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13 ルールは都合で変わります。ルールはなかなか変わりません。

2022.12.27

バレーボールのルール

オリンピック種目の一つに、バレーボールがあります。スポーツには大きく分けて、人間の土着の生活や文化の中から歴史的に生まれ、スポーツ化していったサッカーやスキージャンプのようなものと、人間が人工的に設計し作り上げたものとがあると言えます。バレーボールは後者に当たるもので、1895年にアメリカの体育教師ウィリアム・G・モーガンが、バスケットボールに向かない子供や高齢者も気軽に楽しめる室内のスポーツとして考案したと言われています。

バレーボールのルールの変遷を少しだけみていきたいと思います。

今も昔も、バレーボールには、3回のタッチで相手コートにボールを返さなければならないルールがあります。しかし、1977年、その3回にブロックの際のワンタッチをカウントしないルールが追加されたことが、バレーボールの醍醐味を増加させたと言われています。それ以前は、ブロックを1回とカウントすると残り2回で返さなければならず、大した攻撃はできなかったのです。

また、サーブ権は得点を挙げたチームに与えられるため、得点を挙げ続ければ、何回もサーブを続けることになります。以前はサーブ権を有するチームのみが得点できる「サイドアウト制」でしたが、1988年のソウル五輪後、第5セットにのみ、サーブ権を問わず得点が得られる「ラリーポイント制」が導入され、1999年からは全面的にラリーポイント制が国際ルールになりました。試合時間短縮を目的とするこのルール変更は、大会運営の難しさや試合時間が長過ぎることに関するテレビ局などからのプレッシャーが影響したと言われています。

1998年に「リベロ」という守備専門の選手が制度化されたのも、大きなルール変更です。一般的に、バレーボールは背が高くて、ジャンプ力が高い人が有利なスポーツですが、低身長の選手も出場しやすく役割の大きいポジションを設け、活躍の場を広げることを目的として採用されたそうです。これによりバレーボールを目指す人が多様になり、また、バレーボールの楽しさが大幅に増したと言われています。

また、2013年にはチャレンジシステム(ビデオ判定)が導入され、2015年には大会で順位を決める方法として、勝ち点よりも勝数が優先されるようになりました。

以上のように、こうしたルールの改正には、スポーツ自体の質の向上、選手の多様性の確保、反則や不正への対応、評価(点数・順位)方法の改善、ステークホルダー(メディアやファンなど)への対応などが理由として考えられます。(ある特定の選手たちを不利にさせるためのルール改正があると言われることもありますが、そんなことはないと信じたいのでここでは挙げません。)

スポーツと性差

オリンピックの話に戻りましょう。東京2020オリンピックでは33競技339種目が実施されましたが、そのうち、開催地の組織委員会の提案で追加できる種目は5競技18種目となっています。東京大会の場合、野球・ソフトボール、ローラースポーツ、スポーツクライミング、サーフィン、空手が追加されました。どの競技種目を選択するかについては毎回大きな議論があります。

オリンピックのスポーツルールの種目には、男女で微妙な差があります。全く平等な種目もありますが、明らかに理不尽なルール差が設けられていることもあります。

例えば、体操には「床」という種目がありますが、この種目では女子だけ音楽を流します。競技時間も男子は70秒、女子は90秒と女子のほうが長く設けられています。

また、現在はルールが改定されたそうですが、ビーチバレーはユニフォームの条件を細かく規定していました。1999年当時、女子選手はビキニ水着を着用することが義務付けられていて、ウエストはへそ下15㎝前後、サイド幅は7㎝以下だったそうです。これは、明らかに……おじさんを中心に作られたルールではないでしょうか。

パラリンピックのクラス分け

パラリンピックには、ルールや方法がオリンピックとよく似た種目もあれば、改定された競技もあります。また、全く新しい競技もあります。東京2020パラリンピックでは、アーチェリー、陸上競技、 ボッチャ、 パラサイクリング(ロード、トラック)、 馬術、 視覚障害者5人制サッカー、ゴールボール、 柔道、パラカヌー、パラトライアスロン、パワーリフティング、ボート、射撃競技、 競泳、パラ卓球、シッティングバレーボール、車いすバスケットボール 、車いすフェンシング、車いすラグビー、車いすテニス、パラバドミントン、パラテコンドーの22競技が計画されました。オリンピックの33競技と比べると少ないですが、種目数は537と、オリンピックの339を大きく上回っています。

例えば、陸上競技では168種目を実施します。100メートルだけで男女合計29種目もあります。それぞれ男女の種目があり、T11、T12、T13、T33(男子のみ)、T34、T35、T36、T37、T38、T47、 T51(男子のみ)、T52(男子のみ)、 T53、T54、T63、T64 という競技コードがつけられています。最初のアルファベットの「T」はトラック種目(競走・跳躍)を意味しており、他にもフィールド種目(投てき)を表す「F」もあります。次の数字は障害の種類を示しています。10番台は視覚障害、20番台は知的障害、30番台は脳性まひなど、40番台は切断や機能障害、低身長などで義足未使用の立位競技者、50番台は切断などで車いすや投てき台を利用する競技者、60番台は切断などで義足を装着して出場する競技者を示しています。その次の数字は障害の程度を表すものです。0~9まで番号が割り当てられていて、番号が小さいほど障害の程度が重いことを意味します。

障害の種類や軽量が同じレベルの選手で競えるよう「公平性」を確保するためにこのようなクラス分けをしているのですが、専門の医師や理学療法士が「身体機能評価」「技術評価」「競技観察」をチェックして障害の程度を見極め、参加資格の可否を確認する作業をしているそうです。このような厳密なクラス分けは、公平に正しく競技し競おうという理由から行われているものですが、そうすることによりそのクラス分けルールをごまかそうとする「障害偽装」も起こってしまっています。ルールがなければ公平な競技ができないが、ルールをつくることが偽装や不正の要因ともなりうるのです。しかし、障害のクラス分けは、今ではパラリンピックの重要な基準であり、ドーピングチェックと同様に重要なテーマとなっています。

このようなルール作りは、多様な人々を包摂するための大変重要な仕組みです。しかし、強いルールや間違ったルールは別の境界線を生み出し、別の差別や仕組みを生み出しかねません。

らい

1907年(明治40年)には「癩予防に関する件」が制定されました。「放浪癩(ほうろうらい)」と呼ばれていた患者や元患者を、ハンセン病療養所に入所”させる”ための法律です。この時点では、療養所の入所者数はハンセン病患者全体の5%程だったそうですが、昭和6年に「癩予防法」が制定されたことで、隔離の対象となる患者の範囲が広がりました。これにより、日本中のすべてのハンセン病患者を療養所に隔離できるようにしたのです。昭和28年には「癩予防法」を「らい予防法」に改定しましたが、「強制隔離」「懲戒検束権」などはそのままで、患者が働くことや、療養所入所者が外出することまで禁止されていました。

その後、こうしたことが何の科学的根拠もなく、間違っていたと判明しましたが、そのことがなかなか理解されないまま風評被害が続き、世論などの後押しを受けて「らい予防法」が廃止されたのは1996年(平成8年)のことでした。すなわち、約90年間もこの法律は続いたのです。もちろん、間違った認識に基づき誰かを排除するルールは作られてはいけませんが、間違ったルールを速やかに改定できなかったことが問題を大きくした原因の一つだとおもいます。

ブラック校則

皆さんも最近よく耳にすることが多いのではないでしょうか。

「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトでは、「地毛を黒髪に強制的に染髪させるというような傷害行為の疑いがあるもの」「地毛証明を提出させるなど個人の尊厳を損なうもの」「水飲み禁止など生命の危機、健康を損ねること」「下着の色の指定とそのチェックなどのハラスメント行為」などをブラック校則の例として挙げています。ルール策定がエスカレートし過ぎて、教員自身がその理不尽さに気付かないということが多々あります。古い社会的背景に応じて作られたルールが時代の変化に対応できないというだけでなく、もう少し根本的な問題として、そもそもルールが当初の目的や根拠から掛け離れてしまうことが挙げられるのではないでしょうか。はじめは「勉強をするために学校を作ったので、そこでの集団生活がうまくいくようにみんなで協力しましょう」という理由で作られたはずの校則が、「下着の色のチェック」や「給食を食べ終わるまで昼休みも一人で食べ続けさせる」といった行き過ぎたものになるというおかしなプロセスを、みんなで考え、チェックすることが大切だと思います。

ブラック校則は、最近になってようやく見直されるようになったそうです。例えば2022年、文部科学省による12年ぶりの「生徒指導提要」改訂が話題になりました。
そして、真っ向から争って廃止していくのではなく、皆が楽しく理解し合える新しいルールのデザインやその考え方が、まちづくりや社会づくりにおいて重要な気がしています。


リーガル・デザイン・ディクショナリー

スポーツ基本法:
1961年制定のスポーツ振興法を2011年に改正した法律で、前文ではスポーツの公共的意義として「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない」ことが記され、年齢や性差、障害の有無にかかわらずスポーツを楽しむ権利の保障が掲げられています。
(e-gov法令検索、https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=423AC1000000078_20200101_430AC0000000057

いじめ防止対策推進法:
大津市中2いじめ自殺事件を背景に、2013年に公布された法律です。それまで私的な問題として処理されてきた「いじめ」が初めて法的に定義され、いじめが犯罪行為に該当する場合には警察と連携して対処することが定められました。
(e-gov法令検索、https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC1000000071_20221001_503AC0000000027

校則:
法的根拠は特にないものの、「教育目的を達成するために必要かつ合理的範囲内」で校長が校則を制定する権限があるという判例があります
(文部科学省「校則について」、https://www.mext.go.jp/content/20210624-mext_jidou01-000016155_002.pdf)。
実は校則が問題とされたのは初めてではなく、1960年代後半には高校生が制服自由化などの校則改訂を求めて紛争を起こす光景も見られました。2017年に大阪府の高校生が校則に基づく黒染め強要で提訴したことを皮切りに、校則の自己目的化(目的を達成する手段が目的になること)が問題視されるようになりました。

生徒会:
中学・高校に設置される生徒による自治組織で、本来は生徒の自主性を育むことを目標とする特別活動として学習指導要領において規定されています
(文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 特別活動編」、
https://www.mext.go.jp/content/1407196_22_1_1_2.pdf)。
日本では、前述した高校紛争に対し、文部省が政治活動の禁止を通達したことで自主的な活動が停滞したとされていますが、欧米圏では教員、保護者、生徒が対等に交渉する機会として重要な位置を占めているそうです。校則に生徒自身の意思を反映させる上で欠かせない視点ではないでしょうか。

生徒指導提要:
2010年から作成されている教職員向けの基本書です。2022年12月に提示された改訂版では、こども基本法を踏まえて、「子供たちの健全な成長や自立を促すためには、子供たちが意見を述べたり、他者との対話や議論を通じて考える機会を持つことは重要なことであり、例えば、校則の見直しを検討する際に、児童生徒の意見を聴取する機会を設けたり、児童会・生徒会等の場において、校則について確認したり、議論したりする機会を設けることが考えられます」と書かれています。
(文部科学省「生徒指導提要」、https://www.mext.go.jp/content/20221206-mxt_jidou02-000024699-001.pdf

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