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時評:高校野球と仕組みのデザイン

2023.8.17

現在(2023.08.17)、高校野球の夏の甲子園大会が開催されています。テレビでも新聞でもネットでも連日報道されています。私は神戸市出身で、小学生ぐらいのころ、近かった甲子園球場に見に行った記憶があります。暑い中、一日何試合も見た記憶があります。

授業課題でもあり、筑紫野市の生涯学習センターで展示した「ルールとジェンダー」展でも、高校野球に対し課題と考えた学生さんもいました。

ここでは、対立的な批判や批評ではなく、高校野球に関わる「しくみ」から考えるきっかけとして情報提供したいと思います。


かち割り
小学生のころ高校野球観戦で、「かち割り」を飲みながらが定番?でした。
当時のかち割りは「ポリ袋に氷入れてストローを入れて、袋の口を輪ゴムで留めたもの」でした。冷たい水を飲んだり、頭に当てて冷やしたりしていました。当時の記憶では、美味しくもなんともなかったのですが、安かったですし(100円??)、名物ということでなんとなく買ってもらっていたような気がします。
夏の高校野球開催期間中のみ販売されているそうです、プロ野球の試合の時は販売されない仕組みになっているようです。


高野連
公益財団法人日本高等学校野球連盟のことで、日本の高校野球(男子)の統轄組織で、47都道府県の高等学校野球連盟が加盟しています。また公益財団法人全日本大学野球連盟とともに、上部組織として公益財団法人日本学生野球協会を構成しています。全国高等学校女子硬式野球連盟は含まれていません。
→ここでは詳細には触れませんが、各団体がどのような経緯で生まれ、どのように変化していったかのプロセスを見ることは、現在の「仕組み」を考える上で重要です。

ちなみに公益財団法人とは
一般社団・財団法人法に基づいて設立された一般財団法人で、公益法人認定法に基づいて公益性を認定された財団法人を公益財団法人という。
独立した合議制機関の答申に基づいて内閣総理大臣又は都道府県知事の認定が必要となり、特定公益増進法人の一つとして一定の要件を満たす寄附金は、税額控除の対象となる。

さらに特定公益増進法人とは
• 独立行政法人
• 地方独立行政法人のうち、試験研究を目的とする法人及び病院若しくは介護老人保健施設の設置・管理を主たる目的とする法人
• 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団及び日本赤十字社
• 公益財団法人及び公益社団法人
• 私立学校法第3条に規定する(一条校を運営する)学校法人及び同法第64条第4項の規定により設立された(専修学校を運営する)法人
• 社会福祉法人
• 更生保護法人
だそうで、所得税法により規定されています。

ストライクとボール
ベースボール発祥の地であるアメリカでは、カウント表記はボールが先でストライクが後でした。日本では逆でしたが日本高野連が1997年選抜大会からボールを先にコールし始め、プロ野球は遅れて2010年から変更されたようです。日本ソフトボール協会は発足時から国際ルールに倣っていました。ちょっとしたルールの違いですが、ルールが異なることの実情把握とそれを修正するプロセス・修正できないプロセスを読み解いていくことが仕組みのデザインには重要です。


丸刈り
中学校の丸刈り校則は2013年に全廃されたそうです。2023年の夏の甲子園大会の出場校49校のうち、丸刈りは42校だそうです。
歴史的には色々な見方ができるそうですが、高校球児の丸刈りは、戦時下の国家主義体制のなかで、「男児は坊主頭」とされて、高校野球では、戦後になってもそのまま続き、次第に、「高校球児らしさ」として定着したのではないかと言われています(諸説あり)。
私の住んでいた神戸市では1980年代前半までの校内暴力を理由に、中学生を見分けやすくする理由として、市立中学校全校に丸刈り校則がありました。この校則は全国的に見てもかなり遅くまで残っていたそうです。管理教育の一環として、教師が生徒の髪の毛をバリカンで刈ることも行われていました。
出家した僧侶も丸刈りです。また昔は「頭を丸めて反省する」なんてこともよく見られました。出家したつもりで反省せよと言う意味合いだそうです。では出家するとなぜ剃髪するのか。こちらは長くなるので、ご自身で調べてみてください。
ちなみに刑務所・少年院の受刑者は、男子に対してのみ丸刈りが課せられているそうです。その理由は「衛生上の必要」だそうです。


部活動
学校教育法第37 条第11 項には「教諭は,児童の教育をつかさどる」とあり、
学習指導要領では部活動が以下のように、位置付けられているそうです。
「部活動は、学校教育活動の一環として、スポーツや文化、学問等に興味と関心をもつ同好の生徒が、教職員の指導の下に、主に放課後などにおいて自発的・自主的に活動するもの」されており、
内容は、「スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」だそうです。ですので、学校の先生は部活動の顧問を断りづらい状況があると言われています。
部活動のステークホルダーは、生徒だけでなく、教諭、保護者とも関連する重要な事柄です。新しい部活動のあり方も、多くのところで模索され始めています。
法律の構造や解釈は一度作ってしまうと変えづらい状況や意識がありますが、私達の生活や社会は常に変化しているので、常に考え続けてゆかねばならないことを示唆してくれます。


給特法
「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」のことで、日本における公立学校の教育職員の給与や労働条件を定めた法律。 教育職員には、原則的に時間外勤務手当や休日勤務を支給しない代わりに、給料の月額の4%に相当する額を「教職調整額」として支給することが定められています。
労働基準法は基本立法といわれ、これを下回る条件を定めてはいけないことになっています。労働条件が労働基準法に満たない場合は無効になり、その場合は労働基準法の基準が適用されます。給特法は労働基準法を下回っているが別の法律で規定されているというおかしな構造が指摘されています。
学校教育法・労働基準法・給特法など法律をまたぐ仕組みを理解することで、新たな仕組みのあり方が生まれてくるかもしれません。


水飲み禁止とウサギ跳び
昔は運動中に水を飲むことはご法度でした。根拠なく皆が信じていたことです。ウサギ跳びなど、昔はいいと思っていたことが今では異なっていることが沢山あります。
運動時の水分補給に関する変遷は
水分不足認識期(1960 年頃~)
水分過剰期(1996 年~)
水分過剰認識期(2002 年~)
水分補給個別プログラム期(2007 ~現在)
となっているそうで、https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/22506/files/3.pdf筑波大学体育科学系紀要)
に詳しく説明されています。

現在は大会試合中にクーリングタイム(試合の5回終了後に10分間、クーラーや送風機が設置されたスペースへ移動し、水分補給のほか、保冷剤が入ったアイスベストやネッククーラーなどで体を冷やす時間)があります。大会規定には「気象状況等によっては取りやめることができる」とあり、気温が比較的低い日にはクーリングタイムが設けられないようです。


球数制限ルール
球数制限ルールは、高校野球特別規則で定められています。
・1人のピッチャーが1週間で投げられる球数の上限は500球
・降雨などでノーゲームになった場合でも球数はカウント
・登板途中で500球に達した場合、その時点で対戦しているバッターの打席が終了するまで投球可能

2019年に新潟県高校野球連盟が1試合100球を上限とする制度導入を決定しました。しかし。その時には、制度の導入は見送られました。こういった議論の場合、変えたくない側が理屈をあとづけ的に増やして議論がややこしくなることも多いのですが、中央からではなく地方から出た意見で球数制限の必要性を考えるきっかけとなったことは大変興味深いことです。
また、新しいルールができると、球数制限があることで、攻撃側が相手投手に対し敢えて球数を多く投げさせる戦法をとるチームも現れました。球数を多く投げさせることを目的とした「カット打法」が使われる可能性もありますが、現在の高校野球では禁止されています。球数制限がないときでも、相手を疲れさせることを目的とした行為は、スポーツの意図とそぐわないからです。

今回は思いつくまま高校野球を仕組みから見ました。まだまだたくさんの仕組みが高校野球にはあります。博覧をめざし、様々な要素を縦横につなぐアプローチは、社会包摂の仕組みのデザインには重要かもしれません。

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