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01 社会包摂ってなんだかわかるような、、わからないような、、

2022.10.4

社会包摂って?
今更なんですが、社会包摂という言葉、わかりますでしょうか? 社会包摂デザイン・イニシアティブと名乗っているところからこんなコト聞くのも変なんですが、、。最近は少し耳にするようになってきましたが、まだまだ聞き慣れない言葉ですよね。

まずはお決まりで、ネット検索で辞書をみましょう。
包摂とは、Weblio によると

【包摂】
1_一定の範囲の中につつみ込むこと。「知識はその中に—されている」〈倉田・愛と認識との出発〉
2_論理学で、ある概念が、より一般的な概念につつみこまれること。特殊が普遍に従属する関係。例えば、動物という概念は生物という概念に包摂される。
となっています。

集合関係というよりも、大きく取りいれる、自分も含めて同じように取り入れる。また取りこむと言っても、そこに境界線ができ、排他的に内や外ができるわけではありません。バリアを取り除くという概念でもなく、弱者を助けると言う概念でもありません。何かをしてあげる、施す、助けてあげるという、マジョリティがマイノリティをのみこむ構図ではなさそうですね。

英語はインクルージョン
イギリスのソーシャル・インクルージョンは、弱いとされている人や不利な立場に置かれている人も含め、すべての市民ひとりひとりを、排除や摩擦、孤独や孤立からまもり、地域の一員として一緒に支えあう考え方のことです。社会的排除(wikipedia)の反対の概念であるとされています。

障害者や高齢者が抱える問題を調査していたフランスで、社会的排除という言葉は生まれたそうです。個人対個人の関係というよりも、社会のしくみや枠組みや考え方・一般常識とされるものが、個人を排除していた状況を指し、その位置を表現する概念でした。貧困問題や障害者対策など社会保障や福祉に関する政策の中で生まれてきた概念で、その社会的排除に対応する反対の言葉として、社会的包摂・社会包摂が生まれました。

一億総活躍国民会議では、「女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、 障害や難病のある方も、家庭で、職場で、地域で、あらゆる場で、誰もが活躍できる、いわば全員参加型の社会」と閣議決定しています。(何でも閣議決定すればいいというものでもないのですが)

また、

世界銀行は金融の観点における包摂を「ファイナンシャル・インクルージョンを、貧困や難民などに関わらず、誰もが取り残されることなく金融サービスにアクセスでき、金融サービスの恩恵を受けられるようにすることを意味する。」としています。

バリアフリーとユニバーサルデザイン

バリアフリーは、「物理的バリア・心理的バリア・情報的バリアなどを取り除く」ということです。
ユニバーサルデザインは、「そのままで最大限可能な限り、すべての人々に利用しやすい空間、製品、サービス、環境のデザイン」となっています。
どれも社会包摂と異なります。

福祉とデザイン

もう少し言葉を整理しておきます。
図1は「医療」の語源となった象形文字です。医療の「医」は、「巫が悪霊をはらうために矢を打つ様子」を表し、医療の「療」は、「シャーマンが鈴を振って、病気を治す様子」を示しています。「医療」とは、人が道具と方法で 病を取り除くことを示しているのです。それに対して、福祉の「福」はひもろぎ、おそなえもの、福祉の「祉」は、さいわい、帝のしあわせという意味です。つまり福祉は、上から誰かが施してくれるという意味をふくんでいるのです。

(図1)「医」「療」の象形文字

福祉は日本国憲法英語原稿で、GHQ サムス准将が言った「Social Welfare」の訳語として当てられたといわれています。

日本国憲法(*1)では以下のように、この社会福祉の部分が記されています。

第25条【生存権,国の社会的使命】
(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(2)国は、すべての生活で、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

「社会福祉」は「welfare」に対応する語がなかったために当てられた言葉で、「社会福祉」という用語が根付くまでは、「社会政策」「社会事業」などの用語が使われていたそうです。

「福祉」は、社会の人々が幸福に暮らせる生活環境、特にそのための社会的な制度などのことをいいます。

ちなみに「福利」は、人々の生活環境における幸福と利益のことです。「厚生」は、生活や身体などを豊かにすることだそうです。体を健やかに保つことは健康で、生活を豊かにすることが福祉という説明になります、、、。

ノーマライゼーション

その福祉と言うアプローチが日本で大きく変わったのが、1981年「国際障害者年」です。これをきっかけにノーマライゼーション(Normalization)という概念が認識され、さまざまな取り組みが広がりました。
ノーマライゼーションはデンマークのバンク=ミケルセン(参考書籍1,2)が知的障害者の取り組みを福祉社会省へ示した言葉で、「当然なことを当然に…」とういう考え方で、すべての人がもつ通常の生活を送る権利を可能な限り保障することを目標に社会福祉をすすめることとされていました。当時の日本で、どこまでこの概念が理解されていたかどうかは不明ですが、これにより福祉に関わる考え方やデザインが大切であるということが少しづつ広まっていきました。

参考書籍1 花村春樹、1998年、『「ノーマリゼーションの父」N・E・バンク-ミケルセン: その生涯と思想』、ミネルヴァ書房
参考書籍2 野村武夫、2004年、『ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク』、ミネルヴァ書房

デンマークにはバイキングのイメージがあります。バイキングは海賊のように扱われていますが、航海をしながら交易をして、農業や漁業をする人たちだったそうです。運命共同体として、航海中は個人を尊重し、みんな平等で、連帯を意識しており、全体合議制の社会だったともいわれています。さらに、デンマークには、ナチス・ドイツの侵入からの解放のためのレジスタンスの系譜などもあり、福祉国家として人々の行動の尊厳を大切にしてきました。

バンク=ミケルセンの考えをもとにしたデンマークの知的障害の対策(*2) は、隔離・治癒を目的とする施設や学校での保護にかわり、施設を小型化・分散化させ、それぞれの症状や生活ニーズに対応するようになっていきました。対応する人も医者から生活指導員になり、生活の質を高める考え方に変化していったそうです。

何を見るかどこから見るか 視座と視点

社会包摂では、例えば、上から命令される関係ではなく、対等かつ複数の関係性であったりする価値を再構築すること、一面的な部分の理解ではなく、一つの事柄をたくさんの方向から見ていくことや、その方法が重要になってきます。

新型コロナウイルスによって、私達の生活は大きく変容しました。収束後にもとに戻ることと、このまま変わらずに進んでいくことがあるでしょう。お金を稼ぐためのデザインだけでなく、幸せになるためのデザインの考え方の一つとして、社会包摂を考えていきたいと思います。

それから”デザイン”も、、

社会包摂がおわかりいただけたかどうかはわかりません。私もまだまだわかっていないと思います。そして、また、社会包摂デザインの”デザイン”も、とても複雑な背景を持つ言葉です。こういったことも含めて、半年間ぼちぼち考えていきますので、お付き合いください。


ミニアンケート

先週から引き続きアンケート実施中。以下からお答えください。


リーガル・デザイン・ディクショナリー

日本国憲法(*1) :

知的障害者福祉法(デンマーク)=ノーマライゼーション(*2):

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