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時評:救急車をタクシー代わりに使ってはいけません

2023.9.6

救急車とは何でしょうか?

病気や怪我の人を病院などの医療施設まで安全にできるだけ早く連れていくための自動車です。今は殆どが自動車ですが自動車のない時代からその需要はあり、馬車や人力車がその機能を果たしていました。

ナポレオン戦争で初めて利用

救急搬送専用車両が初めて利用されたのは、1800年代初めのナポレオン戦争だそうです。ナポレオン戦争がどんな戦争だったかは私もよくわかっていませんが……けが人のために救急部隊をつくり、素早く野戦病院へ搬送される仕組みを作ったそうです。この野戦病院までけが人を乗せる専用の馬車が最初の救急車だそうです。

ドミニク・ラレーとトリアージ

この仕組をつくったドミニク・ラレーは、けが人を軽傷・中傷・重症にわけて、治療の優先順位をつけて、治療すべき順位を決めたトリアージの仕組みも最初に考えた人だそうです。少し話はそれますが、トリアージは災害現場で有効な手段として、多くのところで利用されている仕組みで、言葉やそのためのタグもご存じの方も多いと思います。しかし、実は法的な整備が十分でないそうです。
「大災害時に、膨大な傷病者の中から治療の優先順位を判断する「トリアージ」で、ミスがあったら―。東日本大震災で亡くなった被災者の遺族が病院を提訴した。トリアージに特別な免責規定はなく、法的整備を検討すべきだとの声もあった中での提訴で、災害医療の関係者には波紋が広がった。日本災害医学会は17日の理事会で、法制化に向けた提言づくりなどを始めると決めた。」と2019年3月18日の朝日新聞デジタルでこう報じられています。市民の生命の最大量を確保しながら、医療従事者の権利や尊厳を保つためには法整備が重要ということです。

免責

ここまでまだ仕組みの整備がなかったことに驚きですが、記事中に出てくる“免責”という言葉があります。よく聞く言葉です。負うべき責任をある条件下では問わずに許すこと。責任を免除する。ということです。何でもかんでも同じ条件で責任を追求したり、保険で賄おうとすると、いろいろな大きな負担が社会全体にかかってきてしまうので、一定のラインを決めておこうというものです。

衛生兵は武装解除

さて、救急車の話に戻ります。救急車の変遷や歴史的背景は戦争と強い関係があります。赤十字章をつけた救急車は戦争中、停戦していなくても、攻撃されずけが人を搬送することが認められています。ただし、同乗する衛生兵は武装解除して同乗しなければなりません。救急車の武装は許されていないからです。衛生兵は武装解除してから同乗する必要がある。戦時国際法で定められています。戦時国際法とは、戦争時下であっても軍事組織が遵守するべき義務を明文化した国際法です。

守るべき戦争規定??

戦争中に互いが守るべき戦争規定というのも、非常に矛盾しているようにも思うのですが、近代国際法における、戦争をいかに規制するかについて「戦争の正当な原因の追求」と「戦闘中における害的手段の規制」とが存在し、それに基づいているからだそうです。シンプルに平和を互いに構築していくことは、やはり難しい。しかし、交戦中でも一定のルールは守ろうというものです。戦争における非人道的な手法や戦争犯罪という言葉もやはり、違和感はありますが、世界はまだまだこのような状態です。

緊急自動車と道路交通法

自動車が普及し始めた1920年代には、救急車は自動車となりました。そうするとまた、今度は医療の枠組みでのルールだけではなく、道路交通法というルールの枠組みで救急車をどう存在させるかという“きまり”が必要になってきます。緊急自動車とは、救急車、消防車、パトカー等の道路交通法施行令第13条に定められている自動車で、緊急用務のため、サイレンを鳴らし赤色の警告灯をつけて、業務のために運転中のものをいいます。道路交通法第40条で「緊急自動車の優先」として、「交差点、またはその付近で緊急自動車が接近してきたとき車両は交差点を避け、道路の左側に寄って一時停止しなければならない。」等と決まっています。運転する側においても、一般緊急自動車運転技能者課程という研修を受講したり、都道府県警ごとに「緊急自動車運転10則の制定について」と言った通達を出したりしているところもあります。大本のルールを達成するために、様々な新たなルールや枠組みを生成していく必要があるからです。

タクシー代わりに使ってはいけない

最近では、救急車の到着時間が長くなってきているようです。日本AED財団理事長の三田村秀雄さん(国家公務員共済組合連合会立川病院病院長)は
「現場到着までの時間が延びている理由は、重症でないにもかかわらず、救急車を呼んでしまう人が多いからです。例えば、軽度の熱中症で救急車を呼ぶ人が増えれば、その地域の管轄の救急車が出払ってしまい、別の地域から出動することになり、時間がかかります。今後、救急車の到着時間が長くなることはあっても、早まることはないと考えたほうがいいでしょう」
と言われています。

緊急自動車と消防法

救急車の利用が予定されている傷病者は、消防法第2条第9号、消防法施行令第42条で決まっています。災害により生じた事故による傷病者、屋外・公衆の出入りする場所において生じた事故による傷病者、屋内において生じた事故による傷病者、または、生命に危険を及ぼすような状況に傷病者を搬送する制度です。

必要なときは躊躇なく

ある疾病による傷病者で、かつ、これらの傷病者を医療機関等に迅速に搬送するための適切な手段がない傷病者、さらに、それらに加えて、医療機関等に緊急に搬送する必要がある傷病者となっています。それに当てはまらないときには、

1.消防法違反(消防法第44条第20号)

2.軽犯罪法違反(軽犯罪法第1条第16号)

3.偽計業務妨害罪(刑法第233条)

になる場合があるそうですが。必要なときは躊躇なく呼ばなければなりません。一方で、
・蚊に刺されてかゆい
・紙で指先を切った
・病院でもらった薬がなくなった
などの理由で呼んではいけないなど、法やルール全体で解決する案を作るだけでなく、救急患者に対して社会としてどんなアプローチが必要かを考えなければなりません。

救急車はなぜ白か?

ところで救急車は、なぜ白なのでしょうか。

「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(緊急自動車)第153条 三 緊急自動車の車体の塗色は、消防自動車にあっては朱色とし、その他の緊急自動車にあっては白色とする。

法令で白に決まっているから白ということで、白に決めた根拠自体はわからないそうです。なぜ細則で色まで規定しようとしたかはわかりませんが、色を規定しようとした人がいた、その考え方があったことは間違いないということです。

カラーユニバーサルデザイン

こういった色の意味を考え、だれにとってもわかりやすい色をつくるための制度に、CUD認証マークというのがあります。CUD認証は、特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構が行う認証制度で、このCUDマークは、CUD認証を取得した製品に色覚の多様性に対応していることを保障するものだそうです。カラーユニバーサルデザイン機構自体が日本デザイン振興会のグッドデザイン賞に申請して、認証されたり、キッズデザイン賞や国際ユニヴァーサルデザイン協議会に賞をエントリーして受賞するなど、制度が制度に認証されています。

カラーユニバーサルデザインの3つのポイントは

a.できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ。

b.色を見分けにくい人(場合)でも情報が伝わるようにする。

c.色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする。

だそうです。これに認定された青い救急車もあるそうです。

消防救急と民間救急  PA連携

法律で白と規定されていると言ったばかりですが、救急車には消防救急と民間救急があります。消防救急とは、119に電話をしたときの対応です。急な病気や事故のときに119番通報すれば救急車が駆けつけますが、119番通報時に患者が重傷であると予測される場合や、建物内の階段・通路が狭く、患者の搬送が困難になる場合などでは、必要に応じて消防隊が現場に駆けつけ、救急隊と連携した救急活動を行う「PA連携(消防車(Pumper)と救急車(Ambulance)が連携して救急活動を行うこと)」を実施しています。

最近では、年々増加する救急需要のため、救急隊が現場から著しく離れている場合、現場に近い消防隊が来る場合もあります。いち早く駆け付け、心臓マッサージや止血処置などの応急処置が必要な場合、PA連携を行う消防隊が救急現場で救急隊と連携した応急処置を行うことで、救命率の向上や市民の安全・安心の確保が期待できます。

民間の変わった色の民間救急車も出てきていますが、効果や意味は疑問です。

民間救急とは

民間救急(患者等搬送事業)とは、緊急性が低い人の搬送を担う役割です。民間救急は緊急性が低い傷病者を搬送しているため、車両に赤色灯やサイレンを装備することができません、もちろん、緊急走行ができません。利用には料金がかかり、利用前に予約が一般的には必要です。さらに、民間救急では応急処置以外の医行為は行うことができません。一般的に医療行為と言われているものは、法律では“医行為”と言われています。医師の資格を有する者しか行うことができない絶対的医行為と、医師以外の者でも行うことのできる相対的医行為があります。

おそらく、以前報道でよく見ていたコロナ患者の移送にはこの民間救急車両が使われていたのだと思います。逆に民間の車両には特に色の規定が無いためどんな色でも使えますので、消防救急の車両の色に寄せているのだと思います。救急車も改良が重ねられており、先進国を中心に高度な救命処置をしながら搬送できるよう車内のスペースを拡大したり、子ども専用(新生児・乳児・幼児)救急車を作るなど、高度な医療機器を積載して全ての年齢層に対応できるよう救命率の向上を図っています。その一方で、21世紀に入ってからも開発途上国や紛争が続く地域では十分な数の救急車が整備されていないか、傷病者を救急車で搬送する制度が未だ整備されていない状況が続いています。

総合知でも問題解決

法整備・啓蒙・ルールコミュニケーション、当事者との質的コミュニケーション、具体的な数理的分析、それらを取りまとめる総合デザイン 日本型・福岡型のより良い救急システムのこれらを、九州大学でも推し進めていければと思っています。色々課題は大きいけど。

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