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DIDI.Newsletter(2022年12月公開)

2022.12.26

今号は、シビックデザインラボより伊原久裕先生にお話をうかがいました。社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)において伊原先生は、工藤真生先生と協働でピクトグラムやサインをテーマにプロジェクトを展開しています。伊原先生の研究、DIDIでのプロジェクトなどについてお聞きました。 

伊原先生の研究について 

− 伊原先生はグラフィックデザインを専門にされています。先生の研究についてまずお話を聞かせてください。 

研究のスタンスとしては、グラフィックデザインの歴史をずっとやってきています。私の場合、特にヨーロッパやアメリカの文字を使ったデザイン(タイポグラフィ)やピクトグラムの歴史が研究の柱になっています。その中で、ここ20年ぐらい力を入れているのがピクトグラムです。現在のような図記号の形になる以前からピクトグラムのようなものは存在していて、グラフの技法や地図上の記号として使われていました。そのようなデザインにずっと関心があって研究のテーマにしてきました。 

具体例を挙げて話した方が伝わりやすいかもしれません。1920年代にオーストリアのウィーンで活動していたオットー・ノイラート(Otto Neurath)という人がいました。哲学者でもあり、社会学者、政治経済学者、教育者でもあった彼は、アイソタイプという視覚記号を用いた情報伝達手法を提案しました。ピクトグラムを使って統計グラフや地図などを表現することで、教育を受ける機会のあまりない労働者たちにも社会や経済に関係する出来事を教えるというプロジェクトです。私はこれに関心を持ち、デザインを歴史の視点から追跡してきたという感じです。 

− このようなデザインの歴史に興味をもたれたきっかけは? 

遡ると30年くらい前になります。イギリスでの調査に訪れたところに、たまたまアイソタイプの資料たくさんあったんです。その時は少し気になった程度で、さほど興味は起きませんでした。ですがある時、絵本のような子ども向けのアイソタイプの資料に出合い、そこに載っていたカラフルなピクトグラムを見て「これはすごく綺麗だ!」と強い印象を受けまして。当時は、今のようにインターネットで検索したら図版がたくさん出てくるような時代ではありません。それまで他の資料で見ていたピクトグラムの図版はモノクロが大半で、色があっても赤色ぐらいで、あまり魅力を感じていませんでした。もちろんピクトグラムにも色がたくさん使われていたことは知ってはいましたが、実際にカラフルなものを目にするとその印象がとても強烈で、それでちょっと調べてみようかって思ったのが始まりです。 

直接の動機はもっぱら造形のことにあったのですが、調べてみるとすぐに、アイソタイプを考案したノイラートはなかなか壮大な活動家だったことが分かり、そこにも強く惹きつけられました。またちょうどその頃、情報デザインと呼ばれていた新しいムーブメントが1980年代ごろから盛んになり始めていて、私もそのムーブメントに興味を持っていろんな調べ物をしていた時期とも重なり、のめり込んでいきましたね。 

− 先生が先ほど話されたように、歴史の観点からデザインをみていくと、やはり重要なのは「ユーザーにとって理解しやすいものであること」なのでしょうか。 

そこが結局、「情報デザイン」とわざわざ名前が付けられた要因だと思っています。分野によって定義は異なるのですが、グラフィックデザインの分野では、情報デザインというのは基本的にユーザー中心のグラフィックデザインと言われています。「デザインは人との関係が一番重要だ」というのが、考え方の核心です。ただ歴史を紐解くと、美しいけれども、人が置いてきぼりになるデザインが昔から世の中にたくさんあります。ゆえに、それに対するアンチテーゼとして、情報デザインが出てきたわけです。 

− 先生が研究されてきたアイソタイプは、まさに人との関係を重要視した情報デザインなんですね。 

アイソタイプの教育での利用に関するノイラートの文章を読むと、「勉学の不得手な子どもでもこういう図を見ると、社会や経済というものを自分でも組み立てることができる、そういう感覚を持てるのではないか」ということが書いてあり、インクルーシブデザインの思想の原型と感じています。たんに文字の読めない人だけでなく、可能な限り誰でも理解可能な情報づくり目指すという点で、人を分け隔てしない思想だと思います。 

アイソタイプには、デザイン以前に具体的な目的がありました。つまり、1920年代当時は社会的階級というバリアがありましたし、さらにコミュニケーションにとってのもう1つの大きなバリアとして言語がありました。それらの障壁を乗り越えるひとつの具体的方法としてアイソタイプが作られたわけです。そういう点では、社会包摂ともつながりがあるように思っています。これをずっと追いかけてきた立場から、私も何か貢献ができればと思ってDIDIに参加しています。 

Project:多様な人たちを包摂するサインデザイン実践の方法論と仕組みづくり 

昨年度(2021年度)、シビックデザインラボでは伊原先生と工藤先生が担当で「多様な人たちを包摂するサインデザイン実践の方法論と仕組みづくり」のプロジェクトを実施しました。学生たちが中心になってFINA世界水泳選手権2022福岡大会に向けてのピクトグラムと会場外の誘導サインを考案し、そのデザイン案と研究会で取り上げた内容を紹介する成果展を福岡市美術館にて開催しました。 

プロジェクトで提案したピクトグラムデザインの改良点 
福岡市美術館で開催した「ピクトグラムとサインのデザイン展 FINA世界水泳選手権2022福岡大会に向けて」(2021年11月) 

− このプロジェクトの感想をお願いします。福岡市との協働があったり、福岡市美術館で展示もされましたが、市民に幅広く目を向けてもらえたという手応えなどはありましたか。 

正直に言うと、PRや啓蒙活動をあまり積極的にやらなかったので、もう少し主張すべきだったかなと反省しています。でもそもそもピクトグラムやサインは、広告のような派手なデザインとは違って透明な存在であるべきと思います。つまり空気のようにちゃんと機能を果たすデザインとして、環境に浸透していけばいいと思っています。私たちの考案したピクトグラムやサイン自体も「注意して見ると改良点に気づく」といった、けっこう地味なデザインです。ですが、実際に使用される中で、使いやすいデザインとして存在感が高まっていけばいいなと期待しています。まだ大会が開催されてないので、具体的な評価は難しいですね。 

※ FINA世界水泳選手権2022福岡大会は世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で2度の延期があり、2023年7月に開催。 

− 大会が終わってから分かることもたくさん出てきそうですね。では、難しかった点はありますか? 

このプロジェクトでは、我々の考えていることを大会の組織委員会に受け入れてもらう点が一番苦労したように思います。最初は、既成のピクトグラムにない禁止項目のピクトグラムに限定してデザインをしてほしいと依頼を受けました。しかし既成のピクトグラムにも問題があり、その改良もさせてほしいと提案しましたが、それを理解してもらうのが難しかったですね。また、サインに関しては実際に手掛けるのは委託業者なので、最終的にはそのデザインは我々の提案とは少し異なるものになります。その辺の関わり方や調整が難しかったと感じています。 

− 自治体主体の中で、ものごとを変えていくのはかなり時間がかかることだと思います。 

日本はJIS(日本産業規格)でかなり整備されているので、自治体がピクトグラムを使う場合、JISのものを使うと明文化しているところがほとんどです。東京2020オリンピックもそうでした。 先ほど言ったことですが、FINA世界水泳選手権2022福岡大会でもJISにあるピクトグラムはそのまま使用することになっていました。そこに、我々が「少し変えさせてほしい」と提案したわけです。ただ、中でも例えば「受付」のピクトグラムについては「受付の人が女性というジェンダー固定のデザインは良くない」という意見などは、受け入れてもらいやすかったですね。我々にとっても大きなチャレンジングでありましたし、組織委員会がこれをちゃんと受け止めてくれて、大会で実際に生かしてもらえるのが一番だと思っています。 

   

Project:多様性に応えるピクトグラムのデザイン  

今年度(2022年度)は、伊原先生と工藤先生の協働で、新たなプロジェクト「多様性に応えるピクトグラムのデザイン」をスタートしました。このプロジェクトは、多様性を包摂するため、人やメディアによって、ピクトグラムを選ぶことができるスケール(調整)型デザインの提案を目的としています(詳細はコチラ)。 

− 今年度のプロジェクトの内容について教えてください。 

工藤先生は現場に密着して、障害者、特に知的障害者のための図記号の研究をずっとなさっています。他方、先ほど申し上げたように、私はデザインの歴史を対象に扱った研究を柱にしているので、単純に言うと、「我々2人の研究を足して何ができるかというのを考えたい」というのが今回のプロジェクトの動機です。 

工藤先生がこれまで特に主張されているのが、標準化されたシンボルには負の面があるということです。負の面というのは、万人にとって必ずしも性能がいいものではないということです。これはデザインの重要課題として標準化が目標とされてきた図記号の宿命でもあると思います。実際、その結果、1970年代後半から80年代にかけて、図記号(特に案内用図記号)の国際的な標準化がある程度、達成されました。標準化は、汎用性を高めるため、できるだけ具体性を削ぎ落とす必要があります。ですが、そうやって抽象化された現代の図記号の中には、知的障害のある人や認知症を有する人にとって理解度の低いものが少なからず存在することが報告されています。そういった方々を包摂するのに適した図記号のあり方を探るのが、このプロジェクトの重要なテーマです。 

工藤先生は、そのためには標準化ピクトグラムというよりは、オルタナティブなデザインの考え方が必要だと考えられています。標準化ピクトグラムでは、身体の運動感覚や、感情やコミュニケーションの表現などといった動作や感情表現はできるだけ排除して定型化されています。そういった排除されたものをもう一度見直して加えることで新しいピクトグラムが作れないか、という工藤先生の考え方が、プロジェクトのベースになっています。 

− それには伊原先生が研究されてきた歴史や過去の事例が大きく関わってきますね。 

はい。まさに私がずっと研究してきたものは、標準化に至る前の多様なピクトグラムの在り方でした。先ほどお話ししたアイソタイプも、標準化以前の形なんですね。そういう標準化以前のピクトグラムのいろんな事例を検証していくことで何かヒントが得られるかもしれない、と2人で検討しているところです。 

具体的には、特にアメリカで1930年代に大流行したピクトグラムの資料を参考にしています。この時代のアメリカでは、アイソタイプに影響を受けて、事実を分かりやすく表現する手法としてピクトグラムを用いた情報デザインが盛んに作られました。特徴的なのは、コミックやアニメーションといった大衆文化とピクトグラムの混成表現がしばしば見られたことです。スタティック(静的)なピクトグラムよりもストーリーや情報を伝えるようなピクトグラムがたくさん作られていたのです。このように標準化以前の、表現に幅をもったピクトグラムの資料の中から、可能性のあるものを探し出し、今の標準化ピクトグラムと比較して可能性のあるデザインを探索していくつもりです。具体的な検証としては、工藤先生の分野である知的障害のある方や自閉症スペクトラムの方を対象に、性能を評価してみようと計画しています。 

− 検証の対象は、特別支援学校や特別支援学級になるのでしょうか。 

いまのところ、その予定です。標準化ピクトグラムと申し上げましたが、具体的には特別支援学校などで実際に使われている、イラストレーションや漫画のようなコミュニケーションシンボルと呼ばれるものを念頭に置いています。ですが、その一方で、標準化ピクトグラムから完全に離れた形のものはあまり考えないようにしたいとも思っています。社会の中で使われているものとの連続性をどこかで担保すべきというのが、我々の考え方です。言い換えれば、いわば「にじんだシステム」のようなものが必要と考えています。

− にじんだシステムというのは? 

例えば標準化ピクトグラムがあることを前提に、もう一方で、絵などを加えて感情表現を表すピクトグラムを作ってみる。標準化との連続性をもちながら、ある特定の場所ではこれも使えるというような、選択の幅をもったピクトグラムのシステムが考えられるんじゃないかと思っています。

− スケジュールプランはいかがでしょう。 

今年度から来年度にかけて、アメリカを中心に海外での調査も含め、必要な資料集めを行う予定です。そのうえで具体的なピクトグラムを試作し、実験等で調査をするというペースで進めていきます。DIDIの中では今年度掲げたテーマではありますが、来年度、再来年度も続けていくというスタンスです。 

− このプロジェクトを通して、ピクトグラムのデザインの新しい仕組みを作っていくような青写真はありますか。 

まずモノを作っていくことで何か変えていければというのが、私のスタンスです。仕組みとなると、その先のことなので、難しいところですよね。ただ、標準という考え方ひとつを取っても、その背後には多様な考え方があるということを伝えるだけでも、社会が少し変わる余地はあるのかなと思っています。 

教育面について 

− 昨年度のプロジェクトは学生中心でされていましたが、特に学んでほしかったことは何でしょう。 

実際に、現地を歩いて調査を行い、さらに実物に近いものを作って現場に持って行き、そこで人の意見を聞いたり反応を見たりすることは、デザインの基本です。そこをしっかり実践するようにしましたし、私自身も改めてすごく大事なことと感じました。街頭インタビューもやりましたが、なかなか簡単には協力してもらえず、学生たちにとっては難しく、過酷だったようです。そのあたりも大事な経験だと思っています。 

− 見慣れているものでも、皆が分かるものなのか?と問われると、気づくこともあると思います。これからデザインをやっていく学生にとって、そういった視点や疑問をもつ必要性があるように感じました。 

ピクトグラムに限らず地図などもそうですが、分かっている人にとっては「分かりやすいのは当たり前」と思いがちですが、実際にはそうではないことが少なくない。先ほど、ピクトグラムは「空気のようなものであるべき」と言いましたが、一方でそのことがかえって問題になることが実際あるわけです。「どうして分からないのかが分からない」という疑問をまず持つことが、デザインを考え直すきっかけとなるはずです。そこから、分からないという方々の話を聞いて、分からなさを改めて理解することが本当に大事だと思います。 

図記号やピクトグラムのようなデザインは、大きく言うと、もともとはモダンデザインの理念の産物でもあります。要するに、道路標識のように道行く人が瞬間的に見ただけで、これは何かと分かるようなものが良いデザインだったわけです。そのためにはできるだけ不要なものを削ぎ落として、単純化するのがデザインの一般的なやり方でした。現代ではそうした考えが段々と崩れてきているのだと感じています。視認性に比べると、理解度、すなわち分かりやすさのほうが、以前よりも重要になってきていると思います。分かりやすさを高めようとすると、背景の文脈とか補足情報が必要になります。視認性も大事だが、分かりやすさも大事。その両立が、現代の難しい課題ですね。 

− 「これよりもっといいものがある」というように、今まで見慣れてきたものを疑うような視点を学生に持たせるのは大変なのでは? 

私自身にとっても、疑ってみるという視点を持つのは難しいことなのですが、でもそこが一番大事なのかなと思います。そういう意味では、やはり社会包摂は非常に重要な、モノの見方のフレームだと言えます。私はよく学生たちに「障害のある方のために本当に考え、検証が鍛えられたものは、そうでない人にとっても分かりやすいはずだ」と言っています。信念的なものかもしれませんが、こういう考え方もありうると思っています。 


社会包摂からのピクトグラムの歴史へのアプローチに関心を持つ方へ、伊原先生からのおすすめ本 

インフォグラフィックス 情報をデザインする視点と表現 木村 博之 著 (誠文堂新光社) 

「本書は、SND(The Society for News Design ニュースデザイン協会)の国際コンテスト審査員や中国重慶でのワークショップ講師等、インフォグラフィックスの第一者として国際的に活躍されている木村博之氏が、インフォグラフィックスとは何か、その魅力、表現技法などについてをまとめた初の著書。デザイナーのみならず、もっと分かりやすく情報を整理・デザインするにはどうすればよいか悩むすべての人におくる一冊。」誠文堂新光社サイトより) 

「2010年に出版された本で、少し前のものですが、情報のデザインについて書かれた実践的な本の中では一番よくまとまっています。著者はデザイナーであり、ダイアグラム、チャート、グラフ、マップ、ピクトグラムと5つのカテゴリーで実践的な内容をかなり網羅して、基礎やポイントを記しています。百科事典のようにデザイン例が図解されていて、とても分かりやすくまとめられています。」(伊原先生) 

ISOTYPE [アイソタイプ]』 オットー・ノイラート 著  永原 康史 監訳 牧尾 晴喜 翻訳(株式会社ビー・エヌ・エヌ) 

「事象と意味をつなぐ視覚化(=絵文字化)のシステム、ISOTYPE[アイソタイプ]。開発者であるオットー・ノイラートの多面的な活動とともに、あらゆる分野におけるビジュアル・コミュニケーションの発展に影響を与え、インフォグラフィックスのはしりとしてデザイン史に名を残すも、その志を著した出版物がこれまで邦訳されることはなかった。(中略)80年の時を経て、今なお問われているグローバリズムの課題、取り組まれているユニバーサルなコミュニケーションツールに通じる、その基礎的で壮大な取り組みに光を当てる。」株式会社ビー・エヌ・エヌサイトより) 

「アイソタイプを開発したノイラートの3冊の本を一冊にまとめた翻訳本です。2017年に出ました。ピクトグラムを組み合わせて、新たな意味を作るといった考え方がはっきり記されています。さらにイラストや統計などを対象に、いろんなピクトグラムの使い方の可能性が示されており、また英語の語彙を850に限定して作られたベイシックイングリッシュという英語の改変言語を解いたアイソタイプも掲載されています。ただ、その後に掲載されたチャートは、『近代人の形成』というノイラートの著作から図版だけ抜き出されています。しかし元の本は、文章と図版を一緒に読みながら理解することがノイラートの重要なコンセプトだったので、その点が大変残念な本でもあります。」 (伊原先生)

ピクトグラフィ・ハンドブック オリジナル作成のためのヒントと3,250のシンボル例 Rudolf Modley 著 (産調出版) 

「旅行者やドライバーに、空港そして高速道路で大切な情報を与えるピクトグラフィの総合的な事典。ピクトグラフィのオリジナル作成のためのヒントと、世界中から集めた3250のシンボル例を紹介します。」hontoの商品説明より) 

「アイソタイプの影響を受けて、アメリカで活動したルドルフ・モドレイという人の本です。1976年というピクトグラムが標準化に突き進んでいた動向の高揚期に書かれた本ですが、前半部分は1930年代に作られたピクトグラムがたくさん集められていて、この辺が我々のプロジェクトにとって非常に参考になると考えています。」(伊原先生) 

『ピクトグラム[絵文字]デザイン 普及版』太田 幸夫 編著(柏書房) 

「各国のデザイナーと関係機関の協力のもと,ピクトグラム[絵文字]デザインの理論と実践のノウハウを集大成した唯一の本格的ガイドブック。視覚コミュニケーションづくりに携わる人々必携の書。」柏書房サイトより) 

「1993年に出版されたもので、太田幸夫さんという日本のピクトグラムの運動を一番熱心にされた方の本です。太田さん独自の視点でいろいろ情報をまとめて、編集されています。百科事典的な内容なので、通して読むというよりは辞典のように拾いながら読むような本です。」(伊原先生) 

Designing DisabilityElizabeth Guffey 著(BLOOMSBURY 

Designing Disability traces the emergence of an idea and an ideal – physical access for the disabled – through the evolution of the iconic International Symbol of Access (ISA). The book draws on design history, material culture and recent critical disability studies to examine not only the development of a design icon, but also the cultural history surrounding it.」BLOOMSBURYサイトより) 

「読み物としての本を紹介するなら、これです。障害者を表す車椅子のシンボルのデザインの歴史を扱った本で、著者はニューヨーク州立大学のデザイン史の研究者であり、ご自身も障害者です。内容を一言でいうと、障害者を象徴するシンボルのバックグラウンドとして、そもそも車椅子がどういうふうに出てきたのかという話です。そのいきさつとともに、このシンボルについては肯定する意見と否定する意見の両方があり、現代でも論争中なのですが、そうした障害というあり方の象徴の背後にある社会文化的、政治的な意味について書かれていて、非常に読み応えがあります。著者はデザインの歴史家であり、歴史的な視点を絡めながら、ご自身も障害があるというスタンスで問題提起をされていて、とても感銘を受けました。英語ですが、機会があると読んでもらえるといいなと思う本です。」(伊原先生) 

<プロフィール> 

伊原 久裕(いはら ひさやす) 

九州大学大学院芸術工学研究院 メディアデザイン部門 クリエーティブデザイン 教授 
【大学院(学府)担当】芸術工学府 芸術工学専攻メディアデザインコース 
【学部担当】芸術工学部 メディアデザインコース 
グラフィックデザインの歴史研究、地図、ピクトグラムなどのインフォ・グラフィックスの研究を実施。主なテーマは、オットー・ノイラートのアイソタイプ研究、ドイツ語圏における情報組織化運動とグラフィックデザインの関連についての研究、バウハウスのグラフィックデザイン研究、スイス・タイポグラフィ研究、ピクトグラムの歴史研究など。また、書体のデザインに関する実証研究、展覧会への出品等を通じたグラフィック作品制作、公共サインのデザイン、美術館や展覧会、大学のための広報媒体のデザインなどを行っている。 


▶︎2022年度DIDI年次報告書「多様性に応えるピクトグラムのデザイン」

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