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26 人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚

2023.3.28

このコラムも毎週火曜日なんとか半年続けることができました。ようやく今回で最終回です。

ChatGPTに「社会包摂デザインって何?」

今、対話型人工知能ChatGPTが話題です。ご多分にもれず、私もChatGPTに「社会包摂デザインって何?」と聞いてみました。すると「多様な人々で構成される社会に存在する多様な課題を複数のアプローチで捉えながら、包摂的な答えを出すための方法です。概念・制度・プロセス・アウトプットに対して、デザインの手法・技法を使います。また人文科学・社会科学・自然科学の他、芸術や数学や工学などともと合わせて総合的に考えていくことが必要。」という答えが返ってきました。

と言うと、ああそうなんだと思ってしまう時代です。

前述の答えは嘘です。私が書いたものです。

ChatGPTが書いたか人間が書いたか分からないということは、人間が書いたものを「ChatGPTが書いた」と言っても分からないということです。なんだかよく分かりませんが、そんな中で私達は生活しているのです。

ただ、私達人間が決める社会包摂デザインの定義も揺れています。この3年間実践しながら考え続けています。少しずつ、私達の考えも揺れていますが、社会包摂デザイン解像度が上がってきていることは間違いありません。経験を積んで、新しい学習をし、実践をとおしながら、言語化していく、こういった Intelligence のためのプロセスは、artificial でも natural でも同じなのかもしれません。

はじめの偽物ChatGPT(私)の定義は、今のところの言語化です。ただ、全部を説明しようとして、とても広い表現になっています。

昨年度も今年度も、社会包摂デザインに対して一つの切り口を持って、年度ごとの報告書をつくっています。

今年度は仕組みのデザインを考えるに当たり、特に ”法務”、”法” に対してデザインからアプローチしていきました。これは法律のデザインではなく、法律はもちろん、ルールや地域の慣習、行政の仕組み、しきたり、暗黙知など言語化されていないものも含めた幅広い ”法” です。

行政と憲政

国家国民の意志で作られた憲政を反復的に実施していくことが行政です。しかし、実際の ”法” や私達の生活や環境そして、私達そのものが、確固とした一貫性をもって行動しているわけではありません。憲政国民の意志は変化していきます。しかし行政は等しく反復させるための方法です。この辺りの関係を仕組みとしてどう作っていくかが、仕組み、”法” のデザインのポイントかも知れません。

さて、1年目の報告書のサブタイトルは「何をみるか、どこからみるか」でした。何が問題か、問題対象は何か、課題はどこにあるかは、視点と視座で異なり、それにより見え方が変わると言うものです。異なる方向から見るだけでなく、複数のアプローチ、同時に異なる方向から見ることが重要ということを伝えたつもりです。多様なプロセスに対して、それぞれの研究の方法やプロセスを紐解こうとしました。

線のひき方、なおし方

もうすぐ発行される2年目の報告書のサブタイトルは「線のひき方、なおし方」です。

ルールや制度を決めるためには、まずは、科学、science が必要です。科学の ”科” という漢字は、のぎへんに斗(ます)で、お米を分けていくという字です。science という言葉も、「知る ー わける」が語源です。デカルトの方法序説を引くまでもなく、科学的に知るためには分けて考えていかなければなりません。上手な分け方が理解を深めます。
しかし、おかしな線をひいたときは、すぐになおさないといけません。なおし方も大切です。線をずらしたほうがいいのか、線を全然別に書き替えたほうがいいのか、線を消した方がいいのか、いろいろです。分けて考えないほうがわかりやすいこともたくさんありますが、分けたときは同時に、分け方が正しかったのか常に見ていくことが包摂性につながるのではないかと思います。
もう一つ今回の「線」には、補助線の意味も含めています。中学校ぐらいの数学の問題で、補助線を一本入れるだけで、答えや答えへのヒントが見つかった経験をお持ちの人は多いと思います。見えにくかったものを違う方法で表現したり、ことばを一つ添えたり、そうすることで、問題の在り処が見えやすくなる、という思いも込めています。

前文

サブタイトルは、報告書の小さな前文と思っています。

憲法の前文に、「人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」という一節があります。平和や平等・公正といった理想・理念が、人間相互の関係(human relationship)というお互いに感情を抱きあい互いに影響し合うということを創り上げる、というようなことを言っているのだと思います。理解し合うことが信頼し合うこと、信頼し合うこと理解し合うことにつながります。包摂性の獲得には、こういった信頼・理解し合うための仕組みが重要になってきます。

前文には、だれがこの文を創ったかや、どんな考えでこの規則ができているかということなどが記されます。

憲法の前文の役割は、憲法を読んでその意味を知ろうとするときの手引きです。前文に記された考えからできたものだから、 前文と違って解釈したり、異なる考え方で変えてはならないというものです。前文は全ての法律にあるわけではありませんが、教育基本法、男女共同参画社会基本法、少子化社会対策基本法、文化芸術基本法や各基本法には多く設置されています。基本法の前文でも社会の変化に対応できていないこともあります。

行政の反復性や平等性のために安直に仕組みやルールを変えるべきでもありません。逆に、変化する社会や問題等、私達の意思にも対応していなければなりません。

多くの方向から見聞きし考え、創っては修正し、線を引いたり消したりしながら考えていく必要があります。

最初の偽物ChatGPTに「社会包摂デザインの前文といえるものは何ですか?」と聞きました。
「次の1年、一生懸命・一所懸命、考えましょう。」という答えが返ってきました。

番外編はたまに掲載するかもしれませんが、半年間ありがとうございました。アンケートは集計して、また報告させてもらいます。今からでもぜひご回答下さい。来年度もよろしくお願いいたします。


【リーガル・デザイン・ディクショナリー】

日本国憲法前文:
昭和21(1946)年11月3日に公布され、昭和22(1947)年5月3日に施行された日本国憲法の、前文。その一部を抜粋します。
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。(中略)日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」
(衆議院 国会関係法規-日本国憲法
 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm

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