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/ 2023.4.21

「社会包摂デザインのプロセスを体験するロールプレイ型ワークショップ(2023年3月実施)」企画の経緯と、実施後の振り返り

「社会包摂デザイン」とは何なのか? どのような考え方や発想に基づいて制作されているのか? そして、社会に実装していく際、どんな課題や障壁を乗り越える必要があるのか?
こうした問いは、単に成果物を見るだけではよくわかりません。したがって、社会包摂デザインについての理解を深めるためには、具体的にどのような課題や障壁が存在し、それらに対面する中でデザイナーはどんな試行錯誤を重ねているのかといった「デザインのプロセス」に着目する必要があります。
そこで、具体的なケースを取り上げながら、特に重要なターニングポイントをエピソード寸劇の形式で参加者に観覧してもらい、「社会包摂デザイナー」になった気持ちで「自分ならどうする?」と考えてもらうロールプレイ型ワークショップを行いました。

実際に制作されたデザインの事例を基に、制作プロセスを4 つのシーンに分けることで、

 ・エピソード寸劇の観覧
   ↓
 ・ファシリテーターからの問いかけ
   
 ・3〜4 人の小グループに分かれた参加者どうしでディスカッション
   ↓
 ・各グループで考えたことの発表と、ゲスト講師からのコメント

を基本とするサイクルを4 度繰り返すワークを、第1回と第2回それぞれで実施しました。当日の詳細については、下記のレポートとダイジェスト動画をご覧ください。

 第1回(2023年3月1日 ゲスト講師:田北 雅裕 フォスタリングカードキット「TOKETA」の事例)のレポート
  https://www.didi.design.kyushu-u.ac.jp/archive/role-play-workshop_1/

第1回 ダイジェスト記録動画

 第2回(2023年3月3日 ゲスト講師:羽野 暁 色覚の多様性に配慮したキャンパス案内図の事例)のレポート
  https://www.didi.design.kyushu-u.ac.jp/archive/role-play-workshop_2/

第2回 ダイジェスト記録動画

ワークショップを終えて

参加者からは、
「問題解決に至るまでのプロセスが、ロールプレイングで大変わかりやすかった」
「大きな課題に立ち向かうとき、まずは小さなことから試したり、少しずつ理解者を増やして同じ方向へ進んだりと、一つずつ課題をクリアしていくことが大切だとわかった」
「当事者意識を持って真剣に話し合えるグループディスカッションも、とても楽しかった」
「実装に向けたプロセスを、デザイナー以外の登場人物を含めて俯瞰した目線で理解できた」
などの感想がありました。

今後もさらにワークショップ手法のブラッシュアップを目指します。

本ワークショップの企画の経緯と、実施後の振り返り

本ワークショップの企画を担当した中村美亜先生に、ワークショップ企画の経緯と、実施後の振り返りを、インタビュー形式で聞きました。

■社会包摂デザインのプロセスを体験するロールプレイ型ワークショップ

中村 美亜先生(副センター長・DIDI教員) インタビュー

− ロールプレイ型ワークショップは珍しいスタイルですが、どのように企画されたのでしょうか。

「社会包摂デザインのプロセス」を見せる企画として、最初は展示を行う予定でした。デザインを始めてから完成するまでに生じた紆余曲折を4つほどのポイントに絞り、それを展示でどう見せていくかと試行錯誤しました。ですが、プロセスを静的なもので見せるのは難しいと感じました。方向転換や考え直しをしたときって、多くの場合、何かモノ自体が残っているわけではありません。「じゃあ、どうしようか」と考え込んでいたとき、「例えば、NHKの番組でよくやるような感じで、役者が演じるのがいいんじゃない? 役者2人にプロセスの過程を演じてもらい、『あぁ、どうしよう』というポイントで止まったら、それを見たワークショップ参加者が『私ならどうするだろう』って、すごく考えるんじゃない?」とアイデアが生まれました。それで、このロールプレイ型のワークショップになりました。

− 私もワークショップを見学しましたが、社会包摂的なプロダクトを制作する現場のプロセスが、すごく伝わってくる内容でした。

私たちも、やってみたら想像以上の手応えでした。今回お願いした役者の皆さんは、台本を読んで「ここはどういう気持ちで言ったらいいですか」とか「ここの流れが上手く演じられないけど、どうしたらいいですか」と聞いてきて、その台本に書いてあること以上のことを演じてくださいました。単にこういうことがあったという事実説明だけでなく、デザイナーや関係者にそのときどんな気持ちの動きがあったかを、よく汲み取って演じていただきました。見る側の参加者も、表面的な言葉だけでなく、そこで生じた感情的なものまで感じることができるので、その現場の話により深く入っていけたと思います。また、「見る」という行為も受け身だけでは成り立たず、自分も「見て」「入って」「積極的に考える」という関わり方になったのではないかと思いました。

このワークショップの売りは、「プロセスにおいて、どういう決断をしていくか」だと思っています。ふつうはデザインにしてもプロジェクトにしても何でも、完成するまでに様々なことがあったとしても、成功したことだけがリニア(直線的)に話されることが多いんですよ。しかし、それだけ聞いても、他の人が同じことをやろうとしたときに参考になりません。むしろ、うまくいかなかったときにどう判断したかが大切なわけです。

結局、うまくいっている人たちも最初からうまくいっているわけではなく、課題があってもうまくやり過ごしたり、要領よく進めたり、闘ったりした人たちなのです。逆に、「自分たちはうまくいかない」と言う人たちは、うまくいかなかったときにすぐ折れるんですね。それだけの違いなのですが、そこが大きいのだと感じます。

特に、社会包摂的なデザインは、多様性のことがテーマになってきますので、前例のないことをやる場面や、想定外のトラブルもたくさん出てきます。そこでどう対処するかが大事なのです。このワークショップでは、そこの学びが得られたのではないかと感じています。

− DIDIのこれまでの2年間の集大成でもあったのでしょうか。

そうですね。2021年度の活動報告書で各プロジェクトのデザインプロセスを紹介しましたが、その発展系かなと思います。DIDI発足当初から、社会包摂デザインは一つのメソッドがあるわけでもなく、こうすればいいという決まりもあるわけでもなく、どうするのがいいか悩みながらやってきて、それこそプロセスに注目していました。このプロセスが「真っ直ぐではない」ということをどう見せるかが、このワークショップで一つできたように思います。

− 今年度の具体的な計画はあるのでしょうか。

DIDIとして、このワークショップの発展系をもう少し洗練させた形でやりたいなと思っています。


社会包摂デザインのプロセスを体験するロールプレイ型ワークショップ

【企画】

宮田 智史 みやた さとし

NPO 法人ドネルモ事務局長。2012年、超高齢社会を見据え、1人ひとりの可能性が誰かと関わることでかたちになってゆく社会をつくることを目的に活動するNPO法人ドネルモを設立。現在、認知症の方と介護者が共に創るアートワークショップのプログラム開発など複数のプロジェクトを担当。一般社団法人ぷらっとどっと理事、大野城市共働アドバイザー、福岡大学非常勤講師(生涯学習支援論)、九州産業大学非常勤講師(文化のまちづくり論)など。

中村 美亜 なかむら みあ

九州大学大学院芸術工学研究院未来共生デザイン部門准教授、博士(学術)。専門は芸術社会学。芸術活動が人や社会に変化をもたらすプロセスや仕組みの研究、またその知見を生かした文化政策やアートマネジメントの研究を行っている。訳書に『芸術文化の価値とは何か』、編著に『文化事業の評価ハンドブック』、単著に『音楽をひらく』など。

情報

開催日

2023年3月1日、3日

場所

九州大学大橋キャンパス

企画

宮田 智史(NPO法人ドネルモ事務局長)
中村 美亜(DIDI教員)

企画アドバイザー

耘野 康臣(NPO法人九州コミュニティ研究所代表)
大澤 寅雄(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室主任研究員)

企画協力

尾方 義人、朝廣 和夫、長津 結一郎、田中 瑛、白水 祐樹(DIDIデザインシンクタンクメンバー)

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