Vol.2

2021.11.1

今号は、シビックデザインラボより〈多様な色覚特性を持つ人に伝えるためのデザイン〉、ソーシャルアートラボより〈自然の循環と協働体の再生のためのアート実践のしくみ−物語からのアプローチ〉の2つのプロジェクトを紹介。それぞれの担当教員である須長正治教授、知足美加子教授にお話をうかがいました。

(DIDI News Letterは、社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)内の研究活動を発信するニュースレターです。DIDIを構成するソーシャルアートラボ、シビックデザインラボ、デザインシンクタンクが取り組む各プロジェクトの研究や活動を、インタビュー/レポート記事にて届けていきます。)

Project:多様な色彩特性を持つ人に伝えるためのデザイン【シビックデザインラボ】

私たちがものを視覚的に認識する際、色は明快な要素と思われがちですが、実はそう単純なことではありません。そもそも「色」とは何でしょうか。

須長教授によると、色は反射される光を元に頭の中で作られているものであり、色の根源は人間側にあって外にはないものだといいます。「光から色を知覚するしくみが違う人に対して学術用語では『色覚異常』という言葉が使われています。色は外にあるものでないため、本来は特性であって異常というくくりではないよという意味で、ここでは、『』(カッコ)つきで『色覚異常』と表記していますが、社会的には、まだカッコさえついていないことが多く、私はそこにも問題を感じています」と須長先生。

「何が異常なのかと疑問が投げかけられていて学術界もそれに対応すべきところですが、用語一つ変えることはとても大変です。そこで、まずは『色覚異常』に対応するかたちで社会包摂をしていこう、というのが本プロジェクトです」。

教育プログラムとアートでアプローチ

須長教授ご自身も、長年、「色覚異常」の人の特性の把握や、カラーユニバーサルデザインなどの教育、具体的な手法などについての研究、実践を行ってきました。それらを基盤としながら本プロジェクトでは、「色覚のメカニズムが違えば違った色で見えるという色覚に対する認識を深めていきたい」さらには「デザイナーや「色覚異常」と呼ばれる人だけでなく一般の人にまで広げて活動していきたい」と話します。

本プロジェクトが目指すのは「多様な色覚特性を受容する色彩教育プログラムの提案」と「色覚特性に依存しないアートや表現の社会への発信」です。

美術教育実践研究会FUKUOKAでのインタビュー調査の様子(2021年7月31日)

「文科省から色覚に関する指導は出てはいますが、たとえば美術教育のなかで色彩を扱うときにどう教えていくか……そこがすぽっと抜け落ちている感じがしています。子どもたちに対しても、また先生に対しても、色そのものの新しい教え方みたいなものが必要なのではと思っていて、それをこのプロジェクトでやっていければ」と須長教授。

そのためにもまず教育機関の人から問題意識を吸い上げることが先決であり、現在いろいろな小中学校の先生へのインタビュー調査を実施しているという段階です。

色の認識をもつことで意識が変わる

須長教授は、色彩教育プログラムを子どものうち、つまり早い年齢から取り入れたいと考えています。「色覚に対する認識をもつことで考え方や世の中の見え方が違ってくるはずです。幼い頃に受けた色覚の違いに対してトラウマがあり、それに立ち向かえる人もいるけど、逃げてしまう人もいる。そういう思いを抱えている人でも色に対してもっと自由に発信していいんだよという環境を作りたいんです」。

色彩教育プログラムの仕組みが作られれば、子どもたちが大人になったときに環境がよくなっていると予想されます。ですが、そうなるまでには長い時間を要します。「そこまで待っていられないという気持ちもあり、いま現在の大人の人たち、社会人、大学生、高校生たちに対してもなんらかのアプローチがしたくて」と須長教授。そこで提案するのが、アートによる社会包摂です。たとえば「色覚異常」を持ちながらアート活動をしているアーティストたちを一つのモデルとして、彼らの経験談や色への対峙の仕方などの情報発信や共有などを広くしていきたいとも話します。

それぞれの人が見ている(感じている)色を直接比べることはできません。ですが、色彩科学によって、傍証や実験をして多くの知見を集める形をとりながら、ある程度の推測をしていくことは可能です。「あくまでも推測にはなりますが、それでもやはり事実に基づいて障害を取り除いていくことができる要素になりえます。実のところ色覚は科学的な領域であり、それを教育のプログラムにしていくにはハードルが高いのですが、それをつなげていくのが本プロジェクトの役割。まずはつなげるというところから始めています」。


Project:自然の循環と協働体の再生のためのアート実践のしくみ−物語からのアプローチ【ソーシャルアートラボ】

ソーシャルアートラボでは、アート活動を通して2016年の熊本地震、2017年の九州北部豪雨への災害復興支援をこれまで行ってきました(詳細はこち)。本サイトのプロジェクト紹介ページでも触れていますが、近年の自然災害が苛烈化や疫病のまん延によって社会的つながりの分断や孤立が進んでいます。ソーシャルアートラボではこれまでの活動からさらに一歩踏み込み、アートを通した協働がどのような「物語」を創造し共有・伝達されていくのかというプロセスに着目しながら、自然災害の需要と伝承のあり方について調査を深めるとともにアート実践を行っていきます。

(参考)2019年度「九州北部豪雨災害復興支援プロジェクト」より。2017年の九州北部豪雨で被災した「共星の里」(福岡県朝倉市黒川)の野外スペースに復興ガーデンを制作し、被災木を活かして東家セルフビルドを行いました

未来へと紡いでいく「物語」

プロジェクト目的の一つに、アートの社会包摂的役割として、社会的疎外や自然災害で打ちのめされた心のレジリエンス(一般的に「回復力」「復元力」と訳される)があります。これまでもソーシャルアートラボではプロジェクト参加前と後に主観評価を行ってきました。そこでは効果があがったような回答を得ることができた一方で、定型的な回答が多かったことに知足教授は疑問をもったといいます。

「たとえば、活動しているときに感じた相手の何かちょっとした目の動きだったり、言葉だったり。活動からずいぶん経った後、ふとしたことで連絡をいただいたり。そういう対話とかエピソードとかノンバーバルな動きのようなことの方が、実は重要なのではないかと感じています」と知足教授。自分の預かり知らないところで出来事が生まれたり、つながっていったりするなかで生まれる「物語」。そういう「物語」を集めた真実、評価のあり方を作っていくことが大切だと話します。

またプロジェクトの目線は、ずっと先の未来へと向けられています。「私たちがやろうとしていることは、抽象的で理解されにくくもあります。すぐに結果が出るものではありませんから。ですが、30年後ぐらいの子どもたちにはきっとわかってもらえるんじゃないでしょうか」。

思い描く未来のヴィジョンに自分たちを重ね、そこから今に戻って計画を立てていくというバックキャスティング的なスタイルをとっていきたいともいいます。「未来から今を思い出す。言葉は未来を描くには貧弱ですが、それが形や色や空気感であれば風景として、人は意外とはっきりと未来を思い描くことがでます。それをアートによって支援できればと思っています」。

自然が見せる真実と、その説得力

修験道文化(2017年九州北部豪雨災害被災地)やアイヌ文化(2018年北海道胆振東部地震被災地)など、自然を信仰の対象とする伝統文化をもち、かつ自然災害被災地でもある地域が活動の中心です。修験道やアイヌ文化を背景にもつ人々と関わり続けている知足教授は、「自然こそが真実の集積です」と強く実感を込めます。

「世の中にはフェイクニュース的なものがたくさん流布しています。ですが自然に目を向けると、種から芽が出るとか、風が吹けば草木が揺れるとか、そこには真実しかありません。もちろん自然は脅威でもありますが、一方で循環して自ら起死再生するという力ももっています」。アイヌの人々や修験者たちをはじめ、昔の人々が、森や草原を環境の循環(あるいは防災)の装置ととらえ、その文化をつなげていった歴史に知足教授は注目しています。

「その循環のあり方をフェイクではなく目の前で、自然という真実の中で展開していくことが大切です。またその場限りではなく、言うなれば自分たちがいなくなった後にも続いていくような、時間軸を超えて縦に投げられるような仕組みを作られるのが、自然を介する生きる文化・アートなのではないでしょうか」と話します。

写真は、英彦山(福岡県)の鬼杉を用いた彫刻です。樹齢1200年とされ九州最大級の巨木である鬼杉は、平成3年(1991年)の台風によって被災し、大枝が折れてしまいました。知足教授はその大枝から不動明王像を彫り出しています。

彫刻制作にあたっては地域の人々と協議や対話をしたり、山中製材したり、迦楼羅炎を一緒に手がけたりなど、いろいろな人に参加してもらっています。「なにか美しいものを作っていくことに関わったという自覚があると、自分の心の種がそこに蒔けるというように思っています」。

本プロジェクトにおけるほかの活動に対してもその思いは同じです。本プロジェクトにたくさんの人々が関わり、そしてどのようなたくさんの「物語」が生み出されていくのでしょうか。期待が高まります。

知足美加子《不動明王像》2021年(制作途中)
作品に用いられた鬼杉の大枝。尊い鬼杉の枝だからと地域の人たちで山奥から苦労して運び出し、添田町で長い間保管されていました
「鬼杉の木目が、偶然、そのまま瞳になっていて自分でも驚いています」と話す知足教授

プロジェクトの進行状況について

【調査】

  • 森林に関する修験道文化とアイヌ文化調査
  • 木材のDNA解析による品種と分布、歴史的由来の分析
  • 森林生物資源の整理活性昨日解明

【アート実践】

  • 災害被災木による造形美術制作
  • 地域固有種植生によるアートガーデンプロジェクト
  • ARを活用した体験型映像作品制作

現時点では、調査については計画が練られているところです。アート実践については、災害被災木による造形美術制作はすでに着手され間もなく作品が完成するという段階(《不動明王像》)、アートガーデンプロジェクトは季節によって固有種の花を咲かせる「季節花時計」を企画中、そしてARを活用した体験型映像作品制作は土の中で起こっている樹木の菌根菌ネットワークへの想像力を喚起するコンテンツ制作を計画しています。それぞれの活動の具体的な内容については、また改めてレポートしていきます。


【予告】ご愛読ありがとうございます。第3号は、2022年1月発行の予定です。お楽しみに!