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09 見えにくいけど大変なんです。軽度障害って?

2022.11.29

孤独・孤立対策担当大臣

みなさんは、孤独・孤立対策担当大臣をご存じでしょうか。
”社会的不安に寄り添い、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題について総合的な対策を推進するための企画及び立案並びに総合調整に関する事務を処理するため” に、令和3(2021)年2月18日、内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置されました。そこを所轄する担当大臣です。
この大臣のことを詳しく説明されている情報はあまりないのですが、内閣府のページから以下を引用してみます。

孤独・孤立で悩まれている方へ ~相談先一覧~
(1)つらい、消えたい、死んでしまいたい、と思ったら→(厚生労働省HP)詳細省略
(2)子供たちがいじめ等の悩みを相談したいと思ったら→(文部科学省HP)詳細省略
(3)性犯罪・性暴力の被害について相談したいとき→(内閣府HP)詳細省略
(4)児童虐待かもと思ったら→(厚生労働省HP)詳細省略
(5)配偶者等からの暴力(DV)かもと思ったら→(内閣府HP)詳細省略
(6)生きづらさを感じるなどの様々な悩みについて相談したいとき→(厚生労働省HP)詳細省略

などが紹介されています。

つまり、孤立・孤独の問題を解決するため、厚生労働省・文部科学省・内閣府などとの連携により新しい政策を考えていくということです。

実は、この孤立・孤独担当大臣、日本は世界で二番目に設置された国です。では、一番はじめはどこであったかというと、イギリスです。
ウィキペディアの「孤独問題担当国務大臣」(https://ja.wikipedia.org/wiki/孤独問題担当国務大臣)によると、イギリスで、高齢化社会や社会不適合などで「孤独に困っている人間」が急増し、社会問題化していました。長い期間をかけて福祉団体などと連携し社会的孤独に関する調査を行った結果をまとめた提言が、2017年12月に発表されました。そこでは、「国家的戦略により、孤独問題に対処することが必要」「専門の閣僚を設置するべき」などと提言されました。それにより、当時のメイ首相が、社会的孤独者問題を担当する政務職を設置することを決め、「孤独問題に対する省庁横断的業務」を担当する「孤独問題担当大臣」が設置されたそうです。日本では、これをそのまま参考にして設置されました。

社会的孤立・孤独の多くは、人間のコミュニケーションにおける「非寛容・分断・格差」により生じていると言えます。さらに、コロナ禍での問題を挙げるまでもなく、社会における価値や意味の変化により、それまで顕在化していなかった孤立・孤独の要因となるものが突然現れる場合もたくさんあります。このような社会問題に対応するためには、多様なニーズを理解し、相互にサービスを提供し合う包摂型社会の構築が急がれるところです。

軽度の障害

孤独・孤立を生み出しながら、見逃されがちなことがあります。「軽度の障害」です。孤立・孤独の予防に係る解決すべき具体的な「問題」に「軽度の障害」があります。「軽度の障害」は、その “ 見えにくさ ” のため(介護者がいたり、車椅子や白杖などを持っているわけではない)に、それにより引き起こる孤立・孤独はわかりにくいものとなっています。アメリカの人類学者ロバート・F・マーフィーは「軽度障害者は、健常者社会にも障害者社会にも帰属できず、周縁化されている」と言っています。

ロバート・F・マーフィー(1997)『ボディ・サイレント――病いと障害の人類学』辻信一訳、新宿書房

「できない」ことを証明するって大変。でも、できないんです。

また、秋風千惠は、「障害の重さと生きづらさは比例する」という社会通念とは異なり、障害に起因する生きづらさは、軽度障害者と重度障害者のような階層的な区分からだけでは説明ができないことを指摘しています。つまり、軽度障害者だから重度障害者よりも生きやすいというわけではなく、軽度障害者もまた別様の生きづらさを感じているのだと言います。さらに、秋風は次のように述べています。


「軽度障害者は早い段階から孤立を経験している。健常者のなかで理解されず、帰属集団を得ることが出来ず不安を覚え続けている。軽度障害者は社会の中で「できる」ことを証明する必要もあれば、「できない」ことを証明する必要もある。」

これらの証明義務が軽度障害者の独特の疲弊を生み、制度や物理的環境からの孤立や心理的な孤独を引き起こしていると考えられています。

秋風千惠(2013)『軽度障害の社会学――「異化&統合」をめざして』ハーベスト社

軽度の障害者は補助者に頼ることも少なく、自ら「できる」努力を行っています(図1)。しかしながら、新型コロナウイルス感染症により、距離が離れることによる音情報の減少、またサインや目印などソーシャルディスタンスのための視覚情報の増加、マスクによる表情などの情報の減少など、軽度障害者が「できる」努力のための拠り所にしていた情報や環境が大きく変化しています。独りで生活する軽度障害者は以前よりも大きな負担を負うようになり、その負担を減らすために外出を控え、家にこもりっぱなしになることで、孤独に陥ってしまう状況も見られます。つまり、もともとの障害というバリア、コロナにより更にリスクが高まった基礎疾患というバリア、コロナにより変化する物理的空間や慣習によって生まれた新たなバリアなど、障害者にとってのバリアはコロナの影響でより多重・多層になり、大変大きなものとなっています(図2)。

図3

国際障害分類

ここで、少しだけ障害について整理しておきます(図3)。
1980年の「国際障害分類」では、障害には機能障害(インペアメント)、能力障害(ディスアビリティ)、社会的不利(ハンディキャップ)があるとされていました。しかし、この分類だけでは十分に説明できないものがあるということで、「国際生活機能分類」と呼ばれる2001年の新しい障害分類では、機能障害、能力障害、社会的不利に代わり、「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」の三つでの説明の仕方が提示されるようになりました。

それぞれでの問題を「機能障害」「活動の制限」「参加の制約」として、その程度を図に示しました(図4)。2001年の新しい障害分類は、機能・能力障害や社会的不利を「できない」「不利をこうむる」といったマイナスイメージで定義するのではなく、健康という基準、すなわち、人々の運動機能や精神活動、コミュニケーションや動作などにどんな制限があるかで捉え直そうとしています。しかし、1980年に定義された「インペアメント」「ディスアビリティ」「ハンディキャップ」の区別が大変わかりやすかったという事情もあり、利用されづらい現状があります。

要するに、機能障害と能力障害の関係は、一元的なものではなく、機能障害の程度が高いと能力障害の程度が高いというわけではないということです(図5)。

図4
図5


例えば、最高度の機能障害であっても、社会生活を行うための環境や仕組みが整っていれば、能力障害の度合いは下がります。反対に、機能障害と認められていないような方でも、例えば、顔にあざがあるといったことが理由で社会参加の機会が減り、能力障害が高まってしまう場合があります。このように、機能障害の程度と能力障害の程度が同じであるという見方をやめることが、社会包摂デザインでは重要になってきます。

軽度の障害

もう一つの重要な問題は軽度の障害です。障害者の分類に入るか入らないかの段階、あるいは障害が進行し始めた初期状態の場合は、機能障害の程度は低いと言えますが、健康な状態からそうではない状態に入り始めているときには、とても大きなバリアが現れます。
特別支援学級へのクラス変更を促された児童や保護者、白杖無しで歩くことは出来るが時刻表や街の文字情報の解読に時間がかかる弱視の方や、難聴になり始めた方、精神の大きな変化を感じているにもかかわらず外からはそうだと分からない適応障害の方など、軽度の障害の方々を社会がどのように受け入れるのかが、今後の包摂型社会の構築に向けて重要なポイントであると考えられています。

「私、左耳が聞こえません」

『「私、左耳が聞こえません」告白で変わり始めた世界 ~ 片耳難聴 野々山理恵さんの一歩 ~』というショートドキュメンタリーがあります。

この作品は 【「私は聞こえる人でも、聞こえない人でもないんです」】、【「聞こえる」か「聞こえない」か、の違和感】、【雰囲気を壊さないために分かったふり】、【「聞こえる世界」と地続きの「聞こえない世界」】などと紹介されています。とても多くのことに気づきます。
https://creators.yahoo.co.jp/imamuraayako/0200056733


リーガル・デザイン・ディクショナリー

特別支援教育
学校教育法第8章で「特別支援教育」が定められ、特別支援学校は幼稚園~高校に準ずる教育を障害児者に行うための学校、特別支援学級は小中学校に設置される障害児向けの学級とされています。
(「e-gov法令検索」、https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000026

国際障害分類(ICIDH)・国際生活機能分類(ICF):
WHO(世界保健機関)は国際障害分類を1980年に採択し、その改訂版となる国際生活機能分類を2001年に採択しました。

障害者手帳
障害者手帳には3つの種類があり、身体障害者福祉法(1949年)に基づく「身体障害者手帳」、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(1950年)に基づく「精神障害者保健福祉手帳」、療育手帳制度(1973年)に基づき知的障害者に交付される「療育手帳」があります。障害者手帳の交付が認められるかどうかが、行政サービスの提供が適用されるか否かの分水嶺となっている現状もあります。
(厚生労働省HP、
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html

グレーゾーン
しかしながら、発達障害が連続体(スペクトラム)として理解されているように、どのような障害であってもその度合いを0か1かで判別することはできません。例えば、知的障害者はIQ70以下(全人口の約2%)と定義されているものの、IQ70~85(約14%)の「境界知能」と呼ばれる度合いの当事者の支援が不十分であることが問題とされています。
(NHK「なぜ何もかもうまくいかない?わたしは境界知能でした」、
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210730/k10013164861000.html

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