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14 子ども? 成人式?

2023.1.3

みなさん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いたします。

来週の月曜日は成人の日です。日本の祝日は「国民の祝日に関する法律」で定められています。

成人の日はもともと元服の儀が行われていた小正月の1月15日に定められていましたが、「国民の祝日に関する法律の一部を改正する法律」いわゆる「ハッピーマンデー制度」で、1月の2週目ぐらいの月曜日になりました。

”祝日”という仕組みのデザインについては別の機会に触れるとして、、、

成人式

今年(2023年)の成人式は20歳、19歳、18歳の方がまとめて、成人式を迎えることになりました。というのも、民法改正で2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられてから初となる成人式だからです。と言っても、成人を祝う式ではなく20歳をお祝いする会に改める自治体も多いようです。成人とは何か、成人式とは何かを考えるよい機会になったように思います。
明治から今まで約140年間、日本での成人年齢は20歳でした。2016年に公職選挙法の選挙権年齢の投票権年齢が18歳に変更されるなどの動きはありましたが、民法という市民生活に関わる重要な法律でも成人年齢が18歳に引き下げられたことは、とても大きな変化だと思います。

未成年の場合は、携帯電話を契約する、部屋を借りる、クレジットカードをつくる、ローンを組むといった時に、親の同意が必要です。しかし、成人になるとこうした契約が自分でできます。また、親権の影響はなくなるので、自分の住む場所、進学や就職などの進路なども自分の意思だけで決められるようになります。また、10年間有効のパスポートを取得したり、公認会計士や司法書士、行政書士などの資格を取得することができるようにもなります。ちなみに、なぜ未成年者が5年間有効のパスポートの申請しかできないのかと言うと、成長の過程で外見が大きく変化するからという理由だそうです。

田中治彦(2022)『成人式とは何か』岩波書店

親権

ちなみに法務省は「親権」を
「子どもの利益のために、監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限であり義務であるといわれています。親権は子どもの利益のために行使することとされています」
と説明しています。

さらに見ると、
「父母の婚姻中は父母の双方が親権者とされており、父母が共同して親権を行使することとされています。父母が離婚をする場合には、父母のうち一方を親権者と定めることとされており、離婚後は、その者が親権を行使することとなります」
と書かれています。しかしながら、「親権」は子どものためという大義名分で濫用されることの多い権限で、暴力や放置といった児童虐待の相談件数も増えています。民法では「親権」を認めながらも、そこに一定の制限を加える「親権制限制度」や「未成年後見制度」を定めており、法を法で制御しなければならない、とても難しい社会の状況にあると考えられます。

また、18歳成人の民法改正と同時に、女性が結婚できる最低年齢が、16歳から18歳に引き上げられました。これにより、結婚できる年齢は男女ともに18歳以上となりました。

婚姻開始年齢に女性16歳と男性18歳という差が設けられていた理由として、外務省によれば、
「婚姻は、社会の基礎的単位である家族を新たに形成する行為であるから、ある程度の成熟に達していない者には認めるべきでなく、それゆえ、法律は、婚姻に必要な成熟に達していないおそれのある若年者の婚姻を一律に禁止している。しかし、男女の間には、肉体的・精神的側面において、婚姻に必要な成熟に達する年齢に差異がある」
からだそうです。では、なぜ法務省ではなく外務省が説明しているのかと言うと、「児童の権利条約」に民法が抵触していないことを説明する必要があったからであるようです。国立国会図書館のとりまとめによれば、8世紀頃の律令制の時代には既に男性15歳、女性13歳という婚姻開始年齢の差があり、明治時代の民法制定時にフランスに倣って年齢差を設けたという経緯があります。外務省の説明は、単なる伝統を規範的な話にこじつけているようにしか聞こえません。

ベビー プチ ミニ ヤング

ベビーリーフ(野菜の幼葉の総称)、ミニトマト、プチトマト、ヤングコーン、芽キャベツなど、小さいものや若いものを「ベビー(ベイビー)」や「ヤング」といった子どもに喩えた言葉は、多くあります。また、九州ではブリは、

ワカナゴ → ヤズ → ハマチ → メジロ → ブリ → オオウオ

と、大きさにより名前が変わります。こういったいわゆる「出世魚」の名づけ方は、海外ではあまり見られないようです。同じ生物種なのに、どうして大きさや年齢によって名前が変わるのでしょうか。動物や野菜の呼び名の場合は、商品として売り出す際に、若さや新鮮さを強調して差異化しなければならないという人間側の都合によることが多いです。

子どもとは

改めて、「子ども」とは何でしょうか。まず、書き方を見てみます。

  • 子供」  これは文部科学省がもともと推奨している表記でした。
  • 子ども」 法律文でよく使われる表記だそうです。「供」が供え物からの由来という説があったため、「供」が差別的な要素とみて、それを取り除くするための書き方だったそうです。
  • こども」 一番やわらかい表現で「こどもの日」などには使われていました。ところが「こども家庭庁」の設立準備室が、「子供」「子ども」「こども」を「こども」に統一するように依頼文を出したそうです。2022年6月に成立した法律も「”こども”基本法」です。

厚生労働省子ども家庭局の名称はそのままだそうですし、それ以前の法律には「子ども」の表記はたくさんあります。

歴史家のフィリップ・アリエスは、西洋社会では中世まで「子ども」という概念は明確ではなく「小さな大人」として扱われていたことを論じています。そうした時代に、哲学者のジャン=ジャック・ルソーは『エミール、または教育について』という著作の中で、子どもを「小さな大人」ではなく「子ども」として扱うという近代教育の礎となる考え方を初めて提唱しました。つまり、子どもは大人とは全く異なるものであり、子どもには子ども固有の環境が構築されているというアプローチです。

戦後には、日本の漫画やアニメでロボットが大流行しました。今でも日本のロボット好きは世界でも有名です。文学研究者の山田夏樹は『ロボットと〈日本〉―― 近現代文学、戦後マンガにおける人工的身体の表象分析』で、戦後日本におけるロボットを操縦する子ども、あるいはロボットと子どもの関係には、子どもに未来を託す社会全体の気分が投影されてきたと評しています。子どもの未来は大人の未来よりたくさんあることは間違いありません。夢も希望もあるのです。

保育

「保育」という考え方があります。コトバンクでは、「生まれて間もない人を、保ち育てる営みのこと。一般に乳幼児期に対する行為を表すことばとして使用されている。また、保育とは、乳幼児の生命を護(まも)り保ち育てる、あるいは護り保たれるなかで育つ行為のことをいう」と説明されています。

保育園は英語で nursery school、day‐care center と言われることもあるそうです。ちなみに保育士も(child-care) nurse (ナース)と呼ばれているそうです。

保育士は国家資格であり、業務内容も多岐に渡っています。保育士国家試験の項目を紹介してみます。

  • 1. 保育原理
  • 2. 教育原理および社会的養護
  • 3. 子ども家庭福祉
  • 4. 社会福祉
  • 5. 保育の心理学
  • 6. 子どもの保健
  • 7. 子どもの食と栄養
  • 8. 保育実習理論かつ実技(音楽、造形、言語(2科目選択))

それぞれの詳細も、教育・心理・法律・行政・保健・栄養・芸術コミュニケーションなど多岐に渡り、とても高度な内容です。保育士を目指さない方にとっても、教育原論として学習するのに大変優れた内容なので、一見の価値ありです。

キャリア・ステーション(2020)『まんがでわかる 保育士らくらく要点マスター』実務教育出版社

待機児童の問題構造は?

さて、待機児童の問題は、いくばくかは改善されたとは言っても、まだまだ困っている方がいることは事実です。保育園や託児所が少ないこと、保育士の労働報酬の低さ、それに起因する人手不足などが課題視されています。

その他にもまだ課題はあります。

例えば、確定申告で保育料を必要経費にすることはできません。所得税の計算上、経費として認められるものは業務上の費用であるためで、保育は家事費に相当するため認められないそうです。児童手当はその損失を補う考え方に依拠しているらしいですが、児童手当はあくまでも中学校卒業までの児童を養育している方全般に支給されるもので、対象範囲が異なります。託児などに必要な費用を経費として認めるというちょっとしたことだけで、労働報酬や人手不足の問題を引き起こす市場構造は変わるのではないでしょうか。単に人や場所を作るだけでなく、総合的な仕組みの改善や創造が重要ではないかと考えます。


リーガル・デザイン・ディクショナリー

18歳選挙権:
改正公職選挙法が2016年に施行され、選挙権の年齢が18歳以上に引き下げられました。政府は、少子高齢化の進む中で人口の多い高齢者の意思に対し、人口の少ない若年者の意思が政治に反映されにくいという構造的問題に対処するための施策として位置付けています。他方で、政治活動が禁止されてきた高校生に対し、主体的に投票を行うための主権者教育をどのようにするかなどの課題も取り沙汰されました。
(参考:総務省「選挙権年齢の引下げについて」、
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/senkyo/senkyo_nenrei/

成年後見人制度:
民法ならびに任意後見契約法で定められた意思能力が低い状態にある人の意思決定を後見人が手助けするための制度で、程度に応じて後見、保佐、補助に分類されます。1896年から民法で定められていた「禁治産」が前身で、裁判所の宣告により意思能力がないと判断された者の行為能力を制限する制度でしたが、差別的だとの批判を踏まえ、2000年に自己決定の尊重を志向する現制度に改められました。支援を受ける成年被後見人は、当初は公職選挙法の規定で選挙権・被選挙権が剥奪されていましたが、2013年の違憲判決と公職選挙法改正案により、現在は選挙権・被選挙権を行使できます。
(参考:厚生労働省「成年後見制度とは?(ご本人・家族・地域のみなさまへ)」、
https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/

こども基本法:
1994年に子どもの権利条約を批准した日本ですが、子どもを権利主体として位置付ける基本法がありませんでした。第3条の基本理念では「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」と権利主体としての側面が記されていますが、「こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有する」などの伝統的な家族観をめぐる記述は賛否が分かれる点であり、子どもは親だけでなく社会全体で育てていくものだという考え方もあることは留意すべきでしょう。
(e-gov法令検索、
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=504AC1000000077_20230401_000000000000000

ヤングケアラー:
近年、大人が担うことが想定される家事や介護を日常的に担う子どもたちが社会問題になっており、その背景には、公助の削減と共助の不十分さによる家庭の自己負担の増加なども挙げられます。実態把握が始まりました。
(参考:厚生労働省「ヤングケアラーについて」、https://www.mhlw.go.jp/stf/young-carer.html

年収103万/130万の壁:
世帯主に扶養されている人(被扶養者)は年収103万円を超えると所得税がかかり、年収130万円を超えると扶養対象から完全に外れ、社会保険料を負担することになります。パートタイムで働く既婚の女性がこれらのボーダーラインを超えない範囲で働くことを余儀なくされる実態が女性の就労機会を損ねていること、共働き世帯の増加とミスマッチであることが課題として認識されており、「年収130万の壁」と呼ばれます。
(参考:日本年金機構健康保険組合「被扶養者になれる人の範囲」、
https://www.nenkinkikou-kenpo.or.jp/tetsuzuki/index_fuyou/fuyousha_hani/

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