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17 クオータ制 割り当て制のこと。1/4じゃないですよ。

2023.1.24

障害者雇用

障害者雇用とは、障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用率制度」による雇用のことです。障害者雇用率制度は、障害のある方を、定められた障害者雇用率以上の割合で雇用しなければならない制度のことです。企業だけでなく国や地方自治体にも適用されました。

それは障害者雇用促進法の前身である身体障害者雇用促進法の制定(1960年)から始まります。事業主が雇用すべき障害者の最低雇用率が初めて設定されました。思ったより古くからあったと感じられたのではないでしょうか。しかし、それは努力目標の範囲のもので、強制力はありませんでした。

1976年、身体障害者雇用促進法が改正され、法定雇用率は強制力のある「達成すべき義務」となりました。それにあわせて雇用給付金制度が設置されました。現在の雇用給付金制度は、雇用している労働者数が100人以上の事業主で障害者雇用率を超えて障害者を雇用している1人につき月額2万7千円の障害者雇用調整金が支給される制度です。義務を達成した後はインセンティブがあるという仕組みで、さらなる雇用を目指すことを促す仕組みであると考えられます。

また、障害者雇用率は1976年は1.5%と定められました。以後、1988年に1.6%、1998年に1.8%、2013年に2.0%、2018年に2.2%、2021年に2.3%へと段階的に引き上げられてきました。
しかし、障害者数は、身体障害者436.0万人、知的障害者109.4万人、精神障害者419.3万人であり、もちろん年齢や就業人口などに基づく精査が必要ですが、国民の約7.6%が何らかの障害を持っていることと比較するだけでも、2.3%という数字はまだまだ低いものだと言えるでしょう(2022年5月公表、参考: 厚生労働省「障害福祉分野の最近の動向)。

クオータ制

事業主や公的機関などは、障害者を対象にした「障害者雇用枠」を設けています。クオータ制とは、格差是正のためにマイノリティに量的割り当てを行う手法の一つです。障害者は、まだまだ障害のない方と比べて就労機会が十分ではありません。 しかし、障害がある人が仕事においてハンディがあるとは限りません。さまざまな能力があり、得意なことも不得意なこともあります。これは障害者に限ったことではありません。いわゆる労働市場的な就労のプロセスとは別に、社会参加や自立を目的として障害のある方を対象にした仕組みを設けることは、多様性の確保のために重要であると考えられます。そのため、経営者は、障害者雇用の法的義務を最低限こなせば良いというスタンスではなく、採用後の就労における人事やマネージメントも含めて考える必要があると思います。

法律の整備もあり多くの企業で広く認識され、適用されるようになってきた障害者雇用ですが、少しさかのぼって、歴史的なことを見ていきたいと思います。

古代からの日本の障害者への認識や文化的背景の変遷は別の回で見ていきたいと思いますが、戦前には、障害者は「弱いもの、助けてあげるべき人、支援してあげるべき人」と見られていたり、精神障害者に対しては、治安のための取り締まりの対象とされていた時代でした。そのため、障害者への施策は制度的なものではなく、宗教家(お寺や教会など)、社会事業家、篤志家、名士などによって行われるか、そうでなければ家族による支援が中心となっており、「なるべく世間に知られないよう隠しておくもの」という慣習でした。


福祉三法

戦後、日本国憲法が制定され、同時に社会福祉に対する施策も制定されました。

まず、福祉三法と呼ばれる1946年の生活保護法、1947年の児童福祉法、1949年に身体障害者福祉法が制定されていきました。児童福祉法は福祉諸法の先駆けでもあります。

また、1951年には社会福祉制度の基本となる社会福祉事業法が成立しました。福祉行政において民間の社会福祉事業体の必要性を重視し、社会福祉協議会に関する規定が盛り込まれることになりました。つまり、福祉サービスは行政から措置として提供されるものの、実務的なことは委託された社会福祉法人が行うという、今日の運営体制がこの法律によって定められました。さらに、1960年の精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)、1963年の老人福祉法、1964年の母子福祉法(現在の母子及び寡婦福祉法)が福祉三法に加わり、福祉6法と呼ばれる法的体制が整うこととなりました。

日本の障害者雇用は、身体障害者の雇用から始まっています。これには戦争で負傷した傷痍軍人の就職を進めるためにスタートしたという経緯があり、前述の通り、1960年に障害者法定雇用率が企業への努力義務として導入されたことで、1976年に義務化されています。


障害者基本法

例えば、九州大学での職員採用時の書類には必ず以下のような文言が入ります。

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九州大学では「障害者基本法(昭和45年(1970年)法律第84号)」、「障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年(1960年)法律第123号)」及び「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年(2013年)法律第65号)」の趣旨に則り、教員(職員)の選考を行います。
ーーーーー

上記で参照されている法律について、法律の目的が記された第一条をそれぞれ引いて要約しておきます。

  • 障害者基本法:
    障害者の自立および社会参加等を支援するための施策を定めた法律のことです。
  • 障害者の雇用の促進等に関する法律:
    障害者の職業の安定を図ることを目的とする法律です。職業リハビリテーション推進、雇用する義務、差別の禁止や合理的配慮の提供義務等を定めています。
  • 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律:
    全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としています。

身体障害からはじまった障害者雇用は、知的障害、精神障害の順で義務化されていきました。精神障害者が障害者雇用としてカウントされるようになったのは2006年からであり、雇用が義務化されたのは2018年ですから、大変最近のことです。

1960年の身体障害者雇用促進法制定を皮切りに一般就労への促進が図られましたが、その扱いは障害の種類によって大きく違っていました。まず、知的障害については、精神薄弱者福祉法が同年の1960年に制定され、知的障害者等の入所施設が増加していきます。他方で、精神障害について見ると、1950年に制定された精神衛生法が1965年に改定されました。

1970年には心身障害者対策基本法が制定されましたが、その主な目的は心身障害の発生の予防や施設収容等の保護に留まり、精神障害者は依然として対象外でした。1976年に身体障害者雇用促進法が制定されると、身体障害者の雇用を事業者に義務付ける法定雇用率制度が導入され、納付金制度が導入され、障害者雇用促進法の基礎が作られました。

1980年代に入り、障害者施策の動きが世界的にも活発化してきます。1981年の国際障害者年、1982年の障害者に関する世界行動計画、1983年からの国連・障害者の十年などの国際的な運動に影響される形で、ようやく日本でも進んでいきました。高齢者や身体障害者等が利用しやすい施設の普及を目的に1994年に制定されたハートビル法はその典型例です。

1987年には身体障害者雇用促進法が障害者雇用促進法に改定され、“身体”という言葉が除かれ、雇用される対象に、知的障害者も含まれるようになりました。

高齢・障害・求職者雇用支援機構

こうした法律に関連する支援を総合的に行っている機関として、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構があります。その業務の範囲は幅広く、障害者だけに関する部分を挙げるだけでも、「障害者職業センターの設置及び運営、障害者職業能力開発校の運営、障害者雇用納付金関係業務、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発促進センター、職業能力開発総合大学校等の設置及び運営」と多彩ですが、障害者と事業主に対する適切なマッチング、また就職、職場適応に必要な職業上の課題の把握と改善が、通底した業務となっています。

ただ、こうしたことは障害に限った特別な営みではなく、個々人の適性に応じた仕事を一緒に考えていくというものです。実は障害の有無にかかわらず、職場でのよりよいコミュニケーションをつくり、生産性を上げていく上で、労務や仕事すべてに通じる重要な考え方なのです。

最後に、障害者の雇用に関連する書籍を4冊紹介します。


リーガル・デザイン・ディクショナリー

障害者雇用促進法:
障害者の自立のための雇用推進を事業主や公共職業安定所に義務付ける法律です。1960年に「身体障害者雇用促進法」として制定され、1976年から障害者雇用が義務化されました。1987年に知的障害を対象に含めて現在の名称になり、2018年には発達障害を含む精神障害を雇用義務に含める法改正が行われました。(e-gov法令検索

障害者雇用率(法定雇用率):
障害者雇用促進法に基づき、障害者を一定の割合で雇用することが、従業員43.5人以上の事業主に義務付けられており、その比率が民間企業は2.3%、国、地方公共団体等は2.7%、都道府県等の教育委員会は2.5%と定められています。(参考: 厚生労働省「事業主の方へ」

特例子会社制度:
障害者雇用に特別な配慮をした子会社。親会社との関係、雇用される障害者の人数や全従業員のうちの比率などを条件に、親会社の法定雇用率に加えることができる制度が適用され、障害特性に配慮した職場環境の実現などが期待されています。全国で579社あり(うち東京都に184社)、福岡県には17社あります。
(参考: 福岡県「特例子会社制度のご案内」

精神・発達障害しごとサポーター:
全国の都道府県労働局で2017年から実施されている養成講座です。精神障害者や発達障害者の課題として周囲の理解が不可欠だと考えられていることから、一般の従業員を主な対象に障害に関する正しい理解を促しています。出張講座も実施されています。(参考: 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構

障害者就業・生活支援センター:
ハローワーク、職業センター、特別支援学校などと連携しながら、障害を持つ求職者の就職活動の相談、準備などの支援を実施する拠点で、福岡県内には13ヶ所あります。(参考: 福岡県「障害者就業・生活支援センター」

ハロートレーニング(公共職業訓練・求職者支援訓練):
就労やスキルアップに必要な知識などの習得ができる公的制度で、雇用保険受給者を対象にした公共職業訓練において、国、都道府県、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構などが連携しながら障害者訓練を実施しています。
(参考: 厚生労働省「ハロートレーニング(障害者訓練)」

バリアフリー法:
高齢者と障害者の自立生活を確保するために建築物などの施設のバリアフリー化を義務付ける法律です。建設省管轄のハートビル法(1994年制定)と運輸省管轄の旧バリアフリー法(2000年制定)を統合して2006年に施行されました。
(参考: 日本建築行政会議編「バリアフリー法逐条解説(建築物)2021年版」

私宅監置:
1900年に精神病者監護法により制度化され、1950年に精神衛生法が施行されるまで存在した精神障害者差別の制度。精神病棟の不足で収容不可能な当事者の保護義務を家族などに課し、公に届け出た家庭の自宅の一室に監禁する制度だった。占領下の沖縄では1972年まで実施されていた。(参考: 松本卓也「歴史の闇「私宅監置」に迫る:映画『夜明け前のうた ~消された沖縄の障害者~』」

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