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/ 2024.1.25

2023年12月14日開催 映画『隣る人』上映& 刀川和也監督トークセッション 〜創設から40年、ある児童養護施設の現場から 「これまで」の何を守り、「これから」なにを変えていくのか〜 報告

「未来の児童養護施設のデザイン」プロジェクト

埼玉県の児童養護施設「光の子どもの家」を舞台として、「未来の児童養護施設は、どのような形が望ましいのか」について、子どもたち、施設職員、地域住民など様々な関係者との対話ワークショップを通して考えようというプロジェクトです。
刀川和也監督が2003 年~2011 年の8 年間をかけて「光の子どもの家」で撮影し、制作したドキュメンタリー映画『 隣る人』を通して、「本当の意味での子どもたちのための、子どもたちの施設とは何か」を考えます。
DIDI や学内の専門の教員らと協働し、施設・空間を検討することを目的としたデザインワークショップを企画し、共に場を生み出す者として包摂的に関われる雰囲気が自然に生まれるような、施設の運営の方針や改修・改築デザインの方針を明確化していきます。

映画フライヤー画像提供:刀川和也氏(『隣る人』上映事務局、本作監督)

映画『隣る人』上映& 刀川和也監督トークセッション

ドキュメンタリー映画『隣る人』の上映後、刀川和也監督が映画の舞台である児童養護施設「光の子どもの家」について話しました。

「光の子どもの家」は1985 年に「本当の意味での子どものための、子どもの施設をつくろう」という理念で創設。当時の児童養護施設は大規模型が主流であった中、地域化・分散化・小規模化を目指しており、「家庭的処遇」を重視したその一例として「子どもたちは、自分たちで選んだ食器を使っていた」というエピソードが紹介されました。「家庭の当たり前の日常」を失った子どもたちにとって、そうした一つひとつの「暮らし」が大切であることを、撮影開始当初の刀川監督は気づかず、「こんな日常風景だけを撮っていて映画になるの?」と思っていたそうです。その思いを、友人である稲塚由美子さん(ミステリー小説評論家)に映像を見せて相談したところ、
「これ、すごいね。保育士さんが子どもに絵本を読んであげたり、冬の寒い日に手にクリームを塗ってあげたり。子どもたちというのは、こういうもので生きているんじゃないの? 一個一個の日常のにおいや、食事を一緒にする、そういう日常の些細なこと、これが宝物じゃないの?」
と言われ、それをきっかけに「日常」の意味の大きさが分かったと話します。その後、稲塚さんとは本作を共同制作していくことになったそうです。

8 年間で撮影した約600 時間の映像を最終的に映画として編集する際、朝起きてから夜寝るまでという1 日の時間の流れが何日間かあるように、時間の中にシーンを組み込んで、「暮らし」の時間を感じられる構成にしたという制作過程も語られました。

また、撮影当時と現在との社会の違い、特に施設職員の労働形態の変化や、働き手の確保の困難さについて触れ、未来の児童養護施設の在り方を考える問題提起をされました。それを受けて田上先生は「建物などの環境と、人と、そこで行うプログラムがセットなので、表面上だけでは見えないものをどうやって見抜いていくかということが重要になる」と話しました。



さらに質疑応答では、参加者からの
「インクルーシブやダイバーシティが叫ばれる世の中になってきているはずなのに、社会が寛容性を失っているようにも感じる。何か考え方のヒントはありますか」という問いかけに対し、
刀川監督は
「地域と関わりつつ、変に迎合するでもなく、大事だと思っていることは大事だと一生懸命語りながら、でも、“ 今のことは分からない” という視線を持つこと。“ 私たち年長者は現代のことは分からないので、若い皆さん、教えてください” という謙虚さが大切」と答えていました。

情報

講師

刀川 和也(たちかわ かずや)

アジアプレス・インターナショナル所属。フリーの映像ジャーナリストとして、2001年から2002年にかけて、アフガニスタン空爆の被害を取材、テレビなどで発表。その後は主に、国内及び東南アジアでカメラマン、取材ディレクターとしてテレビドキュメンタリー制作に携わる。述べ8年に渡る撮影を経て『隣る人』を完成させた。本作が初監督作品。

参加者

27名

場所

九州大学大橋キャンパス
デザインコモン2階

日時

2023年12月14日(木)15:00〜18:00

参加費

無料

担当教員

田上 健一(たのうえ けんいち)

九州大学大学院芸術工学研究院環境設計部門教授。副理事/芸術工学研究院・副研究院長。博士(工業・東京大学)。住宅をはじめとして教育・文化・医療施設など、日常生活に不可欠な建築のデザイン計画が専門。特に、人間と環境が相互に浸透し合う個性的で魅力的な空間の実現方法を、ユーザーの視点に立脚して考えている。建築や地域のデザイン(調査・企画・計画・設計)に携わる専門家の養成が主目標。

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