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/ 2022.12.23

第3回「半農半アート研究会」(2021年12月13日)レポート

第3回「半農半アート研究会」 テーマ「農からみる半農半アート」 

■日時:2021年12月13日(月)19:00~20:30 

「半農半アート」のライフスタイルを基盤とした包摂型地域づくりや農業ボランティアの新しい仕組みモデルについて考えることを目的に、九州大学社会包摂デザイン・イニシアティブで主催してきた「半農半アート研究会」も回を重ね、第3回、第4回が終了しました。少々時間が経ってしまいましたが、その内容をご報告したいと思います。
(学術研究員 森千鶴子) 

第3回 「農からみる半農半アート」

アートを受け入れる地域の人たちは、アーティストが農的生活をしながらアート活動をする姿をどのように見ているのか、またその活動から、どんな関係性が生まれたのか? 

主に地域でアーティストを受け入れつつ、自身も地域を舞台に様々な活動をされてきたお二人にお話を聞きながら、地域からアートを見つめる視点について考えました。 

【ゲストスピーカーのお話より 】

ゲストスピーカー その1  梅本 匠さん 

滋賀県大津市在住。松井建設株式会社取締役。家業が林業であったため、山の木を生かすために大工を志す。松井建設へ入社し、仕事をしながら国家プロジェクトである大工育成塾に入塾。現在は地域の自然資本を生かすブランドとして「晴耕舎」を立ち上げ、林業、農業、建築、カフェ、パン屋、エネルギー等の事業を行っている。プライベートでは、故郷の滋賀県高島市朽木古屋地区の無形文化財である「六斎念仏踊り」の継承に取り組んでいる。 
https://www.matsui.tv/ 

「最初は悪もんかと…」伝統芸能の継承とアーティスト  

私は、滋賀県高島市の朽木という山村の村で育ち、そこには六斎念仏という踊りがありました。私も継承者の一人ですが、5年ほど前、踊りを継承するために、アーティストを招聘して、踊りを復活させるという取り組みが行われました。最初僕はそのメンバーには入ってなくて、地域のおじいさんが5名ほど。そのうちの誰か一人が亡くなれば、もう消えてしまうような踊りでした。 

それを武田力さんら、アーティストの人たちが支えてくれて復活したんですけど、僕は地域の若者の一人として最初は納得いかないというか、「アーティストってなんやねん」みたいに半分悪もんみたいに思いながら(笑)…。そして対抗意識もあって、けれど悪い悪いって言ってても、しょうがないし、自分らもやらなしゃーないなと。 

負けたらあかんなっていうところから始まって、一緒にやってみたら、僕らみたいに普段踊りもしてない人にも、わかりやすく何でも教えてくれて…。 

何もしてない人間からすると、じいちゃんが教えてくれることよりも、その人から教わることの方が簡単ていうか、歳も近いし。 

この人らがいないと無理だなというふうになってきて、今では僕がリーダーになってアーティストの人たちを地域に取り込もうとしています。 

「悪」って思っていたものが、来てほしい存在になって、もうこっち住んでよって感じになりました。 

資源を生かして、生計を立てる仕組みづくりを 

僕は建築業をしてるんで、住まいがあれば外から来たアーティストも地域に馴染んでいけるんじゃないかと考えることがあります。 

ただ僕も含め、どう仕事をしてどう生活をしていくかっていうのは、過疎地域ではかなり課題ではあります。僕はそれを個人レベルではなくて会社という組織や、地域のコミュニティの中で考え、みんなで共存して生活していくことを目標にもしています。 

今は里に下りてきて、だいたい山から1時間ぐらいのところに会社があるんですけど、建築の仕事だけではなく、カフェやパン屋も経営しています。山には林業があって、食や資源がたくさんあって、建築もその出口のひとつ。それを六次産業化していきたいと。ビジネスとしても成立するようにしていきたいんです。 

アーティストの価値感に影響を受けて 

そうなったときにお金のことがやはり一番最初に来るんですけど、僕が衝撃を受けたのは、アーティストの人たちって、意外とお金のことが全然遠くて…。とにかく自分のやりたい表現がある。僕は結構それが衝撃で、自分の周りにはそういう人があんまりなかったんで…。それは今の商売にも影響を与えられました。農業と林業とかってお金のことばかり考えていくと踏み出せないところもあるんですけど、自分がやりたい商売の形とアーティストさんのやりたいことへの感覚と、結構一緒やったんやなって思ってます。 

外の力と一緒に、30年後にも集落に「生活」を残していく 

今後のことを言うと、アーティストの人たちと、ホームステイのような形なのか永住っていう形なのかわからないんですけど、交わっていけて、その結果、集落に伝統芸能も残り、生活も残っていく。30年後に人口ゼロって言われてきた限界集落でも、アーティストの人との親交によって、そこで営まれてきた暮らしが残っていったらと。 

生活が残っていくために、親交はすごく大事だなあと思っていて。たまたま僕らの地域には「六斎念仏」という伝統芸能を通じて親交が生まれたんで、それを膨らませていけたらと思っています。 

ゲストスピーカー その2  片岡 優子さん 

長崎県五島市在住。NPO法人BaRaKa 代表理事。2014年から「五島 海のシルクロード芸術祭」を主宰、五島の伝統芸能や自然とリンクしたアートプロジェクトを企画している。五島の小さな宝石箱ウェブ「Shimania」設計者。できるだけ地産地消、自給自足のカフェ、Slow Cafe たゆたう。を経営。 
http://tayutau510.com/ 

3.11で変わった価値観 

こんばんは。長崎県の五島列島の中の南にあたる福江島、五島市に住んでおりますNPO法人BaRaKaの代表 片岡優子と申します。 

Slow Cafe たゆたう。というカフェも経営しております。 

私は高校まで五島で暮らして、卒業後、大学進学から東京に長く暮らしました。五島には何もない・未来がないと周りの大人たちも言っていたので、一刻も早く五島を出たいと思っていました。都会に行けば何かが見つかると。 
ところが、もがいてももがいても自分には何もない。 
東京で自分には何もできることがないし誰からも必要とされていないと思って満身創痍で、2010年の10月に五島に戻ってきました。東日本大震災の半年前です。 
これから私はどうしたらいいんだろうという気持ちで五島に帰ってきました。 

ところが2011年に東日本の震災が起きて、自分の中でパラダイムシフトが起きました。 
今まで信じてきた価値観が崩れたんですね。きらびやかな都会できらびやかな自分になろうと必死に何かを求めて頑張った。原子力発電所は爆発した。全くの無知で、その恐ろしい存在を意識せず暮らしていた。常に「何かにならなければ」と焦燥感を抱いて求めていた「何か」はそもそも何だったんだろう。。。と考え始めました。 
 
何を求めていたのか答えが出なかったので、五島で何か頑張ろうと思って畑を耕し始めました。なんかもう、本当に原発事故に衝撃を受けて、ズルをせずに限界まで頑張ろうと思いました。それから家族の力を借りて映画上映などを始めました。それがNPOを起こすきっかけ、自分の五島での活動の原点ですね。 
ド保守的で嫌いだった故郷の五島を、何も知らなかったなと思って見つめ直したこの10年間でした。 

自分の体を使って、地産地消で提供するカフェ 

五島には、仔牛が神戸牛や松坂牛になる五島牛という美味しい牛がいるのですが、Slow Cafe たゆたう。で、その牛を100%使用した五島牛バーガーや、できるだけ無農薬野菜・地産地消のメニューを提供しています。こだわるけど囚われない、が信条です。 
パーマカルチャーという言葉を知って、「循環」を意識して農作業を始めたんですけど、無農薬とか里山主義とかをアピールする人たちが新興宗教的で田舎暮らしの綺麗事を発信しているだけで実際には自分の手を汚していない人が多いことにうんざりしてしまって。 
机上の空論ではなく、現場で自分の体を使って、安心安全な作物を作ってそれをお客さまに提供したいという思いになりました。 
店の地元スタッフから借りている広い畑、一反ぐらいあるんですが、それをほぼ一人で耕して、玉ねぎや、レタスとか、店で使う野菜は自分でなるべく育てるようにしています。無農薬で五島牛の堆肥や店の残飯を循環させて、土を作っています。 

地域にある伝統芸能や民俗行事がいちばんのアートプロジェクト 

カフェは、元は岩盤浴施設だった建物で100坪あります。まだ半分しか活用できていなくて、今ちょうど改修中なんですね。カフェの部分と、別に小部屋をギャラリーとして活用したいと考えていて、五島の文化創造拠点としての役割を担いたいなと思ってやってます。コンサートをやったり、地域に開いていく場として経営していけたらと。 
NPOの活動としては、「五島 海のシルクロード芸術祭」というプロジェクトを、2014年から継続しています。五島の伝統芸能や風習、自然の魅力が唯一無二で恐ろしいほどの魅力があるので、それを島内外に共有しようとやっているプロジェクトです。 

国の重要民俗無形文化財の五島神楽や「ヘトマト」、そして念仏踊りなどの風習とか伝統芸能とかがたくさんあるので、それが島の一番のアートプロジェクトかなと思っています。 

地域のアートは、リ・デザインすることから? 

五島のような地域でアートとの接点を考える際に、現代アートをハードで持ってくるような、外から活性化のために何かを持ってくるっていうのもブランディングのひとつの方法かとは思うんですけど、なんせお金がかかる。 
実は、五島の商店街の祭は「福江みなとまつり」というねぶたがメインのお祭りです。私は、青森県の祭・青森県人のソウルである祭を模倣して地域の祭にするということに違和感を覚えて、五島の祭を作りたいという気持ちで「五島 海のシルクロード芸術祭」を立ち上げました。 
梅本さんがお話しされたように、地域にはもう既に「あるものがある」んですよね。 
よく「島には何もない」という人が多いのですが、島にはあるものがあるので、都会にあるようないらないものを持ち込む必要がない。そこを特に五島に住まうみんなと共有していきたい。 

色々な方々の協力を得て、五島にすでにあるものをアートプロジェクトとして、色づけというか、リデザインしていく。 
島に既にある宝に厚化粧じゃなくて薄化粧をほどこしていく。そういう発想で自分の芸術祭は考えています。 
 

今、ウェブサイトも立ち上げていて、五島の大きなものよりも、小さなひと、こと、もの。地域の宝として島内外と共有したいという気持ちでウェブサイトを制作中です。観光ガイドには載らない、地元の人でも行かないような場所にも、素晴らしい景色があります。地元に住む私には当たり前の景色の、ハッとするような美しさを切り取る力や独自の視点がアーティストにはあるので、協働を続けたいです。 
 

これからの目標としては、文化芸術はお金にならないと思われがちなので、文化芸術の力で地域にお金を循環させていく仕組みをつくりたいと思っています。 
文化芸術は表立ってお金を動かしているように見えにくいのでその存在が軽んじられる、人々に必要でないように捉えられていると思います。 
五島は世界遺産・日本遺産でもあり、文化の島です。豊かな伝統芸能などから鑑みるに太古の昔から経済活動は文化のために行われてきたと言っても過言ではないのに、現代はその順序が逆になっています。五島ではお金を動かすことができる組織は文化芸術にほとんど興味を持っていないように思います。 
 
文化はお金を稼ぐことができるんだということをアピールするために、島の物産展を開催して、それを消費だけで終わらせず私たちの発信をキャッチしていただいた人・地域と、交流をしていくような仕組みを作る。文化芸術活動を織り込みつつ、島外に五島の物産を売っていく、そして五島のひと・もの・ことを紹介していく。
そういう活動をしようと思っています。 

<参加者の声より> 

◆アートの側は地元の人々がどういった感情を抱く可能性があるか、配慮しなくてはいけないし、たとえ役所が誘致しているものだったとしても、役所任せにせずに自ら丁寧なコミュニケーションを地元の人々と取っていくことが不可欠だと気づかされた。 

◆お話の中で、「奪われる・盗られる」という感覚に、ハッとした。地域外の者が事業や活動に取り組む中で、気づかないうちに、地域の方の大切な何かを奪っていないか、立ち返る必要があると感じた。アートは、私たちが何を大切にして生きているか、を考えるきっかけになるのではと感じた。 

◆今回は、アーティストを受け入れる地元の方たちのお話で、共感しながら聞いていました。具体的イメージがつきやすかったです。梅本さんの「とられる」という意識は、地元民として生まれてくる感覚は確かにあり、それが原動力となっていることについて納得しましたし、希望が見えた気がしました。
「よそもの」と出会い、「消費」「搾取」ではない関係性がじわりじわりと形成されていくことは理想的だと感じました。

◆効率のよさや、費用対効果とは相反してしまうのがアート活動だと思っている。

◆いろんな地域でいろんな試行錯誤がなされているが、良いこと悪いことのシェアがなされていないんじゃないか。そうすると、いつまで経っても同じことを議論し続けることになりそうな気がします。 

◆お金を稼ぐこととアートをやることは対義のような気がしたが、
片岡さんが「アートでお金を稼いでやる」と言っていて、ん?と思ったけれど、 
質問した時に「地元の文化財などを薄化粧のまま残そうという意志があるから続けている」ということをおっしゃっていて、とても納得がいった。 

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近日、第4回の研究会の報告記事を掲載いたします。また年明けの1月9日には、半農半アートフォーラム『文化からみる農ある暮らしの価値』も開催予定。お申し込み受付中です。 

フォーラムについて、詳しくはこちらへ ↓


■「第3回半農半アート研究会」(2021年12月13日)登壇者プロフィール

梅本 匠(松井建設株式会社 取締役)
安曇川高等学校を卒業後、松井建設へ就職。仕事をしながら国家プロジェクト大工育成塾に入塾。家業は林業で山の木を生かすために大工を志す。現在は、松井建設の取締役。地域の自然資本を生かすブランドとして晴耕舎を立ち上げ、林業、農業、建築、カフェ、パン屋、エネルギー等の事業を行う。全てに共通することは循環です。プライベートでは、故郷の無形文化財になっている六斎念仏の継承に取り組んでいる。
https://www.matsui.tv/

片岡 優子(NPO法人BaRaKa 代表理事)
2014年から「五島 海のシルクロード芸術祭」を主宰、五島の伝統芸能や自然とリンクしたアートプロジェクトを企画している。五島の小さな宝石箱ウェブ「Shimania」設計者。できるだけ地産地消、自給自足のカフェ、Slow Cafe たゆたう。経営。
http://tayutau510.com/

武田 力(演出家・民俗芸能アーカイバー)
俳優として欧米を中心に活動後、演出家に。過疎の進む滋賀県朽木古屋集落の六斎念仏踊りの復活/継承に関わるなど、民俗芸能の構造から現代社会を観客と軽やかに思考する作品を展開する。近年では、フィリピン・Karnabal、中国・上海明当代美術館の招聘を受け、作品を制作した。横浜市芸術文化振興財団2016, 2017年度クリエイティブ・チルドレン・フェロー、2019年度国際交流基金アジアセンターフェローにそれぞれ選定された。

長津 結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院助教/アートマネジメント)
アーツ・マネジメントや文化政策に関する研究や実践を通じて、異なる立場の人々がどのように協働することができるのかを探求。ソーシャルアートラボで2016年から八女市黒木町笠原地区との協働により、アートプロジェクトの企画運営や奥八女芸農プロジェクトの立ち上げを行う。

情報

日時・場所

2021年12月13日(月)19:00~20:30

オンライン(Zoom)開催

登壇者

ゲスト:梅本 匠(松井建設株式会社 取締役)
片岡 優子(NPO法人BaRaKa 代表理事)

聞き手: 武田 力(演出家・民俗芸能アーカイバー)

全体進行:長津 結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院助教)

主催

九州大学大学院芸術工学研究院社会包摂デザイン・イニシアティブ

共催

認定NPO法人山村塾

 

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