Newsletters

DIDI.Newsletter(2022年2月公開)

2022.2.1

今号はソーシャルアートラボより〈舞台芸術と音響技術による社会包摂のデザイン〉のプロジェクトを紹介。担当教員である長津結一郎先生にお話をうかがいました。 

(DIDI News Letterは、社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)内の研究活動を発信するニュースレターです。DIDIを構成するソーシャルアートラボ、シビックデザインラボ、デザインシンクタンクが取り組む各プロジェクトの研究や活動を、インタビュー/レポート記事にて届けていきます。)

Project:舞台芸術と音響技術による社会包摂のデザイン【ソーシャルアートラボ】 

2会場をつなぐセミナー。学生のアートマネジメント実践も

本プロジェクトでは、北九州芸術劇場が行っている「劇場塾」において、同劇場との協働によるセミナーを2022年3月18日(金)に開催します。セミナーでは同劇場と本学のスタジオをネットワークでつなぎ、講義とパフォーマンスが行われます。

「遠隔パフォーマンスということで真っ先に思いついたのが、2020年にソーシャルアートラボでやった遠田誠さんと里村歩さんによる遠隔のダンスでした。私にとってすごく大きな体験でしたので、こういうことを本プログラムでもやれればいいのではないかと思って」と長津先生。さらにソーシャルアートラボの「《演劇と社会包摂》制作実践講座」で3年間を共にした他のアーティストにも声をかけ、総勢7人でパフォーマンスを行うことになったと話します。 

2020年11月に行ったオンラインパフォーマンス&トーク「オンラインから生まれるダンス〜障害・ケア・表現」より。

セミナーのプログラムは約3時間。劇場あるいは技術者の方による舞台技術の説明、2会場にアーティストが分かれてのパフォーマンスの試み、そして「IT技術によって今後、舞台では何ができるようになるか」をテーマにしたパネルディスカッションを予定。また、香川県県民ホールにもネットワークをつなぎ、そこではパブリックビューイングが行われます。 

授業の一環として今回のセミナーには7人の学生が参加し、アーティスト担当、技術周り担当、マネジメント全般担当、広報担当に分かれ、それぞれで活動が行われています。 「せっかく現場経験ができるので、部分的にではなく学生が主体的に関わる仕組みになるようにしていきました」。 たとえば、アーティストの稽古の立ち合いは徐々に学生主体にシフトし、作業日誌も学生が記入、広報のチラシ制作など学生がメインで行っています。 「私はソーシャルアートラボに在籍して6年になりますが、これまでで一番、アートマネジメントの実習っぽいプログラムになっているように感じています」と長津先生。 「アートマネジメントではぎりぎりまで変動が多く、いろいろ先回りが必要だったり、また技術者とアーティストというように分野が違う人たちの架け橋をしていくことが重要です。今回のようにきちんとした本番があることで、学生たちがスキルをどんどん身につけているような手応えを感じます。むろん、私たち教員も勉強になっています」。 
▶︎2021年度授業「ホールマネジメントエンジニアリングプロジェクトⅠ〜Ⅳ」として実施。活動報告はコチラ◀︎

会場下見の様子。 北九州芸術劇場
本学スタジオ

プロジェクトのはじまり 

そもそもは、2019年12月に行われた劇場塾の「ITネットワークで劇場をつないでみた!何ができる?!」という舞台芸術セミナーに、本学教員の尾本章先生と長津先生が講師として参加したのがはじまりでした。このセミナーは、北九州芸術劇場、札幌文化芸術劇場、兵庫県立芸術文化センターというトータル1,500km離れた3つの劇場をネットワークでつなぎ、同期セッションを行うというもの。「技術面に関してはヒビノという音響・映像の専門会社も関わっていました。実際にネットワークをつないだ後に何ができる?というアイデアに関しては、技術者からはなかなか発想が出にくいということで、声をかけていただいたんです」と長津先生。「その1年後に北九州芸術劇場の方から、同じコンセプトでさらにふみこんだ形でまた劇場塾を開催したいとお話をいただきました。ネットワークを用いた劇場技術の開発が今後進めば、臨場感が別の会場に伝送できるなど、社会包摂もおおいに関係してくると感じました。また、授業の一環として学生も巻き込みながらやっていけるとも考え、今回、協働で取り組むことにしました」。 

本プロジェクトを通じた挑戦と、可能性の広がり 

DIDIの側面でいうと今度の3月のセミナーは、音響技術や劇場設備を今後どう福祉や社会包摂の分野とつなぐことができるかを引き続き考えていくうえで重要な要素の一つになると長津先生は話します。「障害がある人の立場からみると、舞台芸術とつながる必要性はあまりないのかもしれません。ただ、選択肢に舞台芸術がのぼらないことが問題だとは私も思っています。鑑賞という面でも創造という面でも、いまこそ劇場が社会包摂の拠点になるべきだという議論がされていますが、まだたくさん事例があるわけではありません。そういう意味でも3月のセミナーはもちろん、本プロジェクトを通じていろいろな挑戦ができるといいなと思っています」。2022年度は、聴覚に障害がある人たち向けのコンサートも構想中だといいます。 

はじまりはコロナ禍以前でしたが、偶然にもコロナ禍により劇場に集うこと自体が難しい状況になり、遠隔技術の重要性、あるいは必要性を多くの人が感じることになりました。

長津「今後、コロナ感染症が収束に向かって以前のように劇場がオープンになったとしても、障害のある人にとっては引き続き感染症対策を厳しくする必要がある場合もあります。本セミナーのように技術を使っていくことで、たとえば自宅や病院などに居ながらにして劇場につながっていくことも可能になるのではないかと。高臨場感の音場をどういうふうにポータブルに実現し、それを福祉の現場に応用していけば可能性が広がっていくのではないかと思っています」 と本プロジェクトの将来性について語ってくれました。

3月18日(金)のセミナーは一般参加ができます。2会場をつないだパフォーマンスがどのような可能性を生み出していくのか、ぜひ現場で目撃してみてください。 

※セミナーの詳細については、本サイトのアーカイブページに報告を掲載しています。


▶︎2022年度DIDI年次報告書①第2回研究会「配慮」
▶︎2022年度DIDI年次報告書②「半農半アート」
▶︎2022年度DIDI年次報告書③「スタジオプロジェクト」
▶︎2021年度DIDI年次報告書・長津先生の活動報告はコチラ◀︎

page top >