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18 入国って、ドキドキするんです、、

2023.1.31

入国ということ

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大以前、福岡県福岡市の博多港にはほぼ毎日、海外から大型クルーズ客船が来ていました。主に中国からの観光客で、1回あたり平均2439人、年間326回も寄港していました。このクルーズ船が博多港に着岸する時間はおよそ10時間で、港に着くとおよそ84分で入国審査などが終了します。これは2015年に「船舶観光上陸許可制度」を導入し、審査時間が短くなったためです。これとは別に出国の審査もありますが、それまでは入国審査に150分程度かかっていたそうです。10時間しかいない滞在期間のうち、入国・出国の審査に計3時間以上も費やすことは、海外からの観光客にとっても、消費活動をしてほしい日本の産業にとっても、大きなデメリットでした。それを改善できたという点で、審査時間の短縮化はとても有効な制度となりました。


船舶観光上陸許可制度

この2015年1月に導入された船舶観光上陸許可制度は「訪日外国人増加を目的に導入されたもので、法務大臣が指定した船舶で来日し許可を受けた乗客は、一つの寄港地につき7日以内に帰船することを条件に、ビザや顔写真撮影なしで入国できる。」という制度で、一定の信頼のある船舶や会社であれば手続きを簡便にしても大丈夫であろう、というものです。どんな制度でも悪用されるリスクはあるものですが、2018年の調査では、この制度で入国した660万人以上のうち、失踪した人はわずか171人だったそうです。0.003%ということになります。少ないからいいというわけではなく、この171人が何か犯罪行為に及んでいる可能性も否定できませんが、それでも十分に少ない割合と言えるのではないでしょうか。

カント(1985)『永遠平和のために』宇都宮芳明訳、岩波文庫

出入国管理の目的

出入国管理の目的は何でしょうか。

カントは著書『永遠平和のために』で、世界市民権の一種として訪問権を挙げました。「外国人が他国に足を踏み入れても、それだけの理由でその国の人間から敵意をもって扱われることはないという権利」です。この思想は、世界人権宣言や難民条約において適用されています。

出入国管理の目的は「防犯」、「貿易」、「経済保護」で、それぞれ税関(Customs)、出入国管理(Immigration)、検疫所(Quarantine)、CIQといわれる拠点が担当し、人や物の出入国の管理を行っています。税関は財務省、出入国管理は法務省出入国在留管理庁、検疫所は農林水産省と厚生労働省の管轄になっています。外務省は外交を所轄するところなので、出入国管理は担当していません。ちょっと意外な感じを受けるかもしれませんが、外務省はパスポートの発行は行っているものの、出入国の管理自体は行っていないのです。

農林水産省は出入りさせてはいけない動植物のチェック、厚生労働省は人間を媒介として病気が持ち込まれないかのチェック、財務省は関税のチェックを担当しています。

警察の取締活動

戦前、出入国管理は内務省の担当で、外国人の管理が警察の取締活動として実施されていました。敗戦後、1947年に内務省が解体され、その業務は1949年に外務省管理局の担当となり、内部に「入国管理部」が設置された後、外務省の外局として「出入国管理庁」が発足し、さらに1952年には外務省から法務省入国管理局に移管されたのです。こうなった理由は、当時の行政課題の一つが在日朝鮮人の管理であったからと言われています。なお、敗戦によって朝鮮半島が日本の管理下でなくなったことから、在日朝鮮人は「外国人」扱いとなり、偏見や差別とともに法務管理、犯罪管理の対象となったのです。

法務省入国管理局は2019年に法務省の外局となり、名称も「出入国在留管理庁」となりました。外局ですので、大臣直轄の組織図でありながら、最高検察庁と直接つながった組織図となっています。また、公安審査委員会や公安調査庁と横並びの組織です。

旅券と査証

出入国手続に必要な書類として、旅券(パスポート)と査証(ビザ)があります。

  • 旅券:パスポートは、その人の国籍のある国家の政府が発行する国籍・身分の証明書で、出入国管理の際に提示を要求されます。
  • 査証:ビザは、事前に渡航国へ入国の申請をして許可を得たことを証明する書類ということになります。

在留資格

在留資格にはたくさんの種類がありますが、そのうちいくつかのものを見てみます。

就労が認められる在留資格は現在18種類のうち、特によく知られるのが「技能実習」(技能実習生)で、様々な問題が指摘されている制度です。

この制度は、1960年代に海外進出企業が現地社員を日本に呼び、日本に一定期間滞在させて技術や知識を習得させた実績を踏まえて、1981年に「外国人研修制度」として設置されました。国際貢献や国際協力の一環として作られた在留資格でしたが、実際には、日本国内の足りない労働力の確保として行われているケースが多く、本来の目的は有名無実化しているのが実態だとして、制度や制度設計の見直しが求められています。

就労が認められる在留資格には「介護」(介護福祉士)というものがあります。こちらも日本で人手の足りない介護福祉士を雇用しようというもので、出入国在留管理庁によれば「本邦の公私の機関との契約に基づいて介護福祉士の資格を有する者が介護又は介護の指導を行う業務に従事する活動」とされています。とはいえ、介護福祉士というのは日本の資格ですので、その資格を取得するためには日本に在留しなければなりません。そこで、法務大臣が個々に対して指定した活動に応じて就労の許可を出す在留資格「特定活動」があり、外交官等の家事使用人、ワーキングホリデー等、経済連携協定に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者等などに適用されています。

一般社団法人海外介護士育成協議会編、甘利庸子編著(2021)『外国人のためのやさしく学べる介護の知識・技術 改訂版』中央法規出版.

このように観光や労働力不足に関しては、日本の制度を変えて多くの外国人を受け入れようとしているのですが、その一方、なかなか難民の受け入れが進まず、世界からも非難を浴びています。

そもそも入管(出入国在留管理庁)に難民申請をしている難民とは、どういう人達なのでしょうか。

内藤正典(2019)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』集英社

難民

1951年に国連全権会議において各国で採択された「難民の地位に関する条約」、いわゆる「難民条約」によれば、難民とは「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」ために、「国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」という状況になった人達のことです。

日本も過去には難民に対して大きく門戸を開いた時期がありました。1970年代「ボート・ピープル」と呼ばれるベトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ三国から逃れた人々を約1万1千人受け入れたことがありました。2010年には1202人だった難民申請数は、「アラブの春」以降、毎年前年度比で50%近く伸びました。2017年には2万人近くになり(難民認定数は20人、難民とは認定しなかったものの人道的な配慮を理由に在留を認めた者が45人)、2018年の申請者数は約1万人(そのうち難民としての認定数は42人、人道的な配慮を理由に在留を認めた外国人が40人)となっています。地域的に遠方だということもありますが、日本は404人のウクライナ”避難民”を受け入れました(2022年4月現在)。ウクライナから国外へ避難した人は400万人を超え、ポーランドの受け入れは240万人を上回ります。またカナダの人たちは「助けを求めてやって来た人を難民として保護できることがカナダの誇りだ」という考えを持っているそうです。

名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案

名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案をうけて、出入国在留管理庁では、「現行入管法上の問題点」という報告を公表しています。しかしながら、出入国在留管理庁自体の問題点ではなく、外国人に問題があると捉えられかねない論調が一貫しており、大変危惧しているところです。難民認定手続は、入管庁長官が入国審査官の中から指定した者が従事し、不服申立てがあった場合は、難民審査参与員が審理することになっています。最終的な妥当性には法務大臣が判断しますが、実際の制度や運用の問題も指摘されており、まずはどのような問題があるのか自体を明らかにすることが重要であろうと思います。

平野雄吾(2020)『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』ちくま新書


外国人との共生社会の実現のための有識者会議
首相官邸の「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」では、目指すべき外国人との共生社会の三つのビジョンを実現するための四つの重点事項として

  • 1  円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組
  • 2  外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制等の強化
  • 3  ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援
  • 4  共生社会の基盤整備に向けた取組

を掲げています。しかし、この会議では避難民や難民のことについては一切触れられていないのです。

第72回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞・特別表彰を受けた映画「マイスモールランド」が公開されています。

以下、監督自身が映画を原作に執筆した小説の紹介文を講談社BOOK倶楽部から引用します。

「ここにいたい。願うことも罪ですか? 日本で暮らすクルド人少女の願いと闘いの物語。
幼いころから日本で育ち、埼玉の高校に通うクルド人の少女サーリャは、バイト先で東京の高校生・聡太と出会う。県境を流れる荒川の岸辺で、少しずつ心を通わせていく二人。しかしある日突然、在留資格を失ったサーリャの家族は、就労を禁じられ、自由に移動することもできなくなる……。
現代社会の不条理を、居場所を求めて闘う一人の少女の視点で描き、ベルリン映画祭で高く評価された映画「マイスモールランド」(2022年5月6日公開・嵐莉菜、奥平大兼出演)を監督自ら小説化した注目作。」

川和田恵真(2022)『マイスモールランド』講談社

【リーガル・デザイン・ディクショナリー】

ウェストファーレン条約:
1648年に結ばれた三十年戦争の講和条約で、オランダやスイス連邦の独立と各国の国家主権を認めたものです。各国が自立し、相互に干渉せず、対等な関係を築く「主権国家体制」と呼ばれる近代の国際秩序の礎となっています。

国籍:
日本では国籍の取得条件の原則として、いずれかの親が日本国民であることが定められています。これは「父母両系血統主義」という考え方で、移民が国家の基盤となっている米国やオーストラリアなどでは出生地に基づく「生地主義」が採用されています。

入国管理法:
正式名称は「出入国管理及び難民認定法」。1951年に出入国管理令(政令)として制定され、今でも法律ではなく法律と同等の効力を持つ政令とされています。外国人の在留許可の条件や手続き、出入国在留管理庁の役割などを定めたものでしたが、1982年の難民条約加入を機に難民認定に関する手続きを入管が実施することが定められました。

平和条約国籍離脱者:
植民地時代から日本に在留し、サンフランシスコ平和条約により日本国籍を喪失させられた外国人(朝鮮人や台湾人)を指します。特に朝鮮人は朝鮮の南北分裂後にもかかわらず、「朝鮮」という既に存在しない国の国籍を持つ外国人として扱われ、韓国籍に変更するか、朝鮮籍に留まるかの選択を迫られることになりました。1991年の入管特例法で定義され、特例法の条件を満たした者が「特別永住者」として定められています。

出入国在留管理庁(入管):
法務省入国管理局を前身として2019年に設置された法務省の外局。外国人の出入国管理や在留審査を管轄しており、出入国する外国人の増加による業務の増加などを見込んで改組されました。

入国者収容所:
強制退去とされた非正規滞在の外国人を収容、送還する執行施設で、入管が管轄しています。全国に9カ所以上あり、収容期間の上限は定められておらず、長期間収容されている者が多くいます。2021年のヴィシュマさん死亡事件などを皮切りに、2007年以降に収容中に18人の外国人が死亡するなど、人権侵害や差別的対応が横行していることが批判され、国際人権条約機関が繰り返し入国管理法の見直し勧告をしています。

入国者収容所等視察委員会:
2009年の入国管理法改正で定められた入管による難民認定の第三者機関で、学識、法曹、医療、国際機関・NGOの関係者と地域住民の合計10名の非常勤の委員から成る委員会が東日本と西日本にそれぞれ設置されました。しかしながら、入管職員が視察を設定するなど、不十分だという指摘もあり、2020年には日弁連が独立性や裁量の向上を求める意見書を提出しました。

外国人技能実習制度(在留資格「技能実習」):
出入国管理令に基づく「外国人研修制度」を発展させ、1993年に労働者としての技能を発展途上国に移転する国際貢献を目的に設置された在留資格制度です。研修生として有償の実習を受ける間、最長3年間の在留が許可されます。2017年施行の外国人技能実習法で技能実習の適正実施について定められましたが、移動や職業の自由が制限されるなどの法的問題に加え、弱い立場を利用した高額な手数料や差別的暴力などの問題が依然として指摘されています。

特定技能制度(在留資格「特定技能」):
2019年に新たに設置された人手不足の特定業種に限って外国人の就労を認める在留資格制度。技能実習制度よりも高い技能水準を求める代わりに、在留期間の上限が最長5年となっています。

ノン・ルフールマン原則:
生命や自由の危機に曝されている人々の入国を拒否したり元の地域に送還することを禁止する原則。ユダヤ人大量虐殺に際して難民保護ができなかったことの反省から、難民条約で初めて明文化されました。

国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR):
国連の難民問題に関する機関で、1950年に設立。ノン・ルフールマン原則を徹底するための難民支援を行うために135ヵ国に拠点を構えており、当初は3年間限定の機関でしたが、現在では難民問題が解決するまで活動すると定められています。


【関連】

環境人類学を専門とし、バングラデシュにおけるロヒンギャ難民の研究も行っている芸術工学研究院・谷正和教授(DIDI教員)のインタビュー記事です。
https://www.didi.design.kyushu-u.ac.jp/newsletter/2022_tani/

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