。その結果、問題が深刻化し、組織への信頼低下や被害の拡大を招くおそれがあるため、適切な情報共有と迅速な対応が重要とされる。
(参考:小学館『デジタル大辞泉』「事勿れ主義」、https://kotobank.jp/word/事勿れ主義-503129

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