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04 社会で育てる 向こう三軒両隣
学生がなやみになやんだ子育てとは
今週は、子育て支援の観点から、中村奈桜子さんの学生時の作品を紹介したいと思います。中村奈桜子さんは、「産前産後支援、育児の現場」をテーマにしたドキュメンタリーを制作しました。
以下、そのドキュメンタリーを制作するまでのプロセスを記した中村さんの文章を紹介したいと思います。
コロナ禍での子育て
2018年9月5日、国立成育医療研究センターが妊娠中・産後1年未満の女性の死亡に関して、2015年から2016年の2年間で産後1年までに自殺した妊産婦は全国で少なくとも102人いたことを発表しました。この期間の妊産婦の死因では、がんや心疾患などを上回り、自殺が最も多い結果です。
また、妊娠・出産した妻に最も近い存在が夫ですが、男性の育児休業取得率は女性の83.0%に対して男性は7.48%(2019年)と依然低い結果となっています。
加えて、2020年春からCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大により、多くの人が行動を制限される日々が続いています。医療機関の多くは、新型コロナウイルス感染症流行に伴う感染防止対策として、面会や立ち合い出産を制限しており、2020年4月7日に緊急事態宣言が発令された際には、日本産婦人科学会・日本産婦人科医会・厚生労働省が帰省分娩は推奨しないと呼びかけ、帰省分娩の受け入れを制限する病院も相次ぎました。その他、両親学級や地域のコミュニティで交流する機会が限られ、孤独感や心細さ、情報不足による不安を抱えたまま育児をしている母親も少なくない状況となりました。
そこで、現在の家庭における母親の担う役割、育児中の家庭の実態、行政や非営利活動法人が行う母親支援等に着目した結果をドキュメンタリーによって提供することとしました。
家事や育児が女性に偏っている状況は、既に多方で指摘されています。育児中の母親を対象にアンケート調査を行ったところ、回答者の範囲内でも家事や育児に非協力的な夫の姿勢が高い割合で見られました。
アンケートで、育児の際に夫から掛けられた言葉について尋ねたところ、
「飯くらい作れよ。」といった【家事への不満】、
「お願いだから(子供を)泣かせるな。仕事で疲れてる。」と強い口調で指示する【妻への命令】、
「ママ、赤ちゃんうんこだよ。」と育児をゆだねる【当事者意識の欠如】、
「俺は仕事をしているんだから、家事育児は母親の仕事だろ。」と偏った役割分担を強制する【分業の偏り】、
「おれ、おっぱいないから育児はできない。」と誤った考えで育児を放棄する【育児知識の不足】
の5つが見てとれました。
産後ケア事業
さて、産後ケア事業とは、市区町村の各自治体が実施し、分娩施設退院後から一定の期間、母親の身体的回復と心理的な安定を促進するとともに、母親自身がセルフケア能力を育み母子とその家族が、健やかな育児ができるよう支援することを目的とした事業です。しかし、まだまだ、産後ケア事業の行政内の認知度が低く、助産師らの現場と行政との間に認識の差が生じている状況がうかがえます。「母子保健法の一部を改正する法律(令和元年)」が令和元年12 月6日に公布され産後ケア事業の拡大化が図られましたが、地方自治体への努力義務となっており、予算や人員の確保が困難な市町村が積極的に取り組むとは考えにくいため、産後ケア事業について認知度を高める必要もあります。
育児休業
育児休業とは、社員が子どもの養育のために取得する休業を指します。現行の育児休業制度は、子が1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまで、申出により育児休業の取得が可能である制度を指します。また、各要件を満たす者は取得できる「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス」といった休業制度もあります。しかし、男性の育児休業取得率は平成24年から上昇傾向にあるものの、女性に対して男性は依然低い結果となっています。事前の親準備教育の父親の受講数が増加すれば、妊娠段階から父親の自覚を持つ父親が増え、育児休業取得率の増加にも影響があるのではないかと考えます。
2020年COVID-19の感染拡大に伴い、産前産後サポートセンター心ゆるりは、2020年4月6日から5月31日まで休業措置をとりました。休業中は通常営業は行わないものの、電話やメールによる相談は受け付けていました。COVID-19感染拡大前は月平均30件だった電話・メール相談件数が、休業中には合計310件と10倍以上に増加したそうです。
相談が増加した背景には、COVID-19の影響により不安が増長されたことのほか、母親学級や両親学級が中止になる、もしくは参加を控えることで情報を入手する手段を失ったことも一因に挙げられます。また、相談内容の中でも、特に多いのが「母乳相談」と「子どもの発達・発育相談」でした。これらに関する情報は、いずれもインターネットや情報誌によっても入手することは可能ですが、母乳や子どもの発達に関する相談内容は各個人の体調や生活によって異なるため、産前産後サポートセンター心ゆるりへの相談件数が増加したと考えられます。
感染症の拡大のもと、産後ケア事業はオンラインによる相談対応など、宿泊型、デイサービス型、アウトリーチ型の3つの方法に限らないサービス提供が今後求められます。自治体は、社会情勢に合わせた柔軟な対応を検討する必要があると思います。
これまでの調査をもとに、家庭における夫婦の実態や育児の現状を議論する基礎的知見を提供するため、ドキュメンタリーを制作しました。制作にあたり、まず作品のコンセプトを、「産前産後サポート事業に携わる方々や育児に奮闘する母親たち、育休取得中の父親の姿等を通して、『子育ては母親だけの役割ではなく、社会的に行うものである』と伝えるドキュメンタリー」と設定しました。
ドキュメンタリーは、取材をもとに大きく2つの視点から構成しました。育児中の母親からの視点と、育児を支援する産後サポーターおよび家族からの視点です。
男性ナレーターを起用し、ナレーションを語り口調で読むなど変更を加えました。産後うつや妊産婦の自殺率などを示すセンシティブな場面では、イラストやアニメーションを使用し、シンプルな演出を試みました。現代の育児事情や産後うつ、産後ケア事業について端的に伝わるよう考えました。
この作品は、現代の育児事情について理解を広めるため、多くの人に見てもらうことが必要です。今後は実際に鑑賞してもらい、意見をもとにさらにブラッシュアップを重ねた後、動画共有サイトを利用した配信を検討しています。加えて、今回協力を得た育児事業者へ動画を提供し、産前産後サポーター制度や企業への育児休業研修等での動画使用の展開を期待しています。
【リーガル・デザイン・ディクショナリー】