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23 民生委員って聞いたことあるけど、、
行政相談委員・人権擁護委員・保護司・民生委員という制度をご存知でしょうか。
行政相談委員
行政相談委員は、国民の行政に関する苦情の解決の促進のため、苦情の相談をうけ行政の民主的な運営に貢献する役割を担っています。1961年に誕生した制度ですが、1966年には行政相談委員法が制定され、総務大臣が委嘱しています。
人権擁護委員
人権擁護委員は、基本的人権を擁護し、自由人権思想の普及・高揚を図る役割を担っています。法務大臣が委嘱します。1949年に制定された人権擁護委員法に基づき、関連する法律は「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」です。
保護司
保護司の役割は、以下のものとされています。
保護司は、社会奉仕の精神をもつて、犯罪をした者及び非行のある少年の改善更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もつて地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与することを、その使命とする。
(保護司法第一条)
こちらも、1950年制定の保護司法に基づき法務大臣が委嘱します。関連する法律として「更生保護法」があります。
民生委員
民生委員の役割は、以下のものとされています。
民生委員は、社会奉仕の精神をもつて、常に住民の立場に立つて相談に応じ、及び必要な援助を行い、もつて社会福祉の増進に努めるものとする。
(民生委員法第一条)
こちらは1948年制定の民生委員法に基づき厚生労働大臣が委嘱します。 「生活保護法」、「身体障害者福祉法」、「児童福祉法」等、多数の法律と関連しています。
1966年に制定された行政相談委員法を除くと、いずれも、戦後すぐに根拠法が制定されていることが分かります。いずれも無報酬で、地域から推薦された人が任命される仕組みになっています。
『民主主義』という社会科教科書
戦後すぐ、日本人は「民主主義とは何か」を学ばなければならず、文部省(現在の文部科学省)は『民主主義』という社会科の教科書を1948年~1953年に発行していました。そして、先ほど紹介した委員制度は、戦後の日本社会を立て直すために、人権や社会的構成、生活の構築などに関する基本的な理念をフォローするものであり、中央省庁が単独で何らかの問題に対処するのではなく、地域と連携しながら、地域で解決し、相互にフォローするための法律・制度であったと考えます。
民生委員の役割と歴史
今回は、その中でも民生委員について、より詳しくご紹介していきたいと思います。先に述べたように、民生委員は厚生労働大臣から委嘱されます。そして、地域に住み、常に住民の立場に立って相談に対応し、必要な援助の方法を考え、援助を行うことで、地域社会の福祉の増進に努めることとなっています。無報酬であるため、献身的な努力ができ、時間や心にも余裕がある状態の方でないとなかなか務まらない現実があります。
さらに、民生委員は、子どもについて対応する「児童委員」も兼ねなければなりません。児童委員は「地域の子どもたちが元気に安心して暮らせるように、子どもたちを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配ごとなどの相談・支援等」の役割を担います。
先ほど、民生委員法は戦後すぐに制定されたと述べましたが、民生委員という制度自体は大正期からあり、1917(大正 6)年に岡山県で誕生した「済世顧問制度」が始まりだと言われています。当事の岡山県知事が県内の貧困者対策として、ドイツのエルバーフェルト・システム(エルバーフェルト市の救貧委員制度)を参考にしたものだそうです。そして、翌年の1918(大正 7)年には大阪府で「方面委員制度」が作られ、全国に広がりました。
1946(昭和 21)年には現在の「民生委員」となります。名称が変わっても、一貫して生活困窮者の支援に取り組んできたことには変わりがありません。もちろん、時代の変化に応じて新たな活動に取り組む必要に迫られることもありましたが、地域の福祉のために重要な役割を担ってきたと言えます。
2003年に個人情報保護法ができてからは、支援のために個人情報を多く取り扱う民生委員は大変な苦労をし、多くの勉強をしなければなりませんでした。さらには、地域防災を担う役割も担うようになり、障害や多様性についても注意深く配慮する必要があるなど、より多くの役割が求められる大変な立場となっています。昨今では、世界的なコロナウイルス感染症拡大の影響を受け、感染症と直接関係する課題だけでなく、コロナ禍を機に顕在化してきた様々な問題への対応にも迫られています。
こんにちは、民生委員です。
鶴石悠紀著『こんにちは、民生委員です。』によると、民生委員が受ける具体的な相談事の内容は「生活費、借金、家族関係、姑、交通機関、保育園、外国籍、小学校、地震、子供、灯油が切れた、離婚、児童福祉手当、テレビの故障、水道の水が出ない、今もう食べる米がない、近所の人が死んでいるみたい、隣の高校生、木の枝が伸びている、登校中、高齢者施設、年金、後見人、生活保護、介護認定、障害者手帳、、、」などなど、実に幅広く大変だそうです。
また、漫画の『見習い民生児童委員 熊切まどか』(上野すばる 作)という作品もあります。
◆鶴石悠紀(2018)『こんにちは、民生委員です』幻冬舎
◆上野すばる(2018)『見習い民生児童委員 熊切まどか』ぶんか社
ご紹介した上記の2作は、切実な民生委員の仕事や地域の問題、昨今の問題が生々しく語られ、児童相談所との関係なども見えてきます。個々の地域や子どもの問題をここで挙げるにはあまりに際限がないため、ここでは、地域の問題を地域でどう解決していくかを考えてみたいと思います。g
「民生委員のためのハンドブック」大変そうです、、
民生委員にはいくつかのハンドブックがあります。『新版 民生委員のための地域福祉活動実践ハンドブック』、『民生委員のための障害者支援ハンドブック』、『民生委員のための経済的困窮者支援ハンドブック』によると、民生委員の活動で意識すべきこととして、
①近所の人たちが知り合う機会をつくる。
②地域のなかで周囲が気づきにくい埋もれがちな問題を気にかける
の2点を挙げています。
現代社会全体で起きている時流的な変化は、地域福祉の課題としてすぐに現れるものです。やはり、これらのハンドブックでも4つの大きな変化が地域の課題を作り出していると指摘されています。
1. 人口や家族の変化:
少子高齢化を漠然と問題にするだけではなく、少子高齢化によって具体的にどのような問題が起こっているのかを考える必要があります。例えば、子どもが減ることで子ども同士のコミュニケーション機会が減り、子ども同士が遊べる場所も減ってしまうという問題があります。高齢化における「孤」の問題も具体的な事柄として見なければなりません。
2. 非正規雇用など就業形態の多様化:
コロナ禍で特に問題視された非正規雇用など、問題のしわ寄せがどこに行き、それがどのような理屈で起きているのかを考えることが、仕組みのデザインで重要なところです。
3. 近隣関係の希薄化:
近所づきあいの希薄化が言われて久しいですが、過去のような回復は望めないまでも、情報の共有やコミュニケーション方法の多様化による可能性はまだ残されていると思います。個人情報保護法の手続き的な側面も重要ですが、そもそもの同法の趣旨や目的、運用方法を正しく理解する必要があります。誤った知識で運用したり、過度に運用したりしないために、必要に応じて制度の側の修正も考えていくべきです。
4. 外国人労働者・生活者の増加:
現在の日本は、外国人の労働力なしでは持続不可能になってきています。外国から来た労働者・生活者を「お客さん」としてではなく、地域で一緒に暮らす人々として迎え入れるために、言語の問題だけでなく文化を共有し合ったり、法やルールや制度を相互に理解する必要があります。
こうした問題は、結局のところ、地域における関係をどのように作っていくかに帰結します。そのプロセスや方法を考えるためには、多様な人々が互いに理解し合う方法を模索しなければなりません。
「民生委員制度の現状及び今後の課題」
「民生委員制度の現状及び今後の課題」 (厚生労働委員会調査室 鈴木 菜月氏)を参考にさせていただくと、 民生委員の現状と今後の課題として
- (1)負担軽減への対応
- (2)研修の在り方
- (3)不明瞭な職務内容
- (4)災害時における役割
- (5)個人情報の取り扱い
- (6)周知不足
- (7)なり手不足
- (8)主任児童委員の専門性の確保
の8つが挙げられます。
民生委員制度は有効な仕組みだからこそ現代に合った新たなブラッシュアップが必要ですし、その周知活動自体を地域の活動にしながら、担い手不足問題などを解決する必要があると思います。
【リーガル・デザイン・ディクショナリー】
戦後日本の民主化:
戦後日本の民主化はGHQによる間接統治の都合に依るところが大きく、占領初期には開放的な民主化の機運が高まった反面、1951年頃から「逆コース」と呼ばれる政策転換による中央集権化が進み、後退しました。日本国憲法第12条で「国民に保障する自由及び権利」が「国民の不断の努力」によって維持されるものだと定められているように、民主主義は市民自身により維持されるもので、誰かに与えられるものではないという点は重要なポイントです。
地方自治:
憲法第92条の地方自治について具体的に定めた地方自治法が1947年に制定されており、憲法第94条と地方自治法第14条では地方自治体の条例制定権が定められています。これらは、地域住民が自分達の地域の事柄を自分達で決定するための権利だと言えます。他方で、1999年に地方分権一括法が施行され、国との役割分担がより明確化されましたが、地方交付税の削減などで競争力の乏しい自治体が淘汰されるなどの弊害も生じています。
少子化対策基本法:
少子化対策の根拠法として2003年に制定されました。国民の意識や生活の多様性に配慮しつつ、安心して子育てができる環境を整備する責務を政府に課しており、内閣府に少子化社会対策会議が設置されています。
個人情報保護法:
急速な情報化を背景に、個人情報を保護するために2003年に制定され、2015年に改正された法律です。報道機関、著述業、宗教団体、政治団体は憲法において保障される自由を根拠に、それぞれの活動のための利用に限り適用除外とされていますが、努力義務は課されています。公共の福祉と個人の自由の関係など難しい問題があります。