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【横からすいません 番外編】 エネルギーをめぐる社会の課題と、考えるきっかけのためのデザイン

2022.12.30

来年(2023年)の展示会の宣伝をさせていただきたく、年末ご挨拶兼ねた番外編です。

まずは展示会

理学系の先生と一緒に行っている研究です。

技術が社会をどうつくっていくか。社会のために技術をどう使うか。を考えるための研究展示です。具体的なデザインを示すとどうしても、最終成果物・作品のように見えるのですが、今回の展示はそれは一切なく、みなで将来を考えていくためのアプローチをたくさん示そうとしたプロセスのデザインです。

まずは、この展示の基本となっている「ダイレクト エアー キャプチャー」というものを簡単に説明します。
二酸化炭素の「排出量を減らす」方法だけでは、排出量は抑制されても、空気中の二酸化炭素そのものが減少することはありません。そこで注目されるのが、空気中から直接「二酸化炭素を回収する」技術です。しかも、ただ回収するだけでなく、回収した二酸化炭素をまた別の化合物や価値あるものに変換していくといった先端技術です。その技術を使った製品や会社や都市を考えて、技術の進展を促し、社会の対話を促し、未来社会の可能性をみんなで楽しく考えようとするものです。

社会包摂デザインとして、エネルギーの包摂性を見ていきたいと思います。

エネルギーと戦争

明治時代、日本の近代化におけるエネルギーの中心は、石炭でした。石炭は火力や動力ともなり、北海道や九州、ほか全国で採掘され、一時期は日本の一大産業でした。
新潟県など日本海側で「国産石油」が採掘され、盛んに販売されていた時期もありました。普及し始めた自動車への利用なども広まりましたが、埋蔵量がそれほど多くないこともあり、アメリカからの輸入が増えて以降、採掘自体はそれほど行われず、殆どを輸入に頼るようになっていきました。

1934年(昭和9年)に、最初の石油業法が施行され、戦時下に向けて貯蔵を義務付けたり、備蓄のための会社をつくったり、配給制にしたり、石油の生産・消費をコントロールしようとしました。アメリカ・イギリス・オランダが日本の動きを抑制しようと、1941年、日本への石油輸出を禁止しました。太平洋戦争の勃発のきっかけの一つとも言われていますが、エネルギーの確保が戦争の原因でもあり、様々な駆け引きの対象となりました。いまウクライナでの戦争でもエネルギーの確保や分断が国家間のカードとなり、一般市民が被害を受けてしまっているのです。

エネルギーの法と税金と特別会計

二度のオイルショックも、同様に産油国の政情不安定が契機となって起こったもので、産油国の政治戦略のための道具として使われました。価格の引き上げや、敵対国への輸出禁止により、起こりました。

オイルショックを受け、国はその問題を解決・管理するために様々な法律を作りました。

・エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)

・石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律(代エネ法)

・石油の備蓄の確保等に関する法律(石油備蓄法)

・石油需給適正化法

資源エネルギー庁も、1973年に当時の通産省の外局として設置されました。

問題の原因を減らしましょう(省エネ法)、問題をなくすようにしましょう(代エネ法)、問題が起こった時には対処できるようにしておきましょう(石油備蓄法)と捉えると、このような複層的な法・ルール整備は適切であると思えます。

一方で、1972年には「石炭対策特別会計」が「石炭及び石油対策特別会計」に変更されました。その後、行政改革推進法に基づき、2007年(平成19年)にエネルギー対策特別会計が設置されました。石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計と電源開発促進対策特別会計を一緒にして、エネルギー対策に関する予算をはっきりさせようとしたものです。エネルギー需給勘定、電源開発促進勘定及び原子力損害賠償支援勘定に分かれています。エネルギー対策特別会計は、石油石炭税と電源開発促進税が財源となっています。独立した経理管理が行なわれる会計のことです。

ちなみにガソリンにもこの石油石炭税はかかっているのですが、他にもガソリン税・温暖化対策税がかかっています。更にそれら税金と本体価格を合わせたものに10%の消費税がかかっています。

ちなみに、特別会計は現在「交付税及び譲与税配付、 地震再保険、国債整理基金、外国為替資金、 財政投融資、エネルギー対策、労働保険、年金、食料安定供給、 国有林野事業債務管理、特許、自動車安全、東日本大震災復興」があり、様々な省庁が所管しています。

ルール・財源・事業と、いくつも重なった複雑な法整備・課題アプローチが見てとれます。こういった仕組みの理解も、社会包摂デザインにおいて重要なところです。

電気料金の内訳はどうなっている?

電気料金も、ややこしいです。

資源エネルギー庁によると


https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/spec.html

月々の電気料金は、契約容量で決まる基本料金と、使用電力量に応じて計算する電力量料金に、再生可能エネルギー発電促進賦課金を加えた合計です。電力量料金は、使用電力量に基いて算定し、「燃料費調整額」を燃料費の変動に応じて加算あるいは差し引いて計算します。

<参考> 燃料費調整制度

  • 電気をつくるために必要な燃料(原油・LNG・石炭)の価格は、市場や為替などの外部要因により変動します。
    燃料費調整制度は、これらの価格変動に応じて電気料金を調整する仕組みです。
  • 全日本平均の輸入燃料価格の変動に応じ、毎月、自動的に電気料金の調整を行います。

これらも、電力自由化により様々なプランが出てきていることは皆さんご存知のとおりです。

モノやコトの金額は、単なる原価と利益だけでなく、税金やその使用用途などを合わせて見ていくことで、社会の仕組みや行政の考え方がわかってくるような気がします。

デザインフィクション

もう一度、展示会に戻ります。

この展示会は、
技術礼賛でも啓蒙でもありません。新しい技術の社会性を考えることで、未来の社会のあり方やその課題に気づき、対話していこうというものです。

展示している製品やグラフィックには、それぞれ、そんなに根拠はありません。でも楽しく、真剣に考えました。真剣に妄想しました。わからないところもあるけど何か納得できる、自分たちも考えたい、伝えたい、気づいたことを話したい、そんなふうに思える機会を作るデザインです。

こんな未来を作りましょうではなく、何を考えるべきかを一緒に考えていくためのデザインアプローチです。

技術と未来社会がどうなっていくのか、どうあるべきかやどうするべきかではなく、まずは表現してみました。それにより、様々な対話や気づきや可能性を見い出しました。技術の答えでも、成果物のデザインでもありません。楽しい未来を考えるための、デザインからの投げかけです。こういった方法が未来構想デザインとなっていきます。

社会包摂デザインで、論理や定義ではない、アートやデザインからのこういった表現からの投げかけが次の課題解決や課題発見につながると信じています。

皆様、
本年も大変お世話になりました。コラムも2023年3月までぼちぼち続けて行きます。さまざまな投げかけをしながら、これからも皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

来年もよろしくお願いいたします。

2022年(令和4年)12月30日

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