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アメリカ大統領選挙の課題
2024年11月5日には、次期アメリカ大統領が決定される予定です。このアメリカ大統領選挙は、単なる一国の政権選択に留まらず、現代社会が抱える複雑な課題を考える機会でもあります。特に、選挙制度の複雑さやそれがもたらす社会的影響について、私たちはより深く理解することが重要です。今回は、アメリカ大統領選挙(図1、図2)を社会包摂の観点から検討し、その課題を考えていきたいと思います。

(図−1)大統領選からアメリカを知るための57章/越智道雄(著)・明石書店

(図−2)アメリカ大統領選/久保文明,金成隆一(著)・岩波書店
まず、アメリカ大統領選挙の中核を成す選挙人制度の歴史的背景を見てみます。この制度は非常に複雑でありながら、アメリカの政治において欠かせない役割を果たしてきました。
この選挙人制度は、1787年に制定されたアメリカ合衆国憲法に基づいています。当時のアメリカは13の州が連合して誕生したばかりの国家で、それぞれの州が大きな独立性を持っていました。合衆国憲法の思想は、中央政府の強力な統治を避けつつ、同時に国家としての一体感を持たせることを目指したそうです。その結果として生まれたのが、州ごとに大統領を選出する選挙人を選ぶ制度だったといわれています。
選挙人制度は、国民が直接大統領を選ぶのではなく、各州ごとに選出された「選挙人」の票によって決定されます。この制度の背景には、当時のアメリカの地理的な広がりや、限られた情報伝達方法、識字率、そして多様な州の利害関係もあったといわれています。当時は通信手段が発達しておらず、国全体の意志を一度に集約することは難しかったため、各州に一定の自治を持たせつつ、選挙人による間接的な選出が合理的と考えられたそうです。
また、憲法を決めたとき、都市と農村部の間のバランスも重視しました。特に、人口が少ない州や農村部が大都市に圧倒されることを防ぐために、各州に一定数の選挙人票が割り当てられることで、影響力を均衡させる狙いがあるようです。これにより、人口の少ない州でも一定の影響力を持つことができ、全国的な選挙運動がより広範囲に行われることを意図していました。
しかし、選挙人制度は現代においていくつかの課題を抱えています。例えば、2000年の大統領選挙では、ジョージ・W・ブッシュ氏が選挙人票で勝利したものの、全国的な得票数ではアル・ゴア氏が上回っていました。結果として、得票数で負けた候補が大統領となる事態が生じ、選挙制度の公平性に対する疑問が浮上しました。また、2016年の選挙では、ドナルド・トランプ氏が選挙人票で勝利したものの、ヒラリー・クリントン氏が全国で300万票以上多くの票を得ていました。これらの事例は、制度が必ずしも国民の意思を正確に反映していないことを示しており、民主主義の根幹を考える課題ともなっています。
コロンビア特別区とほとんどの48州では、その州で勝った候補者が、選挙人票を全て獲得する勝者総取り方式を採用しています。ネブラスカ州とメーン州は、選挙人票を候補者に割り当てる仕組みを採用しています。その選挙人を選ぶのは州の各政党です。各州が持つ選挙人の数は、州の下院議員の議席数に2人を加えたもので、この2人は各州に割り当てられている上院の議席数にあたります。ですので、各政党が選んだ選挙人ですが、ネブラスカ州とメーン州以外は、勝者総取り方式ですので、選挙人は自分を選んだ政党(自分の所属する政党)以外の候補者に投票しなければなりません。極稀に、州の選挙結果に従わない「不誠実な選挙人」もいるそうですが、アメリカの民主主義では、ほとんどすべての選挙人が投票結果に従い投票するそうです。ちなみに、メーン州は選挙人が4人で、このうち2人は州の勝者が獲得します。残りの2人は州内に2つある下院議員の選挙区ごとに勝った候補が1人ずつ獲得します。2つの選挙区ともで敗れた人が州全体の勝者になることはないので、メーン州の配分は4:0か3:1になります。ネブラスカ州も同じように選挙人5人のうち、2人が州全体の勝者に、残りの3人は3つの下院議員の選挙区ごとの勝者が獲得します。
選挙人制度の問題点はこれだけではありません。大規模な州と小規模な州との間で選挙人票の影響力に不均衡が生じることも問題視されています。例えば、カリフォルニア州のような人口が多い州では、1人あたりの選挙人票の価値が小さくなり、一方でワイオミング州のような人口の少ない州では、1人あたりの選挙人票の価値が相対的に大きくなります。いわゆる一票の格差問題です。これは、州ごとの影響力に違いが生じる結果となり、全体の公平性に疑問を投げかけています。
選挙人以外でも、各州はそれぞれ独自の選挙ルールや手続きを持っており、投票方法や投票用紙のデザイン、期日前投票や郵便投票の規則などが様々なことが州によって異なります。このため、選挙の実施に統一性が欠け、特に接戦州では混乱を招く要因ともなっています。
また、アメリカの選挙は長期にわたるプロセスであり、予備選挙から始まり、党の全国大会、一般選挙、そして最終的な選挙人による投票まで、複数のステップがあります。さらに、各ステップごとに異なる日程や手続きがあり、全体像を把握するのが難しいと感じられます。
次に、選挙区の問題、特にゲリマンダーに関連する問題を見てみましょう。ゲリマンダーとは、特定の政党や候補者に有利になるよう、選挙区の区割りを意図的に操作する行為を指します。これは、意図的に特定の有権者集団を選挙区内に集中させたり、分散させたりすることで、選挙結果を意図的に歪める行為です。たとえば、ある地域で少数派の政党支持者を複数の選挙区に分散させることで、その影響力を希釈し、選挙結果にほとんど影響を及ぼさないようにする方法のことです。
2012年の下院議員選挙では、民主党の総得票数は5336万7021票で共和党の5180万6860票を大きく上回りましたが、獲得議席は民主党が201議席、共和党が234議席となりました。これは、共和党がゲリマンダーを通じて選挙区を操作し、少数の票で多くの議席を獲得することに成功したためです。また、2010年の国勢調査に基づく選挙区の再編成では、特に共和党が州議会を支配する州でゲリマンダーが広く行われました。この結果、共和党が優位な選挙区が多く作られたからだと捉えられています。
ゲリマンダーの問題は、選挙の公平性と正当性を大きく損なうもので、特定の政党が優位になるように選挙区を操作することで、有権者の意思が正確に反映されず、民主主義の基本原則である「一人一票」の価値が失われるリスクがあります。
こうした問題を解決するためには、選挙制度の改革が必要です。選挙人制度の見直しやゲリマンダーの防止策として、独立した非政治的機関による選挙区再編成が求められます。アメリカでは10年ごとに国政調査に基づき選挙区が見直されるそうですが、そのたびに新たな問題も出ているようです。
選挙人制度やゲリマンダーの改革は、長期的な視点から行われるべきで、単なる技術的な解決策にとどまらず、社会全体の構造的な変革を考える必要があります。社会的包摂を実現するためには、多様な声が反映されるような制度設計が不可欠です。トランジションデザインという考え方があります。これは、社会的・環境的・経済的な大規模な変革を目指すデザインアプローチであり、持続可能な社会変革を促進するための手法です。
アメリカの選挙は日本とは異なる仕組みですが、逆に自分ごとではない分、社会や選挙の仕組みを考えるいい機会であると思っています。つまり、アメリカ大統領選挙は、民主主義の原点に立ち返り、アメリカ以外の人々もその制度を再評価するための重要な機会と考えます。この選挙を通じて、私たちは社会全体が目指すべき未来のビジョンを明確にし、それに向けたシステム改革を進めるための方法が求められています。未来志向の社会を実現するためには、過去の伝統を尊重しつつも、現代社会に適応した新たなアプローチを取り入れることが不可欠なのです。しかし、仕組みを変えていくことは容易ではなく、特にトランジションデザイン、移行のための方法をデザインしていくことが重要と言われています。
今回の選挙の結果、新たな分断が生まれないことを祈っています。