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DIDI.Newsletter(2021年12月公開)

2021.12.1

今号はシビックデザインラボより〈多様な色覚特性を持つ人に伝えるためのデザイン〉のプロジェクトを紹介。担当教員である須長正治教授にお話をうかがいました。

(DIDI News Letterは、社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)内の研究活動を発信するニュースレターです。DIDIを構成するソーシャルアートラボ、シビックデザインラボ、デザインシンクタンクが取り組む各プロジェクトの研究や活動を、インタビュー/レポート記事にて届けていきます。)

Project:多様な色覚特性を持つ人に伝えるためのデザイン【シビックデザインラボ】

私たちがものを視覚的に認識する際、色は明快な要素と思われがちですが、実はそう単純なことではありません。そもそも「色」とは何でしょうか。

須長教授によると、色は反射される光を元に頭の中で作られているものであり、色の根源は人間側にあって外にはないものだといいます。「光から色を知覚する仕組みが違う人に対して学術用語では『色覚異常』という言葉が使われています。色は外にあるものでないため、本来は特性であって異常というくくりではないよという意味で、ここでは、『』(カッコ)つきで『色覚異常』と表記していますが、社会的には、まだカッコさえついていないことが多く、私はそこにも問題を感じています」と須長先生。

「何が異常なのかと疑問が投げかけられていて学術界もそれに対応すべきところですが、用語一つ変えることはとても大変です。そこで、まずは『色覚異常』に対応するかたちで社会包摂をしていこう、というのが本プロジェクトです」。

教育プログラムとアートでアプローチ

須長教授ご自身も、長年、「色覚異常」の人の特性の把握や、カラーユニバーサルデザインなどの教育、具体的な手法などについての研究、実践を行ってきました。それらを基盤としながら本プロジェクトでは、「色覚のメカニズムが違えば違った色で見えるという色覚に対する認識を深めていきたい」さらには「デザイナーや「色覚異常」と呼ばれる人だけでなく一般の人にまで広げて活動していきたい」と話します。

本プロジェクトが目指すのは「多様な色覚特性を受容する色彩教育プログラムの提案」と「色覚特性に依存しないアートや表現の社会への発信」です。

美術教育実践研究会FUKUOKAでのインタビュー調査の様子(2021年7月31日)

「文科省から色覚に関する指導は出てはいますが、たとえば美術教育のなかで色彩を扱うときにどう教えていくか……そこがすぽっと抜け落ちている感じがしています。子どもたちに対しても、また先生に対しても、色そのものの新しい教え方みたいなものが必要なのではと思っていて、それをこのプロジェクトでやっていければ」と須長教授。

そのためにもまず教育機関の人から問題意識を吸い上げることが先決であり、現在いろいろな小中学校の先生へのインタビュー調査を実施しているという段階です。

色の認識をもつことで意識が変わる

須長教授は、色彩教育プログラムを子どものうち、つまり早い年齢から取り入れたいと考えています。「色覚に対する認識をもつことで考え方や世の中の見え方が違ってくるはずです。幼い頃に受けた色覚の違いに対してトラウマがあり、それに立ち向かえる人もいるけど、逃げてしまう人もいる。そういう思いを抱えている人でも色に対してもっと自由に発信していいんだよという環境を作りたいんです」。

色彩教育プログラムの仕組みが作られれば、子どもたちが大人になったときに環境がよくなっていると予想されます。ですが、そうなるまでには長い時間を要します。「そこまで待っていられないという気持ちもあり、いま現在の大人の人たち、社会人、大学生、高校生たちに対してもなんらかのアプローチがしたくて」と須長教授。そこで提案するのが、アートによる社会包摂です。たとえば「色覚異常」を持ちながらアート活動をしているアーティストたちを一つのモデルとして、彼らの経験談や色への対峙の仕方などの情報発信や共有などを広くしていきたいとも話します。

それぞれの人が見ている(感じている)色を直接比べることはできません。ですが、色彩科学によって、傍証や実験をして多くの知見を集める形をとりながら、ある程度の推測をしていくことは可能です。「あくまでも推測にはなりますが、それでもやはり事実に基づいて障害を取り除いていくことができる要素になりえます。実のところ色覚は科学的な領域であり、それを教育のプログラムにしていくにはハードルが高いのですが、それをつなげていくのが本プロジェクトの役割。まずはつなげるというところから始めています」。

須長正治 教授

▶︎2022年度DIDI年次報告書①第2回研究会「配慮」
▶︎2022年度DIDI年次報告書②「社会包摂デザイン勉強会」
▶︎2022年度DIDI年次報告書③展示「この絵の具、なに色?」
▶︎2021年度DIDI年次報告書・須長先生の活動報告はコチラ◀︎

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