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時評:ジェンダーギャップ指数について

2023.6.26

先日の6月21日、世界経済フォーラム(WEF)は、各国のデータをもとに男女格差を評価した「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年版を発表しました。報道では、日本の「ジェンダーギャップ指数」が世界125位で過去最低という見出しや論調が目につきました。

社会包摂デザインや仕組みのデザインとして、この指数がなぜこのような報じられ方になっているのか、この指標はそもそも何なのかを見ていきたいと思います。

https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2023.pdf

末永@🇨🇦カナダ留学専門家 by カナダ留学コンパス on Twitter: "世界のジェンダーギャップ(男女格差)のデータに基づく Global  Gender Gap Report (世界男女格差レポート)の2023年最新版が発表されました 世界146カ国が対象です 総合ランキング ☆カナダ→  30位 ...

まず、この指標自体がどのようなものかを見てみましょう。

「ジェンダーギャップ指数」とは、NPOの世界経済フォーラムが2006年から公表しているもので、世界男女格差レポートとして知られています。この指数は、レベルではなく格差の把握に重点を置いており、インプット変数の格差ではなく、アウトカム変数の格差を捉えています。また、女性のエンパワーメントではなく、ジェンダー公正に基づいてランク付けすることが大きな方針とされています。


ジェンダーギャップ指数という指標

この指標は、「経済参加」、「教育到達度」、「健康と生存率」、「政治参加」の4つの分野における14の変数を総合的に評価しています。そのうち13の変数は、国際機関であるUNESCOやWHO、ILOなどが提供するデータに基づいています。スコアは最大が1(平等)、最低が0(不平等)であり、小数点3位までの値が用いられます。ただし、データが存在しない場合もあります。

指標と算出方法は以下のようになっています。


算出方法は以下のような考え方です。

ステップ1. 比率に変換: すべてのデータを男女比に変換します。例えば、閣僚の女性の割合が20%の場合、男性80%に対して20÷80で、0.25となります。これにより、達成度そのものを見るのではなく、ギャップ(格差)の存在を確認することが目的です。

ステップ2. ベンチマークでのデータ切り捨て: 健康指標以外のすべての指標について、ベンチマークは1となります。これは男女の数が等しいことを意味します。ただし、出生時性比の場合は平等基準を0.944、健康寿命の場合は平等基準を1.06とし、生物学的特性を考慮していると言われています(なにもない場合、男のほうが5~6%程度多く生まれると言われています。男の割合がそれを超える国もあります。)。ベンチマークでデータを切り捨てることで、男女平等を達成した国と、女性が男性を上回った国に同じスコアが割り当てられます。この尺度は、絶対的な平等に最も高いポイントを与えます。

ステップ3. サブインデックス・スコアの計算: 異なる指標を平均化し、各指標の標準偏差を等しくし、正規化します。これにより、各指標がサブインデックスに与える相対的な影響が均等になることを確認します。広がりの小さい指標に対しては、ウェイトが大きくなり、この値から乖離している国にはより重いマイナス指標が与えられます。

ステップ4. 最終スコアの算出: 各サブインデックスのスコアの単純平均を計算し、全体のスコアを算出します。最終的なスコアも1(平等)から0(不公正)の範囲で表されます。これにより、相対的な国別ランキングのほか、理想的な平等基準との比較も可能となり、ジェンダー格差をどの程度縮めたかを直感的に理解する手助けとなります。


日本の変化

日本の変化について言えば、2006年から2023年までの間において、4つの指標に大きな変化は見られませんでした。このため、相対的な順位が下がり続けているように思われます。同じ期間のレーダーチャートを見ても同様の結果が得られます。

2006年から2023年までの、4つの指標の変化

図 2006年から2023年までの、4つの指標の変化

図 2006年から2023年までの、4つの指標の変化 レーダーチャート

図 2006年から2023年までの、4つの指標の変化 平均と標準偏差


仕組みのデザイン

ジェンダーギャップ指数の順位に関する報道では、一喜一憂する傾向が見られます。この指数は146ヵ国に対して順位付けされるため、必然的にどこかの国が125位になります。順位が上位になることが良いことであることは間違いありませんが、その順位が「なぜそうなったのか」を考える必要があります。指標自体を正しく理解し、評価基準やスコアの算出方法について複数の視点から考察することが重要です。

ここまでで。ジェンダーギャップ指数がそもそも何かを理解していただけたでしょうか。

そのうえで2023年版のスコアを見ていきましょう。

以下、レポートからの抜粋です。

2022年版と2023年版の両方でカバーされている145ヵ国の一定サンプルを比較すると、全体のスコアは68.1%から68.4%へと、わずかに改善されました。同様に、2006年から2023年までの102ヵ国を比較すると、2023年の格差は68.6%に改善され、4.1ポイントの向上が見られました。上位9ヵ国(アイスランド、ノルウェー、フィンランド、ニュージーランド、スウェーデン、ドイツ、ニカラグア、ナミビア、リトアニア)は、少なくとも80%の格差を解消しています。

2023年の146ヵ国において、「健康と生存」の男女格差は96%、「教育達成度」の男女格差は95.2%、「経済参加と機会」の男女格差は60.1%、「政治的エンパワーメント」の男女格差は22.1%となっています。このままのペースで進むと、

「教育到達度」の男女格差を縮めるには16年、

「健康と生存」の男女格差を解消するにはもう少しですが、

「政治的エンパワーメント」の男女格差を縮めるには162年、

「経済参加と機会」の男女格差を縮めるには169年かかると予測されています。


日本に関しては

日本は2021年から2年連続で微減しています。ジェンダーパリティスコアは64.7%(125位)で、前回より0.25ポイント低下し、順位も9つ下がりました。特に政治的エンパワーメントにおける日本のパリティは5.7で、世界で最も低い水準に位置しています(138位)。日本では国会議員の10%、閣僚の8.3%が女性ですが、女性元首はいません。一方で、教育達成度指数と健康・生存率指数はほぼ平等です。女性の労働力率は54.2であり、役員のうち12.9%が女性です。また、日本の経済参加と機会の均等性は56.1%で、146カ国中123位と報告されています。


パリティとエクイティ

ジェンダーギャップ指数では、数年前にエクイティではなくパリティという表現に変わりました。ジェンダーエクイティ(Gender Equality)は、男女が社会的、経済的、政治的に平等な権利と機会を持つことを指します。これは、男女が同じ人権を持ち、同じように扱われるべきであり、社会的な役割や責任においても差別されることなく平等に参加できることを目指す概念です。ジェンダー平等は、社会のすべての領域で平等な権利とチャンスが実現されることを追求します。

一方、ジェンダーパリティ(Gender Parity)は、男女の数の均衡や比率を意味します。特定の領域や組織において、男性と女性の間の代表性や参加度が均等であることを目指します。たとえば、政治分野においてジェンダーパリティを追求すると、男性と女性の政治家やリーダーの数が同じに近い状態を指します。

ジェンダー平等は、男女が平等な権利と機会を持つことを目指す概念であり、ジェンダーパリティは男女の数の均衡を追求する概念です。ジェンダー平等はより包括的な目標を追求する一方、ジェンダーパリティは数的な均衡を強調します。ジェンダーギャップ指数は、具体的な数値の均衡を確認するための指標と言えます。

こうした考え方を踏まえて、ジェンダーギャップを理解し、今後の政策やプロジェクトに反映させる必要があると考えます。さらに、GGI(ジェンダー・ギャップ指数)だけでなく、GDI(ジェンダー開発指数)やGII(ジェンダー不平等指数)なども同様に分析・理解していくことを進めていきたいと思います。

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