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DIDI.Newsletter(2022年1月公開)

2022.1.7

今号はシビックデザインラボより〈多様な人たちを包摂するサインデザイン実践の方法論と仕組みづくり〉のプロジェクトを紹介。担当教員である工藤真生先生にお話をうかがいました。 

(DIDI News Letterは、社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)内の研究活動を発信するニュースレターです。DIDIを構成するソーシャルアートラボ、シビックデザインラボ、デザインシンクタンクが取り組む各プロジェクトの研究や活動を、インタビュー/レポート記事にて届けていきます。) 

Project:多様な人たちを包摂するサインデザイン実践の方法論と仕組みづくり【シビックデザインラボ】 

当たり前にわかる、ではない。多くの人に伝わるユニバーサルなデザインを 

本プロジェクトでは立ち上げ前の2020年の夏からゲストスピーカーを招いて知的障害についての話、認知障害向けのピクトグラムについての話を聞くなどの勉強会を開いていました。メンバーは教員4名、画像制作を得意とする学生と工業設計学科の学生があわせて15名です。2021年4月にはFINA世界水泳選手権2022に向けてのピクトグラムと屋外誘導サインのためのデザイン計画事業のキックオフミーティングを行い、9月末までに調査とデザインを幾度も繰り返し、10月に最終版デザインを完了させ同組織委員会に提出したといいます。そして11月には、そのデザイン案と研究会で取り上げた内容を紹介する成果展が福岡市美術館にて開かれました(展覧会詳細はこちらにて)。 

本プロジェクト紹介のページでも明記しているようにサインデザインは、人がスムーズに行動するための図記号や書体などを、環境を利用する人を想定しながら計画するデザインを指します。ふだん私たちは生活の中で頻繁に、たとえば公共施設のトイレや非常口のような図記号によるサインを目にしますが、それらはJIS(日本産業規格)やISO(国際標準化機構)によって規格化されています。「当たり前のように、皆がわかるものと認識されていますが、実は意外にわかりにくいデザインもあるんです」と工藤先生。 

知的障害がある人や自閉スペクトラム症の人を対象にしたピクトグラムの研究などを行ってきた工藤先生の研究に基づくと、たとえば「インフォメーション(案内場)」を表す「i」のピクトグラムは、知的障害を有する人には理解ができにくいものだといいます。「案内がinformationという単語であることを学習していなかったら結びつかない記号です。以前、知的障害のある子どもにどのような意味だと思いますかと聞いたときに『ろうそくです』という答えが返ってきたことがあります。そこで私も確かにそうだって気づかされ、こういう視点で細かく見ていく必要がある分野だと感じました」。 

また、前述の「i」、駐車場を表す「P」、警告を表す「!」のような文字や記号に情報が依存されているものは理解がされにくく、逆に浴室のように場所、人、動作が入っているものは理解されやすいという結果がすでに得られているともいいます。「ピクトグラムやサインに関する研究は、いろいろな人たちがいろいろな国でやってきています。その見解をふまえながら本プロジェクトでは、ユニバーサルデザインをベースにデザインを考えていければ」と話します。 

世界水泳選手権に向けたサインデザインの工夫と提案 

世界水泳選手権に向けたピクトグラムのデザインを提案するにあたって、「知的障害や認知障害のある人にとってわかりにくいという問題に限らず、LGBTsやジェンダーの問題にも目を向けました。いまは人型のピクトグラムでは男女を区別してデザインされていますが、やはりLGBTsの視点でみると、少しニュートラルな人型も必要ではないかと。JISのピクトグラムでは、ホテルのチェックインだったら女性、ミーティングポイントだったら明らかにビジネスマン風、どちらでもいいときはだいたい男性の形状で描かれているんですが、そういう点から見直していきました」と工藤先生。あらゆる問題にアプローチするため、大学生や福岡市在住の社会人あわせて114名を対象に調査を実施し、統計的に理解度を測って結果を出したうえで最終的に採用するデザインを決めていったといいます。 

過去の統計、数値をもとに各ピクトグラムを4案ずつ考え、実際にレイアウトした状態にして大学のキャンパスや博多駅に出向いて理解度調査をしました。

【世界水泳選手権に向けて考案したデザインの一例】 

・案内所…案内をする人・尋ねる人の動作、台(場所)、吹き出しを追加した。 

・チケット売り場での配列…前後の人の色が重なっているのが知的障害をもつ子どもにはとてもわかりにくいという結果をもとに、重なりをなくした。また、列の数が多くなるほど理解度が下がるという結果をもとに、斜めの線をまっすぐにしそれぞれの間に点線を入れた。 

・バス停…もう少しバスらしく見えるよう車体を長くし、車輪も区別しやすいよう車体と車輪の間に白線を追加。バス乗り場が対象になるため、乗り場の図も加えた。 

・スマホ録画・自撮り棒禁止…時代にあわせて新しいピクトグラムも提案した。 

・矢印…軸が短いため遠くからみると向きを間違えやすいという結果をもとに、軸の長さを伸ばした。引き戻しの矢印も同様に。 

・文字…本プロジェクトで既に九州大学が開発していたユニバーサルデザインフォントを和文には使用。欧文はパリやオランダの空港などで使用されている実績の多いフォントを使用。 

・カラー…大会のオフィシャルカラーで決まっていたので変更せず。ただし屋外誘導サインは外で見えやすい黄色と黒(JIS安全色「注意」:黄、対比色:黒の組み合わせ)を採用した。 

提案したピクトグラムデザイン改良点

2022年5月から開かれる世界水泳選手権(※)の会場では、今回提案したピクトグラムが実際に使用される予定です。(キービジュアルについては参考) 

※追記:その後さらに日程の延期があり、2023年7月の開催となりました。

工藤先生
工藤先生

次の活動はこれからメンバーで話し合いながら決めるそうですが、「今回の世界水泳選手権プロジェクトでの理解度調査では知的障害をもっている人までは対象に含めることができなかったので、個人的にそこが心残りです。いま行っている知的障害を有する人たちを対象とした調査を継続し、最終的にJISに報告できるようにしていきたいと思います」と工藤先生。

「自分たちだけでやっていくと考えが狭くなってしまうとも思っています。組織であることで他のプロジェクトも見ていくことになり、こんなやり方や視点があるんだなと自然に気づくことができ、また、今度は一緒にこういうことやりましょうという話もでてきています。単発で終わるのではなく、組織の皆さんがそれぞれに活動していることを皆で見て共有していけるところもよいですね」と、DIDIでプロジェクト活動を行うことについて期待を寄せていました。 

▶︎2022年度DIDI年次報告書①第2回勉強会「社会包摂と創作活動」
▶︎2022年度DIDI年次報告書②「ピクトグラムのデザイン」
▶︎2021年度DIDI年次報告書・工藤先生の活動報告はコチラ◀︎

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