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「社会包摂漫画」と「OL進化論」と「大牟田線の乗子」さん 【横からすいません 他力本願編】

2023.2.28

お仕事漫画ってご存知でしょうか?特定の仕事や職場を舞台にした漫画です。もしかしたら、手塚治虫の”ブラックジャック”などもそうなのかもしれません。

最近は、弁護士や外科医師などの有名な職業ではなく、少なくあまり社会には知られていないが重要であ大変な職業の漫画が増えてきているように思います。その中でも、マイノリティに関わる仕事や社会包摂に関係するような仕事を題材にしたものをいくつか紹介させていただきたいともいます。

柏木ハルコ(2014)「健康で文化的な最低限度の生活」小学館

区の福祉事務所のケースワーカー が主人公です。新卒で区役所の福祉事務所生活課での”生活保護のケースワーカー”という仕事です。タイトルはおわかりのように、憲法25条の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」からです。

生活保護制度の”現在の困窮”を保護するという法律の意図を読者に教えながらですが、失業、病気、借金、家族問題など、受給者がかかえる問題と生活そのものに向き合っていく様子をえがいたものは、漫画でありながら、かなり切実な訴えも感じさせてくれます。

また、財源の確保や不正の問題など、法律の制度の側面の課題も、さらには人間としての残酷さや様々な葛藤なども丁寧に伝えてくれています。

生活保護受給者からかかってきた「これから死にます。」と電話に対してどう対応したかできなかったか。受給者の生活の背景や生活の根幹と職業としての”生活保護のケースワーカー”あり方を示しながら、弱者の保護と社会の仕組み関係を伝えてくれています。

ヨンチャン、竹村優作(2020)「リエゾン」講談社

児童精神科医のお話です。児童精神医学とは「子どもの多彩な問題行動や精神身体症状を検討し、発達レベル、気質および生物学的背景、家族力動、友人関係、保育所・幼稚園・学校における行動などを総合的に評価し、発達的視点を重視した診断・治療・予防を行いながら、子どもの精神的健康の達成を企図するもの」参考 改(https://ja.wikipedia.org/wiki/児童精神医学)となっています。また対象とする疾患群は、発達障害、 神経症性障害、器質性障害、精神病性障害、パーソナリティ障害、家庭生活における諸問題とされています。

タイトルのリエゾン(フランス語: liaison)とは、「連携」「つなぐ」のことらしいのですが、おそらくリエゾン精神医学(一般の身体医療の中で起こる様々な精神医学問題に対して、医師を含む医療スタッフと精神科医が共同してあたる治療・診断やシステム、それに関する研究)から来ているともいます。小さい子供から大学生や大人まで、身近な悩みや症状も題材にして、辛さを共有しながら、理解の機会を作ろうとしている漫画だと思います。

中原ろく、松本俊彦(2022)「死にたいと言ってください ―保健所こころの支援係― 」双葉社

保健所の精神保健福祉士の仕事の漫画です。精神保健福祉士は、精神保健福祉士法で位置づけられた、精神障害者に対する相談援助などの業務に携わる人の国家資格です。コロナでもその業務が見直された保健所でのお仕事です。保健所は、地域住民の健康を支える中核となる施設です。 疾病の予防、衛生の向上など、地域住民の健康の保持増進に関する業務を行っています。 地域保健法に基づいて、都道府県、指定都市、中核市、特別区などに設置されています。地域保健法は地域保健対策の推進に関する基本指針、保健所の設置その他地域保健対策の推進を定めているものです。

漫画では最初から自殺をテーマに進めながら、法律のことや精神保健に関する理論なども散りばめられています。ここでもやはり、対象者個人だけではなく、背景あるいは課題そのものである家族にも焦点を当てながら、仕事の様子を描いています

椎名チカ(2014)「37.5℃の涙」 小学館

病児保育士の漫画です。病児保育士という国家資格はありません。医師でも看護師でも保育士でももとの仕事に関係なく病気の子どもを預かる仕事に就いている人は、「病児保育士」と称されるそうです。
通常の保育所では子どもが37.5℃を超える発熱の場合、保護者に連絡して迎えに来てもらいます。37.5℃がボーダーラインですしかし、どうしても仕事を抜け出してお迎えにいけない人や場合もあります。急病の子どもを預かって保育するのが病児保育です。コロナ当初も相談・受診の目安として原則、37.5度以上の発熱が4日以上続いた場合としていました。

37.5℃で突然変わる保育のされかた、病気の子ども預けることに対する社会の目や家族や親と子の関係など、やはり家族や生活が浮き彫りにされています。

夾竹桃ジン(2011)ちいさいひと 青葉児童相談所物語小学館

児童福祉司 の仕事です。児童福祉司の仕事は「児童相談所の援助の対象となるのは、乳幼児や少年・少女といった子どもだけではなく、保護者も含まれる。児童相談所を訪れる人はいずれも心身の障害、家庭の不和、非行などの問題を抱え、福祉の手を必要としている。後略」(https://manabi.benesse.ne.jp/shokugaku/job/list/151/content/index.html)となっています。このような問題に対して真摯に向き合いながら、組織としての関わり方、あり方などを示されています。ある回では知的”境界域”をピックアップし、漫画でありながらしっかりした解説文などもあります。

ところで職業を示すのに「士」「師」「司」があります。「司」が使われるのは、児童福祉司、身体障害者福祉司、知的障害者福祉司、保護司の4職種のみだそうす。

他にも「放課後カルテ(保健室の先生)」「ヘルプマン!(介護福祉士)」「先生の白い嘘(高校教師)」「ビターエンドロール(医療ソーシャルワーカー)」「保護司 トモ姉!!(保護司)」「アンサングシンデレラ(病院薬剤師)」など他にもたくさんの社会包摂系の漫画があります。あまり気づかれていない社会の問題や職業を浮き彫りにしながら、その背後にある法律や仕組みをおさえながらその枠の内外・境界線で悩む姿、家族や病気など他の社会の問題などもおさえながら、働きながら悩み成長していく姿や働き方そのものを問いかけていく漫画も多いような気がします。

秋月りす(2020)「OL進化論」講談社

もう一つ少し異なるのですが、「OL進化論」という漫画もあります。

会社に関わる人の日常に起こるエピソードを楽しく愛情を持って紹介する4コマ漫画。女性社員の働き方や世相を踏まえた会社員の様子などを楽しくもありながら、本質を「4コマ」で表現し、社会を突いているように思います。こちらも、現在調査対象にならないかと分類中だったのですが、国の少子化政策や出生数低下の報道もあり、7年前の漫画が話題になっています。

「大牟田線の乗子」さん

最後にもう一つ、九州・福岡の西日本新聞の新聞記者さんが「大牟田線の乗子」という漫画をかいています。原作・作画・掲載全部西日本新聞です。新聞記者の仕事を伝えながら、地域の情報や社会への問題提起を行っています。

https://www.nishinippon.co.jp/theme/noriko/

そのなかで特に6話から、社会の問題やコミュニケーションのあり方など、軽いトーンでありながら重要な、私からすると社会包摂デザインと言えるよう

なトピックスが続きました。勝手に解説して終わりたいとおもいます。

「大牟田線の乗子」第6話~ノーベル賞~

予定稿という業界の話題と、ノーベル賞候補者とされ受賞できなかった方とのコミュニケーションを描いています。本質的いや楽しい、互いが嬉しいやり取りとは何かを示してくれたような気がします。

「大牟田線の乗子」第7話~理想の上司~

組織のあり方や上司と部下の関係などゆるーくえがきながら、鋭い切込みも盛り込んでいます。「理想の上司調査」はあるが「理想の部下調査」はないというところです。一方向一意的でないコミュニケーションや考え方に様々な気づきを与えてくれました。

「大牟田線の乗子」第8話~無限軌道~

登録商標と一般名称の言い換え語 エレクトーンと電子オルガンのような話です。それがたくさん紹介されていますが、社会包摂デザイン的に重要とおもうのが、「記者ハンドブック」共同通信編を紹介されたことです。数年で改定され基本は文字表記や数字の間違いがないように、表記的指針を示したものですが、ここには差別語や不快語も記載されています。この差別語の変遷を九州大学社会包摂デザインイニシアティブでは調査しています。

「大牟田線の乗子」第9話~席次をめぐる考察~

会社での飲み会やその時の女性社員への偏見などをを指摘しながら、一方的・一義的な表現にならないように、切り返し・複層的な表現に感心しています。様々な議論のあり方に一石を投じています。

「大牟田線の乗子」第10話~死亡記事~

死亡記事という新聞社にとっても重要で、かつ社会的にも重要な「死」への向き合い方を新聞記事をとおしてつたえています。

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