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24 建築基準法からみる社会包摂

2023.3.14

建築基準法という法律はご存知でしょうか。建築の関係者ではなくとも、建物を作る時の法律なんだろうなということは何となくお分かりだと思います。
三井住友トラスト不動産の「不動産用語集」では以下のように説明されています。

国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低の基準を定めた法律。市街地建築物法に代わって1950年に制定され、建築に関する一般法であるとともに、都市計画法と連係して都市計画の基本を定める役割を担う。

遵守すべき基準として、個々の建築物の構造基準と、都市計画とリンクしながら、都市計画区域内の建物用途、建ぺい率、容積率、建物の高さなどを規制する基準(集団規定)とが定められている。また、これらの基準を適用しその遵守を確保するため、建築主事等が建築計画の法令適合性を確認する仕組み(建築確認)や違反建築物等を取り締まるための制度などが規定されている。

憲法に基づき、国民のために建築が満たすべきことを考えた法律だと思います。自分の命や財産を守る方法と他の人の財産や命を守るための方法を規定して、それがちゃんとできているかをチェックし、また、取り締まるための法律です。

非常に分かりやすい構造の法律だと思います。

また、建築基準法が定める基準は、災害や事故が起こるたびに見直されてきました。

その他にも、十勝沖地震が起きた1968年には都市計画法が制定され、1995年の阪神・淡路大震災の後には、耐震改修促進法が作られました。2004年の景観法、2006年のバリアフリー法、2012年の都市低炭素化促進法、2015年の建築物省エネ法などの法律には、さまざまな時代の変化が投影されていると言えます。

今回は建築基準法に着目して社会包摂を考えていきたいと思います。

幼保連携型認定こども園

「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」(内閣府、文部科学省、厚生労働省告知第一号)


幼保連携型認定こども園は「学校及び児童福祉施設としての法的位置付けを持つ単一の施設」と記されています。法律上では、幼稚園は「学校」として、保育所は「児童福祉施設」として位置づけられ、区別されてきましたが、2014年(平成26年)にその両方の機能をあわせ持つ施設として新たに内閣府・文部科学省・厚生労働省告知第1号で定められました。

「学校」を管轄する文部科学省と、「児童福祉施設」を管轄する厚生労働省、そして調整役の内閣府で作られた法律ということなのだと思います。

様々な規定がありますが、その一部を紹介しますと、


〈学級編制・職員配置基準〉

  • 満3歳以上の子どもの教育は学級を編制し、専任の保育教諭を1人配置。
    →教諭一人に子どもを何人割り当てるかが年齢ごとに細かく決められています。それにより以下の面積も決まってきます。

〈園舎・保育室等の面積〉

  • 満3歳以上の園舎面積は幼稚園を基準とし(3学級420m²、1学級につき100m²増) 、居室・教室面積は保育所を基準とする(1.98m²/人、乳児室は1.65m²/人、ほふく室は3.3m²/人)

〈園庭(屋外遊戯場、運動場)の設置〉

  • 満2歳の子どもについては保育所基準(3.3m²/人)、満3歳以上の子どもについては幼稚園基準(3学級400m²、1学級につき80m²増)と保育所基準のうちのいずれか大きい方

などがあります。

つまり、同じ項目で幼稚園と保育所で基準が異なれば、厳しい方を採用するということです。

基準の異なるものを統合する考え方は当然必要です。ですが、その時にどのような法律やルールを適用するのかが難しいところで、基本的には厳しい方を採用しながら、必要に応じて追加修正していくということなんだと思います。新たなルールを制定するのは、なかなか難しい(面倒くさい)ことなのだと思いますし、抜本的改革には大きなコストもかかることですから、このような方法も大きな選択肢の一つになります。

民泊

水田佳苗(2019)『高収益民泊の教科書——「高単価」「高評価」「高リピート」の3高を実現する88のルール』秀和システム


住宅宿泊事業法(民泊新法)は、急速に民泊が増加し、安全面・衛生面の確保の不備や、騒音やゴミ出しなど社会ルールの不徹底の問題が明るみに出る一方で、観光旅客のニーズが多様化している状況に対応すべく、新たに制定された法律です。

民泊新法では、制度の一体的かつ円滑な執行のため、

  • 「住宅宿泊事業者」
  • 「住宅宿泊管理業者」
  • 「住宅宿泊仲介業者」

の3種類が事業者として示されています。その他にも、旅館業法による簡易宿所と、国家戦略特区法による特区民泊もあり、建築基準法の適用の仕方が異なるそうです。

ここでもまた、複数の法律と新たな「民泊」という仕組み、それを受け入れる様々な法律と、それをカタチとして受け止める建築基準法という、またまたややこしい構造が見つかりました。

容積率に不算入となる部分、共同住宅および老人ホーム等の地階の緩和

社会全体で高齢化が進み、既存のアパートやマンションを老人ホームにリニューアルする需要が増えているそうです。老人ホームは廊下や地階を容積率に含めて計算するように定められていましたが、その規制を緩和することで用途変更をしやすくしようということだと思います。

社会の需要の変化に伴い、建築基準法が変化する典型的な例だと思います。

自力避難困難者が利用する用途

建築基準法では防火に対する基準が厳格に、また安全に定められていることは、皆さん経験上よくご存知だと思います。例えば、火事があって避難する際の縦方向移動や横方向移動などの速度を計算する基準は「在館者歩行速度」として定められています。しかし、病院や、就寝利用の児童福祉施設等の利用者は、自力での避難が困難です。ですので、在館者歩行速度が決められず、避難時間の算出ができないことになっています。それはそれで仕方ないのですが、その算出ができないために、これらの施設は、自力での避難を前提とする火災時倒壊防止構造と避難時倒壊防止構造が適用対象外となっています。

避難の基本となっている基準が、独りで避難できない人を対象にしていないという、大きな矛盾があると思います。

避難安全検証法

前述の「自力避難困難者が利用する用途」と関連する重要な項目です。ものすごく簡単に言うと、災害時の建築からの避難に備えて、火事などで煙がある程度充満してくる前に避難できるように準備をしておくことを定めています。煙の充満をできるだけ遅くする方策と、できるだけ早く逃げられるようにする方策を用意する必要があるということです。しかし、こちらも自力で避難できることが前提となっているため、避難弱者や避難困難者が利用する用途の建築には適用できません、、、、。

以下では、少し異なるアプローチで見ていきます。

建築物の形態制限について

建築基準法には斜線という考え方があります。

道路斜線 (建基法第56条第1項1号)、隣地斜線 (建基法第56条第1項2号)、北側斜線 (建基法第56条第1項3号)などです。これもそれぞれに細かい規定や算出基準があるのでここでは割愛しますが、端的に言えば、自分の土地だからと言って好き勝手にして良いわけではなく、隣の人や他の人の日照や通風の衛生や景観をちゃんと考えましょう、というものです。

例えば、「延焼のおそれのある部分」というのも、隣の家が家事になった時のことや自分の居場所が火事になったときに、お互いが延焼しないようにしておくためのものです。

今回は、建築と建築基準法とその他の法律と「人」を対象に見てきました。法律の構造や法律間の関係などを視るきっかけになればと思います。

最後に、その法律との関わり方の例として、吉村靖孝『超合法建築図鑑』(彰国社)の紹介文を引用して締め括りたいと思います。

街には、法規をかたくなに守ったせいで周囲から浮いてしまった愛すべき「超合法建築」が潜んでいる。そんな超合法建築の数々を集め、そこにかかっている法規を読み解いた本。建築法規を実物から推理しよう!
[主な構成]まっぷたつビル、斜線カテドラル、ボディ・ビル、紅白観覧車、赤モノリス、キリン・ビル、とうふ、通せんぼう、親子すみ切り、長靴通り、などなど

彰国社公式サイト

【リーガル・デザイン・ディクショナリー】

土地区画整理法:
公共の福祉の増進を目的に土地区画整理事業の整備に必要な事項を規定する法律です。第76条では違反建築物の処分や代執行について定められています。

災害対策基本法:
伊勢湾台風による甚大な被害を背景に1959年に制定された法律で、国土・国民・身体・財産を災害から保護するための防災体制を国と地方公共団体などが確立することを定めています。第34条第1項では中央防災会議が作成する「防災計画」が定められており、第40条では各都道府県もこれに応じた「地域防災計画」を作成することが定められています。

国家戦略特区:
地域限定で特例措置を認める制度として2014年から指定が始まり、2020年には国家戦略特区法(スーパーシティ法)が制定されました。自治体が国に計画を提案するのではなく、国が主体的に対象区域を選定することでスピーディで大規模な岩盤規制の緩和を目指すとしており、福岡市・北九州市も指定されています。規制緩和により経済や社会を活性化する狙いの下で制定された仕組みでしたが、規制緩和を慎重に吟味する必要性も指摘されています。

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