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チャレンジとオフサイドとタイムアウト
さて、パリオリンピックも終了しました。男女の性別判定、急なルール改定、抗議料、採点基準など今回もルールや判定などで様々な議論がまいおこりました。この連載でも何度かスポーツのアプローチでも社会包摂のことをお話してきました。
私はスポーツを技術やスキルや作戦などの観点だけでなく、思想の表出でもあるオフサイド、タイムアウト、チャレンジ(判定・講義)、メンバーチェンジ、ポジション、ファウルペナルティ、開始と終了、審判などから読んでいくと、社会のあり方や社会包摂へのアプローチが見えてくるかもしれないと思っています。
スポーツは人間社会の縮図に例えられます特にフィジカルコンタクトを伴うスポーツは、個々の能力だけでなく、チームワークやフェアプレー、ルールの遵守が重要視されます。これらのスポーツは、社包摂的な社会をつくるためのメタファーとしても機能します。本稿では、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール、バスケットボール、水球というフィジカルコンタクトの強い六つのスポーツを例に、チャレンジ(VAR)、オフサイド、タイムアウトという三つの観点からみていきます。まず簡単にこれらをまとめたものが表−1です。ただし、同じスポーツでも大会ごとやプロとアマなどで異なりますので、あくまで1例としてご寛容ください。
| スポーツ | 発祥の国 | オフサイド | チャレンジ(VAR) | タイムアウト |
| サッカー | イングランド | ボールが前方にパスされた際、オフサイドポジションにいるプレイヤー | ゴール、ペナルティ、レッドカード、誤認識のレビューに使用されるVAR 主審の判断で最大3回まで確認可能 | なし |
| ラグビー | イングランド | オープンプレーでオフサイド、プレイヤーはボールの後ろにいる必要がある | トライや危険なプレーをレビューするためのTMO(テレビ・マッチ・オフィシャル) TMOの使用は主審の判断に依存 | なし |
| アメリカンフットボール | アメリカ合衆国 | ボールがスナップされる前にプレイヤーがスクリメージラインを越えるとオフサイド | インスタントリプレー。コーチが判定に異議を唱えることができ、制限付きでチャレンジ可能 各チームハーフごとに2回まで | ハーフごとに3回、1回のタイムアウトは2分間 |
| バスケットボール | アメリカ合衆国 | なし | 特定の状況で使用可能なコーチのチャレンジ 1試合に1回 | 1試合に6回まで、1回のタイムアウトは75秒 |
| ハンドボール | ドイツ・デンマーク | なし | なし | 1試合に2回まで、1回のタイムアウトは1分間 |
| 水球 | イングランド | なし | なし | 1試合に3回まで、1回のタイムアウトは1分間 |
| チャレンジに失敗すると1回減る。成功すると減らない。というのが大体のパタン |
サッカーは、世界中で親しまれているスポーツであり、シンプルなルールとダイナミックな展開が特徴です。しかし、試合中にはしばしばデリケートな判定が必要となります。その代表的なものがオフサイドです。オフサイドは、攻撃側がディフェンダーの後で待ち伏せ状態になることを防ぎ、ゲームを保つための重要なルールです。
一方、近年導入されたVAR(ビデオアシスタントレフェリー)は、審判の判定を補助し、より公平な試合運営を目指すものです。いわゆるチャレンジとは異なり、サッカーでは常にVARが見ているのです。いわゆる”三笘の3ミリ”で話題になったあれです。しかし、VARの導入によって、サッカーの楽しさが損なわれるという意見や、技術による人間の判断への過干渉を懸念する声もあります。
ラグビーは、強力なフィジカルコンタクトと戦術的なプレーが求められるスポーツです。ラグビーでのビデオ判定は、TMO(テレビ・マッチ・オフィシャル)といわれ、トライの判定や危険なプレイの確認に用いられ、公平さと選手の安全を確保するためのものです。ラグビーはそもそも前にボールを投げることができないので、ボールを持った人が先頭の攻撃者になるので、プレイヤーは常にその人より後ろにいることになります。プレーの状況により、オフサイドラインは変わりかなりややこしいので詳細は割愛しますが、オフサイドは様々なルールに基づき居てはいけない場所でプレーをした場合の反則ということになります。
また、ラグビーやサッカーには、試合の途中でチームが任意に時間を止めるいわゆる作戦タイム的なタイムアウトは存在しません。しかし、インジュリータイムやTMO(テレビ・マッチ・オフィシャル)による判定確認など、試合中に短い中断が発生することがあります。その間にチームが戦術を指示する機会ともなります。水分補給なども行われます。オフプレーの時間は(もちろん常識の範囲内ですが)どうやら何をしても良さそうな感じで、これらの中断は、試合の流れを変える重要なタイミングになるときもあります。
アメリカンフットボールでは、ご存知のようにフィジカルコンタクトの激しさが強烈でかつ、戦術的なプレーが重視されます。そんなアメフトでは、インスタントリプレーといって、コーチが判定に異議を唱えることができます。ヘッドコーチによるチャレンジは最大2回で、成功した場合はチームタイムアウトは減りません。しかし、失敗した場合はチームタイムアウトが1回減り、2回失敗でチャレンジの権利を失います。
また、アメリカンフットボールにはライン・オブ・スクリメージという仮想のラインがあり、これを越えるとオフサイドになります。スクリメージライン上にボールが配置され、そのボールが動いたタイミングで攻撃がスタートとなります。クリメージラインは幅約29センチあり、ニュートラルゾーンと呼ばれています。ニュートラルゾーンには、プレイが開始されるまでオフェンスの選手もディフェンスの選手もその空間に入ってはいけないのです。もし、プレイより前に侵入してしまった場合は、オフサイドの反則が適用されるのです
ハンドボールとバスケットボールには、オフサイドがありません。チャレンジの仕組みも殆ど無いと言っていいでしょう。しかし、サッカーやラグビーにないタイムアウトは取ることとができます。サッカーとは異なり、バスケットボールはたくさんの点が入ります。歴史的な経緯を踏まえた試合としてどう成り立たせようかというところが、このようなルールの差になるのかもしれません
最後にこれらスポーツのルールの概念と社会包摂の関係を私なりに考えてみます
オフサイド
オフサイドは、社会における法律や規範、さらには社会文化的なアプローチと見なすことができるかもしれません。スポーツ=戦いとはいえ相手の陣地対する考え方やニュートラルゾーンの考え方などこれからももっと私達は考えていく価値があるかもしれません。秩序のデザインの考え方の一つと言えます。社会の中では、さまざまな「境界」や「ルール」が存在し、これらが秩序を維持するために機能しています。オフサイドが守られることで、制限がありながらゲームが秩序立って進行して、公平な競争がおこります。同様に、社会においても、規範やルールが守られることで、秩序が維持され、すべての個人が公平に扱われる環境が整います。
個々の自由や権利が他者の権利と衝突しないようにするためのルールも、オフサイドの概念とにているのかもしれません。
チャレンジ
チャレンジやVARはスポーツルールにおける公平性と権利の行使を象徴するものとして理解できます。一般社会でも、ルールや法の下で個人や集団が自らの権利を主張し、正当な手続きを経てその権利を守ることができます。チャレンジは、判断に対して異議を唱え、その真偽を追求するための手段となります。現在では技術(例えばVAR)の裏付けによりこれがひろがり、より正しいプロセスが反映されました。デジタル社会における公平性や透明性の問題とも関連づけて考えることができると思います。
現代社会では、司法制度や行政プロセスにおいて、可視化や異議申し立てや再審査の権利が保障されていることが、民主的な社会の基盤となります。チャレンジやVARのようなシステムは、社会全体における正当な異議の尊重と、透明性のある判断プロセスの必要性を示唆しています。そしてまた最新技術と法整備や倫理との関係も今後の大きな課題でしょう。
タイムアウト
タイムアウトは、リフレクション(反省)や対話、再評価、指示(ディレクション)と捉えることもできます。また、肉体的な休憩でもありますし、心理的な側面も大きいです。組織やコミュニティが定期的に立ち止まり、状況を評価し、新たな方針を検討することが大切です。タイムアウトのような時間を設けることで、コミュニケーションの機会が生まれ、異なる立場や意見を持つ人々が理解し合うきっかけとなります。また不安であったり、考えられ得なくなった状況をコーチからの指示で持ち直すということも大きな役割です。
社会においても、特定のプロジェクトや政策、あるいは個々のキャリアにおいて、戦略の再評価やリフレクションが必要です。明確なこういった時間を設けるのか、進めながら考えていくのか、個々や組織がより良い選択を行いための方法も様々であることがわかります。様々なスポーツのタイムアウトの概念をみることで、プロセスのデザインにつながっていくと思います
チャレンジ(VAR)、オフサイド、タイムアウトは、それぞれスポーツにおいて重要な役割を果たす要素ですが、これらは対立が発生したときの社会の秩序、対話を考えるきっかけしなるかもしれません。これらの概念はスポーツの枠を超え、社会の運営や個人の行動にも深い影響を与えるともいえます。スポーツにおけるこれらの要素を考えることで、社会全体においてもより公平で秩序ある、そして対話を重視したアプローチを考えるために、スポーツの作られ方=ルールの考え方を視みんなで考えていくことは、社会を考える上で一つの方法になるかもしれません。