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06 合理的配慮!? 積極的理解と対応

2022.11.8

合理的配慮
皆さん、”合理的配慮”という言葉はご存知でしょうか。

例えば、市役所などの公共施設において、障害があることを理由にサービスを享受できなくなったりしないよう、障害者の特性や個別事情に応じた「合理的配慮」の提供を行政機関に義務付けることが、2016年の障害者差別解消法により定められました。民間事業者による提供については努力義務とされていましたが、2021年5月に同法の一部改正が可決され、改正法施行後は一律に合理的配慮が義務づけられることとなります。

障害者権利条約
法律の元になった「障害者権利条約」では以下の定義となっています。

第二条 定義
「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。(障害者権利条約条文(和文)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000018093.pdf

障害者差別解消法
障害者差別解消法ではより具体的に合理的配慮について決められています。第1章(総則(国民の責務))第5条では「行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。」、また、第3章(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)第7条第2項では「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」と定められています。

これらの条文は、事業者、行政、障害者などの当事者間で「対話→調整→合意」を行い、合理的配慮の内容を決めることを義務付けるものです。
しかし、具体的に方法が決められているわけではなく、当事者間の調整という曖昧な書き方に留まっていることもあり、現場で対応できるのかが懸念されているところです。

障害者の定義
そもそも「障害者差別解消法」自体がそれほど認知されていないという現実もあります。そこで、「障害者差別解消法」第2条から「障害者」の定義を確認してみたいと思います。

「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」

身体障害だけでなく、知的、精神、発達、その他の心身まで含めて幅広く定義されていることは今やあたりまえに思われるかもしれません。ですが、ここで注目したいのは、物理的障壁だけではなく「社会的障壁」が問題であると法律に明記されていることです。同法では、社会的障壁が以下のように定義されています。

「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」

“制度、慣行、観念その他一切を含めた障壁”と幅広い対象が、取り除かれるべきとされています。その背景には、当事者にとっての不利益や不便さが生み出される原因は、障害者当事者の病気や障害というよりは、社会が作り出した障壁であるため、それを社会全体で取り除かなければならないという「障害の社会モデル」の考え方があります。以下の、公益財団法人 日本ケアフィット共育機構(https://www.carefit.org/social_model/)の「社会的障壁とは」という説明に具体的な例が挙げられているので、参考にしてみて下さい。

出典)公益財団法人 日本ケアフィット共育機構(https://www.carefit.org/social_model/)

ADA法
合理的配慮が生み出されたそもそもの経緯を、少し掘り下げておきましょう(以下の説明については、長谷川珠子「アメリカにおける「合理的配慮」について」を参照)。合理的配慮(Reasonable accommodation)という概念が今のような仕方で規定されたのは、ADA法(障害をもつアメリカ人法、Americans with Disabilities Act)からだと言われています。

この言葉は、もともとは宗教差別に対する配慮に端を発します。1964 年に定められた公民権法で、人種、皮膚の色、宗教、性または出身国を理由とする雇用における差別は全面禁止されました。しかしながら、例えば安息日(休日)が宗教上の戒律と使用者側の考えや方針と合わない場合など、宗教については交渉が必要な問題が多くありました。

そこで、同法の1972 年改正の際に取り入れられた概念が「合理的配慮」です。すなわち、使用者の過度の負担 (undue hardship) にならない範囲で、労働者の宗教上の理由による休日の調整などの「合理的な配慮」を提供 (reasonable accommodate) しないことは、違法な宗教差別に相当すると認められました。いわば、労使双方で話し合って、安息日(休日)を決めましょうというものです。この考え方がADA法に繋がりました。

1990年7月にADA法が制定された背景には、障害者の能力を認めず、見せかけの善意で表層的なところを取り繕うことで、差別そのものや差別の本質を隠している現状を問題視する主張もありました。また、単純な福祉(ほどこし)の政策プログラムを提供するコストが大きくなる中で、障害者もどんどん社会に参加し、アメリカの生産や消費、発展に貢献してもらう必要が生じたという切実な国家背景もあったようです。

このような背景もあって、合理的配慮には、行政機関に支援(サービス)に対応する力があるかどうかを含め、その内容や基準の判断を当事者同士で対話、調整するという柔軟な対応が求められることとなりました。具体的には、「障害の特性、具体的場面や状況」への多様性や個別性を高く要求する点、「建設的対話による相互理解」に基づく点、それでありながら「過重な負担のない、必要かつ合理的」な範囲での配慮としている点です。通常の行政的手続きの制度では、要綱を作成し、要件を事細かく決め、国や自治体の方針や方法を示し、それに従って処理することが義務付けられますが、合理的配慮の場合は大きく異なることが分かります。

それでは、「過重な負担」とは何でしょうか。これはたびたび論点となっています。文部科学省の通知によれば、合理的配慮の「過重な負担」を判断する上で考慮すべき要素として、「事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能と合致するか)」、「実現可能性の程度」、「費用・負担の程度」、「事務・事業規模」、「財政・財務状況」があげられています。しかしながら、これらの定義を盾にして「経済的合理性に基づく施し」をするのでは合理的ではありません。あくまでも「互いに理解し合う積極的対応」という本来の目的に合った結論を目指すことが重要です。

積極的理解と対応
「合理的配慮」という言葉の字面だけを読むと、「コストパフォーマンスのいい便宜」「表面的な思いやり」といったニュアンスを連想するかもしれません。確かに、合理的と言う日本語は、なにか心のない四角四面な対応といった語感があるのですが、実は「合理的」(Reasonable) という言葉には「自分にとっても他者にとっても、理に適った」というニュアンスが含まれているのです。

障害や福祉に関わる言葉は、海外から輸入された言葉や概念が多く、日本語の場合、翻訳・漢字のニュアンスで捉えられ方が大きく異なってしまうことがあります。合理的配慮という訳語も「積極的理解と対応」ぐらいが、正しいニュアンスなのではないかと思います。

建設的対話
また、今回もたびたび出てきた「建設的対話」も、ニュアンスは間違いないと思いますが、お役所的な固いイメージが残ります。その具体的な意味は「現状をより良くしようと積極的な態度で互いの理解が進むように尊重し合い話すこと」です。対話は、会話とはもちろん違いますし、ディスカッション(議論)やディベート(討論)とも大きく異なります。なぜ対話が必要かと言うと、「それぞれの置かれた立場が違うため」、「それぞれが持つ感情や欲求が違うため」、「これまでの習慣や文化の違いがあるため」、「個人の意識は常に変化するため」です。

障害には社会モデルと個人モデル(医学モデル)という考え方がありますが、それは障害のある方に限らず、私たち全ての人々に当てはめて考えることができるのではないでしょうか。生きづらさをもたらす障壁を無くしていくために双方向的な対話をしていく必要があるのです。

ピアサポーター
ピアサポーターという言葉も、最近よく使われはじめています。「同じような立場や課題に直面する人がお互いに支え合うこと、peer support」なのですが、こちらもうまく伝わっているかどうかわかりません。

男女共同参画
最後にもう一つだけ、男女共同参画も実は Gender equality(男女平等)がもとの英語です。
男女共同参画社会基本法の法令名(英語)は、 Basic Act for Gender Equal Society なのですが、
「共同」にしても「参画」にしても「?」がいくつも付くような翻訳です。

概念を正しく示す表現を考えることも、社会包摂デザインの重要な役割ではないかと私は考えます。

DPI日本会議編(2016)『合理的配慮、差別的取扱いとは何か――障害者差別解消法・雇用促進法の使い方――』解放出版社(左)
DPI日本会議編(2017)『障害者が街を歩けば差別に当たる?!――当事者がつくる差別解消法ガイドライン』現代書館(中央)
川島聡・飯野由里子・西倉実季・星加良司(2016)『合理的配慮――対話を開く、対話が拓く』有斐閣(右)




リーガル・デザイン・ディクショナリー

男女共同参画
男女共同参画社会基本法第2条で「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」と定義されています。
(内閣府男女共同参画局、https://www.gender.go.jp/about_danjo/society/index.html

ADA法(ADA National Network、https://adata.org/learn-about-ada

建設的対話
精神医療の現場でも、フィンランド発の「オープン・ダイアローグ」などの対話的な実践が見られています。

身体障害者福祉法
知的障害者福祉法(旧:精神薄弱者福祉法):
それぞれ1949年、1960年に制定され、かつては福祉国家全盛期には「保護」を名目としてコロニーと呼ばれる大規模施設への収容(実質的な「隔離」)を推進する根拠とされました。その後、国際障害者年(1981年)の前後に「自立」という言葉が障害者の福祉政策に取り入れられるようになります。

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