Topics >

仕組みのデザインを考える 〜卒業式と入学の挨拶より〜

2023.4.11

センター長が、仕組みのデザインについて、
九州大学芸術工学部工業設計学科の卒業式の挨拶と、未来構想デザインコースの入学時の挨拶で触れています。

工業設計学科の卒業式の挨拶

“工業設計学科の卒業式にて、心からのお祝いの言葉を贈ります。この晴れやかな日に、皆様が成し遂げられた偉業を讃えたいと思います。
工業設計学科では、創造性と技術力を磨き上げることが求められます。皆様もご理解の通り、ここで学んだ知識と技術が、現代社会の発展に貢献することでしょう。
そして、今日の卒業式は、皆様の努力が実り、新たな門出を迎える瞬間です。
卒業生の皆様、私たちは誇りに思います。未来の発展を担う職人、研究者、企業家として、皆様が輝かしい道を切り開いていくことを確信しています。 ”

これぐらいにしておきます、、、

今お話ししたのは、Chat GPTの GPT-4で、「“工業設計学科の卒業式の挨拶” 400字 高級感で考えて」と入力したら出てきたものです。
少しおかしなところもありますが、通り一遍の心の込もっていない言葉の挨拶文は、AIですぐ出てきます。そんな時代です。

一方で、この春(付記:2022年4月)の入学式で私は、今日と同じ青いシャツと黄色のネクタイをしていました。非寛容や分断による戦争は、まだ終わっていません。

私たちにとって、新しい技術社会と過去現在の問題を、よりよく同時に超えていくことが重要になってきています。

超えて克つ 超克 困難を乗り越え、それにうちかつこと、 戦う 勝利の「勝つ」ではなく、克己の「克つ」です。
その乗り越える方法を考えることが、しくみのデザインとも言えるでしょう。

おそらく皆さんが受験したはずのセンター試験(2019年)の国語の問題で、文化の差異や、翻訳の難しさや重要性が示された文章がありました。その中で、他の言語に訳しづらい日本語の慣用句「よろしくお願いします。」が紹介されていました。
「よろしくお願いします。」は、“ざっくりした言い方だけど、とにかくいろいろあると思うので、こっちもうまいことやるから、協力させて下さい” というようなニュアンスだと思います。

少なくとも英語とロシア語には直訳できる言葉は無い、と紹介されていました。深い多様なニュアンスがある言葉ですが、必ずしも通じ合えるとは限らない、そんなことを考えながら、私達は必ずしも一貫性を持って生活しているわけでもなく、定義に従い生きているわけでもありません。より適切な、曖昧な境界線や関係を作りながら、見えぬ未来と異なる文化や社会を理解しながら、新しい知恵や知識で、より良く超えていくこと、私たちはこのような新しい仕組みをデザインしていかないといけないのかもしれません。

新しい環境・ミリウ(※)で、無理をせず、たおやかにお過ごし下さい。

本日は、おめでとうございます。ここまでの挨拶は、本当に私なりに皆様のことを思い、考えたものです。AIが考えたものではありません。

これからもよろしくお願いいたします。

ミリウ(Milieu)
フランス語で「中間」や「環境」という意味で、西洋諸国では「社会的環境」を指す一般的な言葉として用いられる。「ミリュー」と表記されることもある。


未来構想デザインコースの入学時の挨拶

みなさん、ご入学、そして、4月1日を過ぎましたので、みなさん成人おめでとうございます。

未来構想デザインコースの尾方です。これから4年間、また、どうか大学院まで含めて6年間、よろしくお願いいたします。

さて皆さんは未来構想デザインコース(2020年度に設置)の4期生です。今年ようやく、初めて4学年が揃うという、大変喜ばしく、記念すべき学年です。また芸術工学部の56期生になります。

さて皆さん、これをみて気づくこと、思い出すことはありますでしょうか。3ヶ月前の出来事です。推薦で合格した人は知らないかもしれません。

今年(2023年1月)の大学入試共通テストで出題されたトピックスです(番外編コラム参照)。未来構想デザインコースが仕組みのデザインとして、対象にしていること、考えていること、関係することがたくさんあり、大変驚きました。

コルビジェ自体は、デザイン史に出てくる重要な存在であることはもちろんですが、視覚の意味、視覚の生命力というアプローチは未来構想そのものであります。

また、演劇というトピックスも、いくつも出ていました。未来構想デザインコースは、演劇や演技そのものを勉強するところではありませんが、人の気持ちを考えたり、ストーリーを構築するために、演劇やシナリオの技法や手法を使って考えていこうとしています。親ガチャ・貧困・ジェンダー・SDGs・国際問題なども、私達が考えていく対象です。高校での学習や普段の生活とも関係する、大変身近な問題でもあるのです。

そのために未来構想デザインコースではこのような3つの分野を勉強していきます。

社会構想という文系的アプローチ、生命・情報科学という理系的アプローチ、アート&デザインという芸術・創造的アプローチです。

この3つのアプローチは少しずつ変遷はしていますが、56年前から、そして、芸術工学の全てのコースで、同じ考え方です。

特に2年生からの授業は大変だと思います。心地よい混乱をもって、新たなことが必ず創造されます。

先程の図の話ですが、ベン図のように3つの輪が重なるのではなく、一本の紐が融通無礙(ゆうずうむげ)に伸び縮みしながらも、それでもトポロジーはしっかりと同じというような関係をつくってることをイメージしています。

もう一つ、他のコースとの関係を示しておきます。私の考えですが、未来構想デザインコースは、多くの既存のデザイン領域が重なっているところと、これまではどこにも重なっていないところ、そこが対象の目安だと思っています。

これまで、問題や解決対象そのものが、デザイン対象でした。

しかし、社会や地球・環境・老い・性などは、それ自体を変えることはできません。そのため、仕組み・考え方や意味・制度・枠組みなどを新しく創っていく必要があるのです。ですので、未来構想は「しくみをどう創っていくか」が重要な対象であり、方法です。

もう一度先の図に戻ると、仕組みをどう改善するか、仕組みをどう新しく創っていくかがポイントになると思っています。
そのため、未来構想デザインコースではたくさんの授業を用意しています。
専門の授業の多くは2年生からですが、課題や目的に対して一つずつ積み上げながら学習していくタイプのカリキュラムと、まず課題にトライして、足りない手法や概念を学習していくタイプのものがあります。入学式の総長の言葉を借りれば、「蘊奥(うんのう)を極め、修養を広く」ということだと思います。

難しいところもたくさんありますが、新しいデザイン教育や学習に私達教員もトライしています。

未来を作るために、思考法、設計法、事実を見る方法を学習していくのです。

おかしいと思っていた仕組みの改善

あってほしい社会を導く仕組み

を考えていきます。

さて、一つ事例を挙げます。
3月に開催された野球の大会で、世界では第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、日本の甲子園球場では第95回選抜高校野球大会(通称:春のセンバツ)がありました。
メジャーリーガーでありWBC日本代表のヌートバーが行う「ペッパーミル・パフォーマンス」は絶賛され、同じパフォーマンスをしたセンバツの高校生は審判から注意を受けました(番外編コラム参照)。これは、なぜなのでしょうか。

たくさんの問題がありますが、「考えが古い」「高野連(日本高等学校野球連盟)がおかしい」と言ってしまうことは簡単です。対立的に考えるのではなく、どうしてその考え方が出てきたか、背景やプロセス含めて考えていくことが大切で、新しい仕組みのデザインにつながります。

私の高校の先輩の言葉を借りると、

私達は四角い硬い一律の壁のような存在ではありません。小さな穴のたくさんあいた、壊れやすい染み込みやすい柔らかい卵のような存在です。互いに寛容し合う仕組みを考え続けることが、未来への仕組みのデザインだと思います。「問題は何か」を突き詰めていくセンスと、対立ではなく本質を探す気概が必要です。

さて、これが最後です。

みなさん、こちらの『ダークホース』という本、もう読まれましたか?(付記:2023年度の1年生全員に、九州大学名誉博士のロバート・ファン先生から『ダークホース』という書籍が配られています。)

ダークホースとは、力を秘めた馬のことです。

また、思いもよらぬ力を発揮する人物のことです。

みなさんのことです。

これからよろしくおねがいします。

page top >