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感染症の分類と果物の規格
感染症とは、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫などの病原体が体内に侵入し、増殖することによって発症する疾患の総称です。感染症は、病原体の種類や感染経路、発症の重症度によって多様な形態を取ります。昨今の特徴は、一つの病気が一部の地域で流行するだけでなく、グローバルに広がる可能性がある点です。たとえば、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、地域・国・文化を超えてパンデミックを引き起こしました。これらの感染症は、個人の健康にとどまらず、医療体制や経済活動、日常生活全般に多大な影響を与えるため、早期の発見と適切な対策が重要です。感染症はまた、感染経路によって分類されることが多く、飛沫感染、接触感染、空気感染などが知られています。このような分類は、病原体の拡散を防ぐための具体的な手段を講じる際の基盤となります。(図1)

(図ー1)文系のための東大の先生が教える 免疫と感染症/石井健(監修)・ニュートンプレス
なぜ感染症の分類が必要なのでしょうか
感染症の分類は、公衆衛生政策を策定する上で不可欠な要素です。分類することで、特定の感染症が社会や医療システムにどのような影響を与えるかを明確にし、リソース配分や対応策を効率的に決定することができます。たとえば、1類感染症(エボラ出血熱など)は致死率が高く、早急な隔離と医療体制の構築が必要です。一方で、5類感染症(インフルエンザなど)は、患者数が多いものの重症化率は比較的低く、広範囲な監視と予防接種の推進が求められます。また、感染症の分類は医療機関や自治体が行動計画を策定する際の基準ともなります。分類がなければ、適切な優先順位がつけられず、医療資源の無駄や感染拡大のリスクが高まります。さらに、感染症の分類は市民の意識向上にも寄与します。分類によって示されるリスクレベルを理解することで、公衆の総利益の拡大を考えながら、トリアージし、私達は予防策を積極的に講じることが可能になります。
風邪がなぜ5類の分類になったか
日本政府は、2025年度から風邪を感染症法上の5類に分類することを決定しました。この背景には、新たな呼吸器感染症の早期発見と対応を目的とした政策があります。風邪は従来、特定の病原体が原因ではなく、さまざまなウイルスや細菌によって引き起こされる症状の総称として位置付けられていました。しかし、急性呼吸器感染症として分類することで、その発生状況を監視し、未知の感染症を早期に検出する仕組みが整備されます。また、この決定により、風邪を予防するためのワクチン開発が進む可能性もあります。一方で、パブリックコメントでは「医療機関の負担が増える」や「過剰な監視が懸念される」などの反対意見も寄せられました。それでも、風邪を5類に分類することで、感染症全体の監視体制が強化される点は注目に値します。この政策は、感染症に対する予防医学の推進と、新たな公衆衛生戦略の一環として位置付けられます。
果物はなぜ分類するか
果物の分類は、流通や消費の効率化を図る上で欠かせない要素です。日本では、果物や野菜はJA(農協)などの機関によって細かく規格が設定され、色、形、大きさ、重量、傷の有無などの基準に基づいて大変細かい等級が決められます。たとえば、柿の場合、色が均一であることや形が整っていることが上位等級の条件とされます。このような分類は、市場での販売価格や消費者の購買意欲に直結するため、生産者にとって重要な意味を持ちます。しかし、これには課題もあります。外見的な基準を重視するあまり、味や栄養価に問題がない果物が「規格外」として廃棄されるケースが多いのです。分類による品質の標準化は一定の利便性を提供しますが、規格外品の発生が食品ロスを助長する一因となっている現状も見逃せません。(図2)

(図ー2)基礎からわかる農協法/朋田作(監修)、阿部四郎(著)・日本農業新聞
柿の分類は、日本の農業における規格化の典型的な例です。柿は色、形、大きさに基づいて等級分けされ、「秀品」「優品」「規格外」のようにランク付けされます。秀品は市場で高値で取引される一方、規格外品は流通に乗らない場合が多く、廃棄されることもあります。しかし、規格外の柿も味や栄養価に問題がないことがほとんどです。一部の地域では、規格外の柿を活用する取り組みが進んでいます。たとえば、規格外品を加工して干し柿やジャムにすることで、新たな市場を開拓する事例があります。これにより、食品ロスを削減し、生産者の収益を向上させる可能性が生まれます。柿の事例は、規格や分類が持つ利便性と課題を浮き彫りにし、それらを柔軟に見直す必要性を示しています。(図3)

(図ー3)産廃Gメンが見た 食品廃棄の裏側/石渡正佳(著)・日経BP
次は海外での、規格外野菜の加工や販売の事例を見ていこうと思います。
イギリスの大手スーパー「モリソンズ」や「テスコ」は、規格外野菜を「インパーフェクト・プロデュース(Imperfect Produce)」として販売しています。食品ロスを減らすことを目的とし、形や大きさが基準を満たさない野菜を特別価格で提供しています。消費者は価格の安い野菜を購入でき、生産者も規格外品の収益化が可能になりました。美しさや完璧さを求める消費文化への挑戦として、多様性を受け入れる姿勢を社会に広める取り組みと言われています。
フランスでは、2016年に施行された食品廃棄物削減法(Anti-Waste Law)ができました。この法律は以下のことを規定しています
・食品廃棄物の再生利用等の優先順位を規定。
・食品流通業者は、食用可能な食品を意図的に破棄、または破壊(漂白剤をかける
等)によって消費不可能な状態にしてはならない旨を規定。
・売場面積400㎡以上の食品小売店舗は、慈善組織と食品寄付に関する協定を結
ばなければならない旨を規定
アメリカでは「Imperfect Foods」という企業が、規格外野菜を直接消費者に届けるサブスクリプションサービスを展開生産者から規格外野菜を買い取り、低価格で消費者に宅配します。消費者はアプリで好みの野菜を選択可能です。2020年時点で、同社は数百万ポンドの規格外野菜を廃棄から救ったと報告し、食品ロス削減と低所得者層へのアクセス向上に成功した良い例とされています
ドイツのベルリンには、規格外野菜を使った料理を提供するレストラン「Restlos Glücklich」があります。メニューはその日に入手できた規格外野菜に応じて変化します。食材の無駄をなくし、食品ロス問題への意識を高める活動を展開し、規格外野菜が食文化の一部として再評価されることで、消費者意識の変革を促進しています。
分類と規格はなぜ必要か
分類や規格は、社会や経済活動を効率的かつ秩序立てて進めるための重要な基盤です。たとえば、感染症の分類は、公衆衛生政策の策定や医療リソースの配分を適切に行うために欠かせません。1類感染症(エボラ出血熱など)と5類感染症(インフルエンザや風邪など)を区別することで、緊急性や対応方法を明確にし、迅速な対策を講じることが可能になります。一方、果物の規格は市場での取引や消費者の購買を円滑にする役割を果たします。品質を分類することで、消費者は基準に合った商品を選びやすくなり、生産者や流通業者も取引を効率化できます。このように、分類は情報の整理や判断の迅速化を可能にし、社会全体の効率性を向上させる重要な役割を担っています。(図4,5)

(図ー4)分類法キイノート 第3版補訂/宮沢厚雄(著)・樹村房

(図−5)分類・目録法入門(新改訂第6版)―メディアの構成―/志保田務、田村俊明、村上幸二(改訂)・第一法規
分類が差別につながる危険性
一方で、分類はその基準や運用方法次第では、分断や差別を助長する危険性を孕んでいます。過度に厳しい規格や分類が設けられると、基準から外れたものが「価値がない」とみなされ、不必要な排除が生じることがあります。たとえば、果物の規格では、見た目に基づいて「規格外」とされたものが廃棄されるケースがありますが、これらは味や栄養価に問題がない場合も多く、社会全体での食品ロスを助長しています。同様に、感染症の分類でも、不適切なラベリングが患者にスティグマを与える可能性があります。たとえば、新型コロナウイルス感染症の初期段階で特定の人や地域や国が不当に非難された事例は、その典型例です。分類や規格が不平等を固定化し、多様性を受け入れる社会の障壁となる場合、その基準や目的を再検討する必要があります。分類を公正かつ柔軟に運用することが、社会的包摂を推進するための鍵となれば思います。