Topics >

22 猫島・猫町・地域猫

2023.2.28

観光地化された猫島
猫島・猫町というのが日本にはたくさんあります。「可愛らしい猫に癒される」ということで観光地化され、コロナ前には海外からの観光客が多く訪れる猫島や猫町もありました。ですが、そういった猫たちを誰がどのように管理しているのでしょうか。

2022年6月〜7月頃には、公共広告機構のCMで「地域猫」に関するものがよく流されました。地域猫とは、特定の飼い主がおらず、地域住民の合意のもとで共同管理している猫のことをいいます。 こうした地域猫活動は横浜市で発案され、「地域の問題として飼い主のいない猫を住民やボランティアなどが共同管理することで、最終的にそのような猫をなくすことを目標とした活動」(環境省「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン(平成22年2月))と定義されています。地域猫活動の目的は、飼い主のいない猫、いわゆるノラネコを抑制することだと言えます。

のらじゃ(2018)『20分でわかるノラネコ問題~「ノラネコ」「地域猫」ってなに?ノラネコ問題の現状と解決の糸口』まんがびと

TNR活動

地域猫活動は、避妊手術での数の管理、飼い主の募集などを利用して、飼い主がいなかったり管理されていない「野良」猫をなくすことを目指す対策です。重要なのは、猫の完全な駆除を目的としているわけではないことで。活動の初期にはTNR活動を通じて繁殖を抑制します。TNRとは、捕獲(Trap)・去勢(Neuter)・返還(Return)という意味で、避妊手術のための補助を出す自治体もあります。猫の避妊手術の費用を負担する市町村に対し、県が(一部)補助する仕組みになっているなど、やや複雑とも言えますが、そのような仕組みが広がりつつあります。手術が施された猫は、手術されていない猫との判別できるように、手術が終わると片方の耳にV字型の切り込みを入れます。オスが右耳でメスが左耳です。この耳が桜の花びらのように見えるので、地域猫のことを「さくら猫」と呼ぶこともあるそうです。この避妊手術は、耳のカットも含めて約半日で終わる簡単なものですが、繁殖の管理や抑制のためにやむを得ない措置で、全身麻酔が行われるとはいえ、いたたまれない気持ちもあります。

殺処分

ですが、猫が際限なく繁殖してしまうと「殺処分」という、より望ましくない措置に行き着くため、前述したTNR活動は人間社会が選択できる最良の方法だと言えます。「殺処分」という言葉は何とも恐ろしい響きですが、実際に飼い主のいなくなったペットなどが年に数万頭が殺処分されているほか、伝染病やその可能性のある家畜なども殺処分されています。こうした殺処分を余儀なくされる獣医師や行政担当者の精神的負担も大きなものとなっています。

地域で管理する

さて、地域猫の話に戻ります。猫の個体数を維持しながら地域で管理することで、猫がそこで一生を送れる仕組みを創ることが地域猫活動ということになります。それだけではなく、動物の遺棄が「動物の愛護及び管理に関する法律」で禁じられていることを広く伝え、新たなノラネコが増えるのを防ぐ必要もあります。もし特定の地域の全てのノラネコを一気に殺処分したとしても、隣接する地域の猫が縄張りの主がいなくなった場所や他の小動物を狙って移り住んでしまい、根本的な解決にはならないそうです。そもそも、日本の在来種の猫は対馬と西表島にいるヤマネコの2種だけで、ノラネコを含む全ての猫は主にヨーロッパからのイエネコ(家畜種)だと言います。

地域の活動

なぜ、地域猫活動を通じて際限のない繁殖を防ぐ必要があるのでしょうか。まずは、地域住民とのトラブルが多発する恐れがあり、実際に多発しているからです。例えば、公衆衛生の課題があります。具体的には、餌やりや水やり、糞尿の処理が必要になったり、ゴミ漁り、餌の残りに群がる他の害鳥・害獣・害虫被害などの悪影響が挙げられます。住民には猫アレルギーの人もいますし、また、最近では人獣共通の感染症などもよく懸念される点です。

糞尿被害を減らすためには、地域や自治体が猫のトイレに相当する場所や設備を設置したり、そのメンテナンス・片付けをする必要があります。手術の終わった猫に対して一定の期間、餌を与えることも必要です。同時にその後の片付けも必要です。置き餌はご法度とされていて、餌を置き続けると他の地域から猫が流入し続けてしまうからです。ある程度の餌の管理をしなければ、猫がゴミを荒らしたり、人家に入り込んでくることもあります。家の中でなくとも、庭や道路での排泄行動で様々な被害も発生してしまいます。また、住宅で飼っている金魚などが襲われることもしばしばあるそうです。


住民同士での共通の理解

このような課題を解決するには、地域住民同士である程度の共通理解を育む必要があります。例えば、猫の飼育義務については「家庭動物等の飼育及び保管に関する基準」(平成14年環境省告示第37号 最終改正:平成25年環境省告示第82号)に、以下のように記載されています。

第1 一般原則
2 所有者等は、人と動物との共生に配慮しつつ、人の生命、身体又は財産を侵害し、 及び生活環境を害することがないよう責任をもって飼養及び保管に努めること。

第5 猫の飼養及び保管に関する基準
6 飼い主のいない猫を管理する場合には、不妊去勢手術を施して、周辺地域の住民の 十分な理解の下に、給餌及び給水、排せつ物の適正な処理等を行う地域猫対策など、 周辺の生活環境及び引取り数の削減に配慮した管理を実施するよう努めること。

環境省「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」


しかし、犬のような狂犬病予防法に基づく係留義務や登録制度などは設けられていません。

「係留」とは「浮遊する物体を,索や鎖により大地に直接または間接につなぎとめること」(コトバンクより)です。

「登録」とは「一定の事項を公証するために、行政官庁などに備えてある公簿に記載すること」(コトバンクより)です。

とは言え、所有者のいる猫を無断で処分した場合、窃盗罪、占有離脱物横領罪、器物損壊罪に問われる可能性があるそうです。これは仕組みを定めた時にノラネコの問題が想定されていなかったという不備なので、制度を見直して、犬と同様に根拠になる法律や地域猫活動を妨げない法律を整備する必要があるのだと思います。そして、地域に応じて住民の立場やこれまでの経緯や景観は異なるため、地域の中で、猫の問題ではなく地域の問題として共有し、わたしたち人間の問題であることを理解しあうことが重要だとも言われています。

猫島で最も有名な島の一つに青島(愛媛県大洲市長浜町)があります。7年前には15人いた島民も5人に減りましたが、猫は100匹いるそうです。この島には70代~80代しかおらず、診療所も廃止されました。医者の往診も数年前になくなって、医療がゼロの島だそうです。猫島が猫だけの島になる日はそう遠くないそうです。人間や地域の課題を地域で考えていくことの重要性は猫島に限った話ではありません。

ティアハイム 

ドイツには、ペットの性質を配慮した保護施設が多数あり、ドイツ語で「ティアハイム(Tierheim)」と呼びます。「PEDGE」によれば、ティアハイムは民間の動物保護協会が運営する施設で、全国に500か所以上存在し、飼い主の斡旋などを行っています。これらの運営母体である750以上の動物保護協会をまとめるドイツ動物保護連盟(Deutscher Tierschutzbund)という全国組織もあり、合計80万人以上の会員が所属するそうです。

引取られた動物は、施設で保護している間に健康を害さないよう、また、引取った際についていた癖(吠え癖、かみ癖など)を直すような環境・仕組みを作っている。例えば、犬は同類と接触を持つことが重要であり、個室から互いに顔を合わせられる構造に施設を設計していたり、最低6㎡以上の広い飼育スペースが確保されている。羊やウサギ、爬虫類等の保護棟もあり、各動物の大きさに合った飼育スペースと、水辺や木々、牧草地といった適切な生態環境を用意している。このように、引取った動物が本来持つ性質に合わせて飼育することは、近年研究が盛んに行われている分野「シェルターメディスン」の考え方にも一致する。

ティアハイムとは~ペット先進国ドイツの動物保護事情

また、「シェルターメディスン」という取り組みもあり、日本シェルターメディスン学会によれば、「動物収容施設に関わる伴侶動物の群管理に関わる獣医療」と説明されています。同学会の説明をもう少し参照すると、「群管理」とは、動物が個体ではなく「群」で存在する場所(=シェルター)を意味し、メディスンとは「医療」を意味します。つまり、一般家庭で飼養される伴侶動物に対する獣医療とは異なる環境で動物を保護・管理するという考え方・手法も見られ始めています。

啓蒙ではない 地域で考えること

このように、人間以外の動物との生活を地域で考え、より良いものにしていくことは、私達自身が未来社会をどのように展望するのかについて、考え方と方法を作り上げていくことになります。

このコラムでは、「地域猫活動」を専ら良いものとして推奨しているわけではなく、「地域猫活動」もまだまだベストな方法だとは言えません。ですが、「地域で考える」、「本来の持つ性質の相互理解」、「伴侶とはなにか」などの観点は、包摂型社会や多様性を考えていく上で重要なアプローチを示しているように思います。

保坂和志(2021)『猫がこなくなった』文藝春秋

【リーガル・デザイン・ディクショナリー】

家庭動物等の飼育及び保管に関する基準:
動物の「所有者」の飼育や保管の努力を記した基準で、環境省から告示されています。繁殖制限など、人間社会の中で動物と共存する上での心構えが書かれていると言えるでしょう。(参考: 環境省「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」

狂犬病予防法:
犬や猫など特定の動物の狂犬病に関する予防やまん延防止を取り決めた法律で、「公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進」が目的とされています。
(参考: e-gov法令検索「狂犬病予防法」

動物愛護管理法:
動物に対する虐待を防止し、動物の様々な種の習性に対応しながら人が共存していくことを定める法律で、2019年6月には飼い主にマイクロチップを義務づけたり、違反時の厳罰化をするなどの大幅な改正が行われました。(環境省「動物の愛護と適切な管理」

page top >