Newsletters

DIDI Newsletter(2023年11月公開)学生インタビュー

2023.11.13

学生の活動の紹介九州大学アクセシビリティ・ピアサポーター(PS)

前号に続き、今号も学生の活動を紹介します。今回は、学内のアクセシビリティを高め、より多くの人が快適に暮らせるように活動を行っている団体 「九州大学アクセシビリティ・ピアサポーター」(PS)に注目。九州大学の多くの学部が属する伊都キャンパス(福岡市西区)、医学部・歯学部・薬学部のある馬出(まいだし)キャンパス(同東区)、芸術工学部のある大橋キャンパス(同南区)から1人ずつ学生に参加いただき、DIDI教員の尾方義人先生、田中瑛先生とともにお話をうかがいました。

※インタビューはZoomによるオンラインで行いました。

学生プロフィール

三木まどかさん

共創学部 共創学科 4年 [伊都キャンパス]

卒業に向けてカラーユニバーサルデザインの普及等の調査を、インタビューを中心に行っている。PSには新入生歓迎会での手話体験をきっかけに2年生のときから参加。


上野真穂さん

医学部保健学科 看護学専攻 4年 [馬出キャンパス]

「ロコモティブシンドローム(※)予防に向けた効果的な介入方法の検討」をテーマに、地域での高齢者への効果的な介入方法を研究している(卒論)。看護師・保健師を目指し、とくに障害者への理解や支援方法、当事者の思いについて学びたいとPSに1年生より参加。

※ロコモティブシンドローム:運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態


疋田弥紅(ひきた みく)さん

芸術工学府 音響設計コース修士2年 [大橋キャンパス]

PSには「手話を勉強したい」と学部3年生後期から参加し、2年間ほど活動。PSの影響を受け、修士課程では、障害がある人がどうやったら演奏会に行きやすくなるかの研究をしている。

PSでの活動、関心について

−まず、それぞれのPSでの活動について詳細を教えてください。

三木: 2年生のときは手話班で、今もインクルージョン支援推進室(以下:推進室)主催の手話講座に参加して手話の勉強をしています。また、カラーユニバーサルデザインのマニュアルをパワーポイントで作成する作業に携わりました(図版1)。このマニュアルは、PS活動に参加されている皆さんに知っておいてほしい、あるいは活用できるような内容になっています。現在は、バリアフリーマップ班に所属しています。

(図版1)

上野:補助犬フレンドリーキャンパス、IQ NET(Inclusion-Qdaiネット。福岡市教育委員会と九州大学の連携事業として行っている活動で、発達障害のある中高生を対象に、大学進学への移行支援を行っている。)、クリアファイル作成、キャンパススイッチ(発達障害のある高校生を対象としたオープンキャンパス)、字幕挿入、手話講座、視覚障害者ガイドヘルプ講座の活動をやってきました。なかでも補助犬フレンドリーキャンパスの活動は、2年生での「アクセシビリティマネジメント研究(高年次基幹教育科目/集中講義)」からずっと継続してやっていて、リーダーもしています。補助犬の活動では、これまでに補助犬ユーザーの方が来学したときのための教職員向けマニュアルの作成(図版2)、ウェブページの作成(図版3)、リーフレットの作成(図版4、図版5)を行い、今は補助犬協会とのタイアップ企画を考えています。

(図版2)
(図版3)
(図版4)
(図版5)

疋田:参加当初はオンラインが中心で、オンラインで手話講座を受けたり、リーダーと協力しながら自分たちで計画を立てて自ら手話講座的なこともやりました。私は聴覚障害にも関心があったのでノートテイク(図版6)の活動をやったり、また、特殊教育学会という特別教育支援に関する学会に参加して、他大学の先生と協力しながら合同発表のようなこともしました。

(図版6)

−PSの活動はキャンパス毎に行うのでしょうか。定例会などはありますか?

三木:定例会は毎週あり、対面の場として伊都キャンパスに集まっています。他キャンパスからは距離的に遠く、頻繁に来てもらうのが難しくもあるので、それぞれその場所でしかできない活動をやったりしています。たとえば馬出キャンパスではバリアフリーマップ作成に向けて調査を行い、Zoomを使った定例会で話し合うというようなこともやりました。

−(尾方)高校生が大学の公開講座に来たときに、「ユニバーサルデザインに興味があります」とよく言ってくるのですが、みなさんも大学入学前からそういった意識、お考え、興味があったのでしょうか。

三木:私はAO入試で、学部でやりたいと思っていることを伝え、それを評価してもらう形での入学でした。その入試のときに、高齢者への情報提供をユニバーサルにする研究をやってみたいと話したので、高3のときには意識していたように思います。でも、入学当初はPSの活動内容がまだよくわからなくて参加を見送ったんです。バリアフリー支援の授業を受けたことで、だんだんPSのイメージがつかめてきて、2年生になって参加したという感じです。

上野:もともと興味がありました。発達障害がある方と関わったことをきっかけに、発達障害について興味を持つようになりました。PSに入ってすぐにIQネットに参加し、また先輩方の活動を通して手話や視覚障害にも興味がでてきて、ガイドヘルプ講座や手話講座にも参加しました。

疋田:私は熊本出身なんですが、中学生のときに県内の中学生が集まって熊本の未来について話すという企画に参加し、そこで初めて聴覚障害のある生徒に出会いました。私たちは音声でコミュニケーションをとっているけど、その彼はすべて手話でコミュニケーションをとっていて。当時の私は手話についてまったく知らなかったので、こんな世界もあるのかと、とても衝撃を受けました。その後に少し手話を学びましたが、高校では受験勉強ばかりだったため続けられず、大学に入ってからまた手話を使う機会があり、再び関心が高まってPSに入ったという流れです。

PS活動での苦労話、PSに持つ印象

−(田中)みなさんピアサポートなので、障害のある方と支え合う、あるいは助け合うという考え方もあります。経験されたなかで、苦労したことや大変だったこと、難しかったことなどはありますか。

三木:私は直接支援よりも資料などを作るような間接的な活動が多いので、完成物がどのように使われているかをもっと見られたらなと思うことがあります。評価してほしいというよりも、どのような印象を持たれているのかが分かると手応えがあります。

上野:補助犬フレンドリーキャンパスの活動でも、実際にどれだけの職員の方に知っていただいているのか、どのような方法で公開されたのかを把握していくことがこれからの課題です。補助犬ユーザー向けのホームページも作成して公開しましたが、どれだけの方がそのページを見たいと思って開いて理解をしているのか、補助犬ユーザーの方のハードルが下がったのか、補助犬ユーザー以外の方も知識が深まったのかなど、その成果を何かしらの形で知りたいなという思いです。直接支援ではIQネットの活動で、発達障害のある中高生の大学移行支援をやりましたが、同じ発達障害の診断名を付けられていてもすごく個人差が大きいことに対する支援の難しさを感じました。

疋田:私も同じように思っていて、学内用研修教材の手話表現の動画を作った(図版7、図版8、図版9)のですが、それがどれくらいの人に見られているのか、効果があったのかが分かるといいですね。作った、出した、終わり、となるのはもったいないので、作ったからには何らかの形で効果や、どう大学が変わったかが見られるといいなと思います。もう一つは直接支援、特にノートテイクで、支援する側と利用する側の関係性の築き方がすごく難しいなと思っていました。一般的に支援には「一定の距離が必要」という考え方もあるわけですが、ピア(英語で「仲間」「同輩」などの意味)と言うからには、それこそ学生どうしの関係性が対等であるべきで、私は割と近しい支援をした方がいいんじゃないかと私は考えるので、そこがなかなか相容れないなと当時は思っていました。

(図版7)
(図版8)
(図版9)

−(田中)成果を可視化する必要性がみなさんの間では共有されているわけですね。もう一つお聞きしたいのですが、PSという組織がどのような場所なのかな、と素朴に思っています。

三木:PSはお仕事に近いと思います。ある程度、学生が自分の持っている課題意識を解決したり、「自分はこういうことを考えたい」というテーマに取り組める自由さもありますが、一方できちんとやらないといけないところもかなり多く、学生どうしだけで決めていける場所ではないという印象です。

上野:私が参加した初めの頃はコロナ禍で対面活動が難しく、定例会もオンラインのみでした。大多数のPS学生は伊都キャンパスにいて、オンライン上での定例会は業務の一環として行われるので真面目に対話する感じで、仕事のような意識が強かったです。この1年間は対面での活動が増え、私も伊都キャンパスに定例会以外の活動でも行く機会が増えて、同じ学年の学生と直接話したりする交流も生まれ、最初の頃とは違った感覚を得られています。

疋田:私の感覚では、長期インターンに近いところで納得しています。というのも、すべてではないけど賃金が発生する支援活動もありますし、それこそ守秘義務などは厳しく言われます。また、自分で勉強しないといけないこともたくさんあり、勉強や研修で身に付けた知識などをアウトプットしていくということも私の場合はけっこう多くありました。PS学生どうしの人間関係からみても、ビジネスライク的な関係でもなければ単なる友だちという関係でもありません。長期インターンのような例えが、私にはすごくしっくりきます。

PS活動による自身の変化、影響、そしてこれから

―PSでの活動を通して得たことや、ご自身が変わったことなどありますか。

三木:いろいろありますが、一番は活動外のとき、たとえば道を歩いているときとか買い物をしているときなどにも周りをよく観察するようになりました。地下鉄の表示の仕方や、改札口が一つだけ広くして通りやすいようにされていることも気付くようになり、家族や周りの友人に話せる内容が増えたことが一番大きいと思っています。

上野:得たものは大きく二つあり、一つは三木さんと同じように広い視野を持てるようになりました。日常の中で、白杖を持っている人に気付いたり、誘導用ブロック(点字ブロック)が欠けているのに気付いたり、音声の案内に耳を傾けるようになったり、手すりにある点字にも気付くようになったりと、視野が広がったのを実感しています。もう一つは、手話の技術やガイドヘルプの技術、発達障害の方への支援の技術が、入学当初よりも向上したことです。もちろんまだ一人前ではないので、卒業してからも引き続き高めていきたいと思っています。

疋田:PSから学んだことは、やっぱり障害に関する知識です。発達障害はこういう特性があってとか具体的なところもですが、それ以上に影響を受けたのは社会モデルという考え方を知ったことかなと思います。社会モデルとは、「障害は個人の問題ではなく社会がつくり出しているものだ」という考え方なんですが、それを知れたことが一番衝撃でしたし、自分のその後につながりました。いま大学でやっている研究も、個人の障害が悪いのではなく社会の側に問題があるという考え方につながっています。そういう考え方的なところをPSで学べたのが大きいです。

―社会包摂に対する考えが変わったりしましたか?

三木:カラーユニバーサルデザインに関して調査を行う中で、色覚の多様性について知らない人が多いと感じました。知らない人が多い現状で、障害者の困っていること、支援の方法などを積極的に伝えていくことが、逆に不十分な理解や偏見などにつながることもあるのではないかと感じたりもしています。障害についてどう知らせるべきか、周知することの難しさをよく考えるようになりました。

上野:私も、いろいろな人が障害について知らないよりは知る方がいいのかなと思っています。知らないからこその怖さがあると私は考えていて、たとえば突然大声で騒ぐ人がいるとびっくりするというか怖い印象を持つと思うんですが、障害について理解があれば、「その人の中で葛藤していることがあるのかもしれないな」というような、理解し見守る姿勢に変わるんじゃないかなって。障害を知らないからこそいきなりの行動に対する怖さや、視覚障害者や聴覚障害者に対する支援の仕方がわからないからこその関わることの怖さがあるとしたら、知ることでそれらが軽減されるのではないだろうかと考えています。知ったことで偏見が生まれるかもしれない懸念もありますが、知らないと何も始まらないというのが私の考えです。

疋田:私は社会モデルという考え方を知ってから、あまり社会包摂を意識しなくなりました。いまPSで活動していることってある意味ロールプレイング的な側面が強いのかなと思う一方で、もっと実社会でやらないといけないことを大学が率先してやっているようにも思います。PSでの経験を通じて、もっと社会が広がっていかなくてはいけないと感じるようになり、今は大学から外に出していくべきところに感心を持っています。

−そろそろ終わりの時間になりますが、お互いに聞いてみたいことはありますか?

疋田:私から一つだけいいですか? お二人に聞きたいのが、今たぶん就職が決まっているか、迷っているかの時期だと思いますが、PSの活動が自分の進路を決めるのにどれくらい影響があったのかが気になります。

三木:私はものすごくありました。共創学部に入った当初は英語でのコミュニケーションを学びたいと思っていましたが、今はユニバーサルデザインについて学んでいて、PSに参加していくなかでも確実に自分のなかで何かが変わったと感じます。就職活動でも、在学中に何に力を入れてきたかを聞かれるたびにPSでやってきたことが思い浮かんでいたので、実際にすごく影響があったんだなと思います。

上野:私の場合は、まったく影響を受けてないです。小さい頃から看護師になりたくて、大学に入学した段階で将来の進路はほぼ決まっているようなものでしたし、PSに参加したからといって自分の将来には影響はしていません。ただ、将来の仕事をするにあたって持っておいた方がよい技術や知識、考え方については変わったかなと思っています。

疋田:私の場合、あまり就職先への影響はありませんでしたが、就職活動では影響を受けていて、発達障害のある子どもや大人の支援をしている会社だったり、障害や多様性を大事にするような会社を選んで受けたところはあります。修士研究はすごく影響を受けました。

−ありがとうございます。では、最後にPSの後輩、またこれからPS活動を始めたいと考えている人へのメッセージと、ご自身の今後の目標を教えてください。

三木:まず1年生のときにPSに参加しなかったからといっても諦めず、ハードルを感じずに何年生からでも参加してほしいです。何かやりたいことがあって入るのも、やりたいことはわからないけど活動に携わりたいから入るのも、いずれにしてもいろいろな経験ができる場所であり、参加することで何か得られることが絶対にあると思います。

将来については、いま手話講座で学んでいることを実際の支援にもっと活かしたいです。これから就職するにあたっても、何らかの形で手話を使えればいいなと思っています。

上野:忙しいからといって怯まずに、活動を続けてほしいというのが一番です。1つの活動だけでも積極的に参加することによって、そこから間違った理解でなくて良い理解が得られる。1人でもそういう人が増えることにより、障害に対する理解が広がっていくのではないかなと思います。

今後の目標については、このように良い理解を広げ、適切な支援につなげられるような介入支援を行っていきたいと思います。障害について知らないからこそ怖い、悪いレッテルを貼りがちだと思いますが、正しく理解すれば正しい支援につなげられるはずです。私はこれから医療の専門職として支援する側の立場になっていくので、情報を集めながら適切な支援を行い、次につなげられるような橋渡しとなれるように頑張りたいと思っています。

疋田:私も、「もう3年生だから、4年生だから活動を始めるのは無理かも」と思わないでほしいです。私も3年生前期までは学内の違う団体でずっと活動してきて、それが終わって3年生後期にPSに入りました。PSは、一般的な学生団体や活動ではなかなか経験できない世界でもあり、関心があるなら少しでも活動してみることをおすすめします。自分の知見を広げるにしても、研究に役立てるにしても、持っておいた方がよい視点をたくさん学べる機会になりますから。

自分のこれからは、障害に直接関係する仕事には就きませんが、今やっている研究はPSで培った経験や知識、考え方、そこで出会った人などと連携しています。その研究を社会でどう役に立てるかを考えていきたいです。

まとめ 〜尾方先生、田中先生の感想〜

尾方義人先生(DIDIセンター長)

みなさん、ありがとうございます。感心して、いろいろお話したいことがたくさんあります。まず最初の方で、成果を可視化していく必要があるというご意見が出ましたが、基本的なコミュニケーションとして「これをしました」「このようにしました」など、互いに伝え合うことで丁寧に評価されていくのがいいですよね。目的を達成できたらそこで終わり、ということで留まらず、その先をどうすべきかをもっと考えていく必要があるのかなと思います。

それと、障害について知らせる方がいいのかというご意見がありましたが、私はやはり知らない障害についてちゃんと伝えていくべきだと思います。私たちが行政との連携プロジェクトをしていて、障害のことやジェンダーのこと、差別のことなど、このような展示をしましょうと提案をした際に、「差別語や障害のことを表現されると、それを見て不快に思う人もいるかもしれないので、やめましょう」と言われることもあるわけです。要するに、みなさんが言うような良い理解とか正しい理解というものは障害に対する話だけにとどまらず、コミュニケーションも大切だと改めて感じました。伊都キャンパスの近くには補助犬を育成する施設があったり、近々、特別支援学校もできると聞いています。DIDIのある大橋キャンパスもですが、伊都キャンパスでも今後コミュニケーションの部分に、もっと力を入れられるといいなと思いました。

実は九大の中では、障害やジェンダー、バリアフリーなどに関する授業がいろいろな部局でけっこう開かれているんです。カリキュラムとまでは行かなくとも、学生たちに「こういった授業が、このキャンパスで開講されています」という情報を紹介する方法をDIDIで考えようとしているところです。PSとどれほど連携ができるかまだわかりませんが、いろいろ相談させていただければと思います。またDIDIの方でも何かインクルージョン支援推進室とは違う、PSへのお手伝いやフォローができたらいいのかなということを、今日のお話しを聞いて思いました。 最後に全般的な感想をお伝えすると、みなさんの説明はものすごくわかりやすかったですね。それだけPSでいい経験をされてきたのだろうなと強く感じました。

田中瑛先生(DIDI教員)

みなさん、今日はわかりやすいプレゼンをしていただき、日々PSをやっている中で身に付いたスキルが如実に現れているなと感じました。私自身が大学生だった頃に比べると、みなさん本当にいろいろしっかりと考えてらっしゃるなという印象です。PS活動をやっているうえで、成果物をどのように確認していければよいのか戸惑うという率直な感覚とか、ノートテイクで相手との距離感をどう詰めていけばいいのかわからないなど、教員相手だとなかなか素直に打ち明けにくい課題だったかもしれませんが、きちんと伝えていただき、大変ありがたく思います。

page top >